新都心繁華街の路上。男二人相手に女四人での『ストリートファイト』が終わると、面白そうに見物していたヤジ馬どもはがやがや言いながらたちまち散って行った。

 『敗北』した(一度死んでから蘇った驚くべき男)直人はおとなしくしている。涼平は路上にぐったりと寝ていたが。

 倒れている涼平を半身起こすや、瞳はカツを入れ、気付けをかました。涼平は意識を取り戻した。

 涼平はやれやれと語った。「……あ、完敗だ。俺としたことが不覚……いまさら言い訳だけどね。瞳さんのパンチくらい腹筋で弾けると思ったんだ。甘かったよ、あんな重く鋭い一撃」

 瞳は訴えた。「涼平さん、空手技教えて!」

「え、空手なんて所詮スポーツだよ。そのスポーツに徹するなら、女性は不利だね、どうしても非力だから」

「ではスポーツではないって……実戦?」

「そう、実戦なら力にせよ技にせよ、さして空手には必要ない。急所を一撃すればどんな巨漢も倒れるよ。その典型的な例が、先の瞳さんの放った水月、みぞおち。もっともここは腹筋で鍛えられるから、腹に気合入れていればまず平気なはずだったのに」

「急所か……そこを突けば」

「相手にガードされない内に突くのがポイントだ。水月は腹筋固めていないとマジ痛い。もっとも腹を殴るのは女性にはタブーだ。子宮破裂なんかしたらことだからね。もちろん顔だって手足だって女性に乱暴はいけない」

「合気道では、相手の手を捻って横転させるか、捩じ上げるのが主眼。打撃技での急所は習わなかったわ」

「格闘技では教えてくれない影技だけれど、主な急所は人体の全面、中央部を縦断している。金的はいうまでもないが、顔面は特に弱い。あご、口、鼻、目に耳。例外的に額は頑丈な上、さらに丈夫に鍛えられるけれど。後はこめかみと延髄、喉笛も急所だな。ハイキックなんて無理にする必要はまるでない。低い蹴りでのすねもかなりの急所だから。その点、心得のある者同士の試合は寸止めルールでない、顔面以外のフルコンタクト空手であれ、あまりダメージは受けない」

 ほうほうと、肯く四人であった。ここで格闘少女四人組みは、格闘技における人体の急所をマスターしたのであった。いささか危険な一行である。涼平は説明を続けた。

「……単純に喧嘩技をするなら、髪をつかんで頭を引っ張り下ろして顔面にひざ蹴りいれるとかが手っ取り早い。敵が組んでくるそぶりを見せたら、突き出された手の指掴んでへし折ればもう戦闘不能だ」

 逢香は嘆いた。「ひどい残虐なのね、とてもスマートともジェントルとも言えない。たしかに剣道も所詮スポーツだけど」

「実戦は一撃秒殺さ。派手な格闘スキル身につける理由は無い。一見華麗な回し蹴りなんて訓練を積まなくては無理なのに、たしかに衝撃力こそあるけれどアクションの大きさから、敵が付け入る隙ができる。スタミナの消耗も激しいし。素人相手には単なる突きと払いだけで十分だよ」

 瞳が深刻に告げる。「それが、相手が素人とはいかないのよ」

 涼平は尋ねた。「ほう、誰を相手にするんだい?」

 千秋は答えた。「最終的にはデーモン化時雨ちゃんの予定」

「俺は降りさせてもらう! あんな化け物相手にできるヤツいないよ。モンスター狩りは俺の仕事に入れていない」言うや涼平は早足で去って行った。

 瞳がはっと言う。「涼平さん、私たちに格闘技での急所は教えても、空手技は教えてくれなかったわね」

 逢香はやれやれと語る。「そこが涼平漢の所以」

 真理は問う。「意外にも直人は逃げないのね」

 直人は余裕の素振りだ。「おれは銃持っているからね。どれだけ格闘技に長けても、銃に敵うヤツはいないさ」

 真理は指摘する。「でも直人の持っている銃は、ほとんど人畜無害のモデルガンじゃない。例外はリニアスナイパーライフル・サヴェッヂだけど、生き物相手には使わなかった」

 瞳がふと言う。「私が涼平さんから貰ったシャウト・デリンジャーを作ったのって、直人さんだったのね」

 ここで逢香が慌てた素振りで、真理と千秋に耳打ちした。瞳は驚いて語る。「あの伝説の先輩が?」

 千秋は丁寧に直人にお辞儀をした。「直人さん、ここは後をお任せます」

「え?」きょとんとする直人。

 真理はさらりという。「こんなに早く、ラスボスのグレーターデーモン化した時雨ちゃんが、格闘少女戦隊の敵として接近しているのよ! いまの私たちに敵う相手じゃないもの、迎撃時間稼ぎよろしくね」

 直人は顔面からみるみる血の気が失せていた。「そんな! おれ一人であの悪魔を倒す魔王を!? 真理、逢香……待って、非常時に協力し合うのがほんらいのジェイルバードの存在意義じゃないか! ひどい、薄情者!」

 

(終)

 

後書き かくして弱肉強食のサバイバルは無情に続きます。直人、きみの犬死には無駄にはしない。焼肉定食は今回無縁です。コラボ作でないのであの食材が出ませんから。