変わらず逢香、真理、千秋、瞳の四人。レストラン内。不安の中にも日は暮れた。
逢香は事態の深刻さに、真剣に語った。「直人の消息が途絶えた……忌々しき事態ね。ここは時雨タン悪魔を、いまの私たちの力だけで封じなければいけないのかしら。いけないのはあくまで悪魔。あ、日本語おかしい。とにかく素の時雨ちゃんは罪が無い」
「時雨ちゃんを道逸らせたのはもちろん私。ああ私、罪な小悪魔……」千秋は自分に酔っているらしい。
真理は仲間に語っていた。「よくよく状況を考えたのだけれどね、これっていじめぢゃないかしら」
千秋は笑い飛ばした。「直人さんのことなら心配いらないわ。仮に死しても生理食塩水蘇生機一夜漬けの、保険十割負担でも費用五十円で生き返るわよ、泰雄ちゃんみたいに」
「直人のことじゃないわよ。時雨の方」
「え、なにがいじめなの?」
「だって私より背が低いし、千秋ちゃん一人にビビって逃げ回っているような時雨ちゃん相手よ。私たち四人組では完全な袋叩き弱いものいじめの典型例!」
「真理さんは知らないのね。時雨ちゃんは弱くないわよ。それどころか最強の天下無双じゃない。生まれてくる時代を間違えたまさに武将、闘将、猛将よ。必ずしも名将ではないし、知将でないにせよ」
逢香は意見した。「それに愚将であれ匹夫の勇ではないのが時雨。仮に愚行だとしても必ず正面から戦い粉砕する。まさに男の中の男、『漢』。日本どころか、西洋中華世界問わず歴史伝説上の英雄と戦える」
瞳はもう疲れ切った様子だ。「空にあっても一機一個中隊に匹敵する撃墜王、それが私の知る時雨ちゃん。検索したところ、それがデーモン化したことで、悪魔の六枚羽根を背中に有したわ。炎に毒雲に稲妻吐くし。もはや機動歩兵。ハインラインもびっくり。いまどきのガンダムは語りつくされたオマージュにリスペクト作ばかり。焼き直しの焼き直し、文化足踏みしているわ」
千秋は能天気に言った。「機動歩兵か。それは好いわね」
このセリフに凍りつく、逢香、真理、瞳だった。しかしもはや手遅れだった。
「あ~っ、その機動歩兵だが」突然割り込む男の声がした。「某大国の国防総省から最新鋭パワードスーツを、一個小隊六機強奪した。俺で好ければ手助けしてあげるが?」
見れば店外に、全長二メートルほどのアニメめいた人間型乗り込み式ロボットが!
千秋は驚いている。「泰雄ちゃん! 昔の計画成功したのね。ありがとう、これなら私たち無敵よ」
「感謝されるまでもない」フォーマルなビジネスマンスーツ姿の、身長177センチの痩躯な泰雄は軽く告げた。「何故って某大国の敵兵もたくさん連れてきた。一機二千万ドルする人形だからな」
はっと端末ナビを確かめる四人だった。高出力人間大機器、時速十数キロで数十機接近!
千秋は呻いた。「泰雄ちゃんが馬鹿なことは知っていたけれど……え、これも私の魔法故?!」
真理は声を張り上げた。「ただでさえこの国は外交的に摩擦大きいのに! 世界大戦を始めるつもり?」
逢香はぐったりとしている。「ジェイルバードの男はこれだから! 救い難いわ」
瞳は泣いて嘆いた。「たしかに時雨ちゃんデーモンは危惧していたけれど、世の中に私そこまで絶望していなかったわよ!」
泰雄は気軽に言った。「ぼやかないで、全員マシンへ乗り込め。回り込もう。追っ手の機動歩兵と俺たちの間に時雨を挟む。せいぜい派手に戦ってもらうさ」
逢香と真理は不服だったが、機体へ乗り込んだ。瞳は先程こそ泣いていたものの、疲労から半ば居眠りしている。怒りから一転、喜んでいるのは千秋一人だ。
逢香は静かに告げた。「国際テロリストの主犯の役は、泰雄、貴方が取ってね」
泰雄は意に介していない。「こうも非日常が続くと、倫理観なんて軽く崩壊する。まだ自我を保っているとは、きみたちの精神力はたいしたものだな」
ガッシャァアアアアンン!! とここで派手に金属音が響いた。見れば、四人組でも泰雄でもない六機目の機動歩兵が、追っ手の機動歩兵を投げていた。
通信が入る。「SDF三佐の大地っす、よろしくっす。機体データ解析に派遣されたっす。それにしても、敵機は骨が無いっすね! 単に力にかまけて技を失しているっす。ああ、追っ手の機動歩兵は全機遠隔誘導の無人機っすっから、派手に倒してオーケーっすよ!」
かくしてやみくもに乱闘が始まった! 機動歩兵は武装していないのが救いではあるが……
逢香のサマーソルトキック、真理の平手裏拳左右コンボ、千秋の猫だまし、瞳の絡み投げが炸裂した。
(続く)
後書き ガンダムの原作と呼ばれる『宇宙の戦士』ハインライン著は読むべし! つ~か、これを右翼的だって言って、中身を読んでもいないのに嫌悪し否定する自称リベラル学生はいけませんな。対して、これの映画版はマジ痛かった。製作者確信犯アンチ保守か!? 右翼を馬鹿にするギャグにしか見えなかったが……ま、私の眼が節穴のためだろう。