格闘少女組みの四人は、あえて新たに格闘の技を身につけることは止めにした。いくら格闘技に優れたって、行い想い伴わなければなんにもならないのだ。素のままの自分で戦い抜く! 逢香は剣道使い、真理は薬物使い、千秋は魔法使い、瞳は合気道使い。この現状のままで!

 しかし千秋は弱音を語る。「勝てるのかしら……私たち四人掛かりでもあの時雨ちゃんに」

 瞳は指摘した。「スポーツとかのトーナメント競技は、『優勝しなければ意味はない。毎回二位で終わるなら、初回戦で負けろ』とされるくらい過酷ですからね」

 逢香も語る。「だって、プロスポーツ選手って儲からないのよね。儲かっているのはスポーツの中でも人気競技の、果てしない競争を勝ち抜いた一部の人だけ。さもないと収入はゼロ、もちろん練習に訓練に時間奪われるのだから、好きで楽しんでするのではなければ無意味。どんな世界でも一流は稼いでいるだけの話ね」

 真理も語る。「農業を馬鹿にする人多いけれど、そんなやつらに農家の仕事が務まるものですか! 栽培や酪農に必要な知識はたいへんなものよ。素人に務まるはずがない。漁業もしかり。極めて危険な仕事。収入は良いらしいけど」

 千秋も意見する。「作家とか芸術家とかミュージシャンとかの世界もそうよね。プロの九割がフリーター以下の稼ぎしかない。この世界の『紙』も昔イベントで六、七名の共同冊子を作り販売したところ、一部百五十円で全百五十部完売したけれど、交通費と食費だけで赤字になる程度しか稼げなかったわ。嗚呼『紙』ペラペラのアマチュア……私たちがその産物なのが痛い」

 真理は論点を突いた。「その鬱屈した『紙』の、真意こそが決め手かも。現に、私たち四人は秀でている面こそあれ普通の人間。まあ魔法を使うときの千秋ちゃんを除けばね。対して時雨ちゃんはまさに超越したスーパーアンチヒーロー」

 逢香はふと気付いていた。仲間に語る。「生い立ちかしら。私より十六センチも背の低い時雨ちゃんが……少年期体力でほぼ決まる男の世界で生きていくのは、どれほど大変だったか。道を逸らしてしまうのも解る。きっとただ光に怯えてしまっただけよ、立ち直れるわ」

 真理は肯いた。瞳と千秋と視線を交わし、真理は言った。「迎えにいきましょう、ほんとうの強さを持つ彼に」

 そして四人は破壊された街並みを数十メートル歩き、時雨、シグレーターデーモンと対峙した。変わり果てている。身長こそ小柄だが、筋肉の塊だ。そして背には輝きの堕天使ルシファーのような六枚羽根……全身が純白のスーツを着込んでおり、禍々しいどころか神々しい光を発しているのが無性に切ない。

「時雨ちゃん、私……」千秋は涙目で語り始めた。「ずっと貴方に恋していたのに。心を開いてくれればいつでも味方でいてあげたのに。でももう貴方の目覚めを待ってはいられません。『萌』なき力は力有る悪魔を生み出すわ。それがいまの貴方よ、時雨ちゃん……力有る悪魔を生かしてはおけません」

 真理は指摘した。「ちょっと千秋ちゃん、それ二次創作入っていない? 古典的名作のどこかで聞いたようなセリフが完全誤用されているわよ!」

 逢香も指摘する。「生かしてはおけないって、ジェイルバードの掟に反するわよ! なんとしても生かしたままデーモンだけを封じないと」

 瞳は警告する。「来るわ! 攻撃の吐息。避けて!」

 千秋は「了解!」と即答した。次の瞬間。

 雷光どころか光線そのものが、四人の身体を貫いた……かに思えた。しかし、なぜか光線はいったん命中した身体をそれ、みんなまるでダメージを受けなかった。それどころか逆回しに動きが戻る?!

 敢えて似非物理学用いるとすれば、光より速く動けるなら、時間も遡行するわけで、完全な回避が実現できる。光より速いのならその物質の存在はダークエナジー、虚数の熱量そのものだ。なんて究極な戦闘! この力の前には格闘技なんて無意味な児戯だ。

 その『児戯』を時雨相手に繰り返す。四人掛かりでひたすら殴る、蹴る。文字通りの過激な殴打だった。時雨の反撃はすべて時間遡行で無効化できた。しかし、時雨の肉体は痛々しく傷ついていくし、四人の消耗も激しかった。千秋は苦悩に涙していた。

 瞳はやっとの声を漏らした。「もう限界です! 私たちだけでなく時雨さんにとってもこれ以上は破滅です。ここまで追い込めば、後は千秋さんの愛、絶対的な魔力に任せるしか……」

 真理は問う。「いいの? 逢香」

 逢香は断言した。「古来の兵法の常識では、敵を包囲するときは逃げ道を開けろ、よ。常に最前線に立つな、地雷原を歩くときは一歩譲れ、もまた名句。祈りましょう、みんなで。千秋ちゃんの想いが、時雨ちゃんに届くように……」

 祈りは願いは祝福は、誰もが欲している愛と平和。自由と権利。ただそれだけ……後は地雷に巻き込まれないよう離れて、千秋と時雨の様子を窺うだけだった。

 時が巡る、時空の鎖が枝分かれする……逢香、真理、瞳の三人がこの時空で最後に目にしたのは、衰弱し倒れた千秋をお姫様抱っこする、優しい好青年時雨の姿だった。悪魔の六枚羽根は砕け、雪の様に舞い散っていた。

 

(終)

 

後書き 格闘少女と名乗りながら、ほんとうの格闘技の技はほとんど描かれませんでしたね。この辺りは拙作『ステイルメイト』の「力」とはなにかについて過去記しました。最後まで乱文をお読みくださり、ありがとうございました。