東京の彼方から飛んでくる五百ものミサイルの群れは、まさに涼平たち新都心のちっぽけな三十騎あまりの竜騎兵隊を爆発四散させようとしていた。

 逢香は嘆く。「こんなときに、魔言ちゃんがいてくれたら……マスター、私たちの魔王が」

 知己も祈った。「神無月真琴、魔王さま、お願い! 私たちを助けて」

 千秋はきょとんとしている。「魔王さま?」

 ここまでか……!? 端末情報からミサイルロック警報が消えた。ミサイルはどうした……まさか!

 それはあっという間の出来事だった。ADI竜騎兵の群れが一瞬にレーダーから消えた。彼方に多々の閃光が貫き、爆音が遅れて轟いた。敵の竜騎兵が、敵自らの発したミサイルを受け全滅?! やった、勝ったのか、しかし。

 ひどいな……いくら敵とはいえ三百騎もの竜騎兵を虐殺か! 乗り手はともかく、竜にはなんの罪もないのに……こんなものは、一方的な殺戮だ!

 逢香は感嘆と息を吐いた。「ミサイルの目標を変えたのね! こんな真似ができるのは……『0』以外にいないわね。私たちのマスター、魔王神無月真琴」

 直人はさらりと言う。「ゲーム・オーバー。見事な逆転カウンターノックアウトだな。涼平騎はおれが落としたことに申告したよ。スレッジの業火なら敵竜は跡形もなく焼きつくせるからね、証拠は解らない。これでADIから回された資金でざっと五億ドルの儲け……おれたちの命懸けの仕事が、最新鋭戦闘機五機分と思えば安いな。みんなに感謝するよ。真理に大地も承諾済みだ」

「おい、直人!」詰め寄るが、大地が割り込んだ。

「九割は慈善団体に寄付するっすよ。その残りをみんなで山分けしようっす! 一生遊んで暮らせる額っすが、一生遊ぶなんて誰だって当たり前っす」

 言葉を失う涼平に、真理が語った。

「人生とは巨大な迷路なのだから。入り組んでいて、残酷な罠仕掛けられた深く高く広い迷宮。ミステリー小説映画の世界だけよ、謎がすべて解けるのは。どんな学問分野の一つだって、完成された試しが無い」

 事実に戦慄した。「直人、真理、大地。おまえらは、敵を騙し誤誘導させるためだけに大芝居打ったというのか!」

「そうだよ。本来、ジェイルバードは欺瞞に対抗するレジスタンス、ADIなんて存在許すはずないだろ」

「埼玉の王子さまとやらの件は、謎に終わったな……ん? 直人は知っているのか?」

「それは真理が作った創作だ。もっとも完全な作り話ではなく、現実とリンクさせる一見美味しいエサの布石を多々敷いた二次三次創作だ。涼平を王子様の後見人としてね。埼玉に王子なんているものかよ。ならば八王子には八人の王子がいるのか? だがこの世界に疎いADIはまんまと乗ってきた」

「良くできたシナリオだな、真理にはミステリー文学の才があるよ。まさかの王子の後見人か、俺の賞金額が跳ね上がるわけだな」

「ああ、これですべては終わった。涼平は生真面目すぎるよ。シナリオは完全におれの思惑以上だ」

 涼平は悟った。ここで時空が分離する! 自分の望みの行先は、こんな戦禍の無かった現代だ。ここの世界の狂気を教訓にして、平和に努めたい。大地に命じる。「大地、プリーズ。ビーム・ミー・アップ・アト・オール・ビフォア」

 大地は驚いている。「この戦役の無かった時空世界へシフトっすか?! それでは金は手に入らないっすよ、戦いの武勲も消えるっす。マジっすか!?」

「だが、ここの戦役で犠牲となった敵味方民間人にドラゴンが無事に生きていられる時空だ。俺は満たされているよ、それで十分だ」

 直人は苦笑した。「頑固だな、金より人命と平和か。異次元の交差点でまた逢おう。現代の侍、涼平!」

 ジェイルバード……仲間のみんなが口々に賞賛の声を上げる中、涼平は一人すべてに満足すると、時空間シフトランチャービームに包まれた。

 

(終)

 

後書き 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。支離滅裂に終わりです。なまじ万能無敵キャラを作ると世界は破滅します。優秀ではあるけれど、等身大の人間に過ぎない涼平が苦悩に葛藤し、命張って闘う姿が注目に値したとすれば成功です。