涼平は騎竜シザーズの飛ぶ上空から、茫然として眼下の惨劇を見詰めていた。敵侵略者との決戦を前に、伝説の『漢』、時雨がまさか小柄な女の子千秋の一突きだけで倒されるなんて!
「言うは、ショック! ♪愛するきみ~は指先一つで~っ。ダウンさ~♪」陽気に前世紀世紀末のアニソンを歌いつつ(いまの世代の女子大生が知っているアニメか?!)、千秋は倒れた時雨を背負おうとしているが、重すぎて無理らしい。
って、男を連れ去ってどうするつもりだこの娘……あまり聞かないが、これって犯罪だよな、たぶん。理系な涼平は法律に疎かったが、悪の道に進もうとしている人を見かけたら、止めてあげるが愛だと思う。
問う。「逢香……時雨が倒されるなんて。千秋ってなにものだ?」
「魔女よ。困ったものね、時雨ちゃんにはこれからさんざん活躍してもらわないといけないのに。警備員総監だものね、民間人の安全を確保する責務がある」
千秋は能天気にも声を掛けてきた。「誰か、時雨ちゃんを運ぶの、手伝ってくれない?」
現場に急行し、地に降りて確認する涼平。「心肺停止しているぞ! 瞳孔が開いている! 時雨死んでいるぞこれは!? 死んだものは二度と決して生き返らないんだぞ!」
千秋はとたんに涙目になった。「そんな……私の時雨ちゃんが……」
逢香はさらりと言う。「大丈夫、ザ●リク唱えたら生き返るわよ」
千秋はとたんに、ニコッと笑った。「そうね、ザ●リクザ●リク~私の時雨ちゃん生き返れ!」
信じ難いことだが、時雨は息を吹き返した!「千秋ちゃん……僕を……殺さないで、お願い……」
涼平は壮絶な現実、否非現実の前に、ぐったりと話した。「逢香、なんとかの扱い得意なんだな」
「ジェイルバードは愚者の群れですもの。これくらい序の口よ。あ~それよりも、まだ強敵が残っていて。厄介な。侵略者のドン」
ここで端末にイレギュラー回線での強制割り込みが入った。直人、真理、大地!
直人は皮肉に嗤った。「ゲーム再開だ、ちっぽけな哀れな戦士諸君!」
真理はさみしげだ。「ごめんなさい、他に選択肢はなかったの、逢香」
大地は力説する。「ドンは恐ろしいっすよ! そりゃ誰だって一見すれば解るっす。巨漢で冷血、根拠の無い自信に満ち溢れ、異様なオーラを放ってるっす。とにかく常人ではないっす。自らを皇帝、エンペラーと名乗っているくらいっす。きみらにとうてい勝ち目は無いっすよ! いまそっちへシフトさせるっす! 早いうちに降伏したほうが良いっすよ」
千秋は怒った声を上げる。「負けるものですか、エンペラーだか、天ぷらだか知らないが!」
時雨は息巻いた。「天ぷらなら、残さず食べてやる! 他の雑魚どもとまとめて一飲みに」
千秋は怒鳴る。「雑魚なんて、ちんぴら極道だか、きんぴらごぼうだか知らないが!」
時雨は吹く。「きんぴらごぼうなら、残さず食べてやる!」
時雨は完全復活したな。それも、全力ガチモードに入っている。と。
一条の天からの光線とともに、フォーマルなスーツに身を包んだドンとやらが現れた。身長軽く二メートル越すな……レスラー体躯の男だ、体重百三十キロはあるだろう。こいつはやっかい……!?
時雨はそいつ目掛け一直線に疾走していった。中学レベルの簡単な力学だな。力=質量×速度の二乗。軽量でも加速した攻撃の方が、衝撃力は格段に強くなる。で、高く跳躍し、ドンのあごに浴びせ蹴り一閃。
……この一撃でドンとやらは酔っぱらったようによろめくや、どうと倒れた。時雨の力量なら一撃か……どれだけ図体がでかくても、ほんものの『漢』には敵わないのだな。
後は簡単、新都心の竜騎兵隊総出撃でADI竜騎兵を迎撃するだけ……敵は無能揃いだ、数だけ多くても恐れるに足らない。
空を確認する。妙だな……端末に反応。レーダーにはるか遠方の敵影がくっきりと写っている?
空に付着性の電磁波反射物を撒かれたらしいな。なんだこれは、竜騎兵に付着したら飛べない! 直人の仕業か……悪辣な!
これは過去例を見ない最大の脅威だぞ!? 竜騎兵出撃は自殺行為だ。
竜にはミサイルは通用しないのが今までの常識だった。レーダーロック、赤外線ホーミングとも。ステルス戦闘機並みにレーダー反応が小さいし、熱を帯びないため赤外線ホーミングは通用しないからだ。
その常識が破れる! 法則とは破られるためにあるとは名文句だな。やってくれる!
警告した。「逢香、知己。すべての竜騎兵を着陸させろ! 危険だ、俺たちは罠にはまった!」
間に合わない! 端末に反応、シザーズがミサイルのレーダー照射を受けている! 他のすべての味方竜騎兵にも、対空ミサイル群多数、急速接近!
超長射程の撃ちっ放しフェニックスミサイルが五百発だと!? 対応できるはずはない! オーバーキルだ。ミサイルの無駄撃ちだ。それだけのコストがあれば、新都心の竜騎兵はみんなまとめて軽く買える。
ここで……終わるのか。竜騎兵の仲間、みんな助からないのか。民間人も多々犠牲者が出るのか。すべてミサイルに粉砕されて……
(続く)
後書き とんだピンチを迎え、クライマックス。このストーリーも後一話です。御都合主義にも暴走しまくるなあ……