王国から独立宣言した都市、アルセイデスの宿の極上の一室。魔剣フレイムタンを手に入れ、竜騎兵となった青年大道芸人フェイクと女学者トゥルースは、無事に助かった仲間、無頼のスティールに元兵士のドグとの再会を祝い、まだ傾いた日は赤くない内から葡萄酒で乾杯した。

 ちなみにフェイクの騎竜スレッジは、都市の住民を脅かさないよう、外の森の中へ隠してある。無線機『耳』で簡単に連絡できる。

 この上なくたぐいまれな力を身につけたというのに、フェイクは不満もあらわにぼやく。

「あのバーンが竜騎兵、しかも第四師団第二旅団長になるとはね。戦争、か。生きていくのに戦いしか知らないのでは、人格的な『人間』として不完全であることを自覚しないのかな。ぼくら芸人は違うよ」

 トゥルースは微笑んで好意的に同意した。

「私も同感よ、フェイク。でもスティールやドグのような戦士は、不器用にしか生きられないもの……愚かしくとも。たいていの戦士は死に場所を探して戦うものと良く聞くわ」

「たいていってことは、例外もいるの?」

「生きるために戦うものこそ、真実の戦士。それも自分だけでなく仲間、敵の生きる道すら求めるのが理想とされる。もちろんこんな戦士極めて稀だけれど。普通の兵士は死にたくないだけに戦うから、これとは色合いが違うものだし」

「名誉に生きることこそ騎士というけれど。現実は武力で民衆から搾取していたのが士族貴族王族連中だ。大道芸人は伝説の太古、河原乞食と呼ばれていた。いま花型の大役者が顔を利かせるのとは大違いだよ」

「芸人の伝承は確かね。切れ切れの断片的な知識とはいえ」

 スティールとドグも無言で肯き、同意した。

「それにしても、聖剣アイシクルをソード・ケインが奪った……否、真実の所有者とは驚いた。ぼくも魔剣フレイムタンを手にしたけれど、真実の持ち主ではない。ケインはどう動くのかな……」

「解るでしょう? 真の主が現れたのに、飛竜の乗り手とならないということは」

「ああ、ケインはアイシクルを封印したか。戦力不安だね」

「いいえ、あのシオン閣下なら。有能で屈強、勇猛な騎士団長が解放軍の主力となる。数は正規兵なら決定的に劣るけれど、住民で王国に協力するものは少ないはず。多くは日和見ね」

 フェイクはらしくもなく意見していた。

「ならばここで少し扇動すれば、武装蜂起するものもきっと出るな。役者の演技の見せどころだ。脚本はトゥルースに書いてもらうよ」

「いまはそれだけしか望めないわね。けれどやはり、戦争は最後の手段……それも城攻めとは下策中の下策よ。戦乱なくして、王国を再統一できれば最善だけれど。敵国を無血開城させる逸話は、過去の戦史に何回もあることだし」

「でも、そんなこと可能なの?」

「金が有ればなんとかなるかも」

「ああ、お金か。世知辛いね。金で民衆を従属させようといって、そんなのほんとうの絆と呼べないよ。大義がなければ」

「聞いて。経済面で、アルセイデスが王都より豊かに栄えれば。重税を課す王国を見限って独立し、アルセイデスへの同盟を求める都市や村が現れるはず。この都市の後ろ盾には大商人アンカスさまがいるわ。彼は吟遊詩人にして反王国の大衆指導者、カルトロップさまの盟友と聞くし」

「なるほど、働く者に正当な代価を与えるわけだね。でもなにをすればよいのかぼくには解らないよ」

「まずは街道を整備し、交易路を快適にする。巡視員を配備し安全にする。要所に橋を建設し、交通の便を良くする。街道には商人その他の旅人が休息できる宿場村に投資し、防衛力をつけ盗賊の類を防ぐ。港も同じ。さらに商人と役人に倫理守らせ、贈収賄の汚職を取り締まる」

「でも、それ自体がお金かかるのではないの?」

「これらを行う労働者は、職にあぶれた難民流浪者から雇うのよ。雇用の口が広がるし、犯罪も減るはず。盗賊や乞食に身を落とす人を救えるだけで、他の住民から一目置かれる治安のよい都市になるわ」

「そうか。みんな幸せになる筋書きだね」

「これらをまさに統率し実行するのが、アンカスさま。発案はカルトロップさまよ」

 ドグは満足気だ。元王都警備兵としては、理想的な筋書きだろう。だが、野外生活長いスティールには実感の解らないものであったが。

 

(続く)

 

後書き 『自由航路』とネタ被り、というか並行して物語は進みます。行き当たりばったりですが、なんとか前作の『竜騎兵、飛翔』にたどり着くように。