開戦から二時間が経過していた。朝まではまだ六時間はある。私、千秋こと一行はグレーターデーモンの群れと格闘していた。ゴキブリはしぶとい! 仲間はみんな消耗仕切っていた。何千匹も倒しているのに、まだ1%もゴキブリデーモンの群れを削っていない。これでは身が持たない……
しかし逃げることもできない、敵の群れはすっかりナックルファイター機を包囲している。もし侵入を許したら、徒歩で生身の退魔師コウたちが危ない。気を引き締めて……気弱になったら負ける、体力気力努力勝負! この体力気力がいつまで続くか……
突然ドーハン機が倒れた。魔法の使い過ぎで気力持たなかったか。侵入される、ヤバい!
大地から通信が来た。「時空間移送で、一時退却してはどうっすか? 都市シントが襲われるでしょうっすが……」
三好は反対した。「私たちだけの安全のために、街の民間人を危険にはさらせないわ!」
「シントには交代要員に石田と浅尾とかがいるっすよ。ジェイルバードアナザーデッキはまだ多々あるっす。本当は戦勝祝賀会宴会担当に招いたのっすが……」
コウら三人は禊に祓いに祈祷を行い、デーモンの群れを押しとどめた。セオとアレスが治癒魔法を使い、ドーハンを起こした。まだ戦えるけれど……限界は見えてきた! あれ?……
ゴキブリデーモンどもは、突如崩れ去って行った。作動した通信機に、映像が飛び込む。ビジネスマンのシックなスーツ姿の小柄な青年が単騎、巨大デーモンの上を軽やかに走り飛び移り、親玉の『帝王』デーモンの頭に飛び掛かる……秒殺の全滅!?
グレーターゴキブリデーモンタイクーンを生身の素手の一撃で! こんな真似ができるのは、いくら世界広しといえど……『彼』しかいない!
一同はその『漢』に注目していた。アナザーデッキ隊員にも、多々知人がいるらしかった。格闘技無双、マンチキンの王道を歩む警備員、通称時雨!
時雨は軽く言う。「デーモンタイクーン戦なら、過去経験があるからね。同じ手を二度と喰らう僕ではないよ。ま、これで私用は済んだ。帰りたいな、もとの現実現代へ」
「時雨ちゃんありがとう! まさか助けてもらえるなんて夢にも思わなかった。」
「今回は何故か千秋ちゃんいつもと違うね。『私を愛しているんでしょう?』が常套句だったのに……」
「私そんなこと言ったこと無いわよ。四年後には語っているの、より強くなった四年後の時雨ちゃん?」
時雨はきょとんとしていたが、ややするとはっとした様子で語り出した。「あれは夢じゃなかったんだ! 過去の借金地獄の最中、妙な依頼を受けた……ようなことがあった気がした。そこで僕はなにか手違いで元の世界へ直帰してしまったのに、依頼金はちゃんと振り込まれていた。なにも働いていなかったつもりなのに。千秋ちゃんのおかげだったのか! 感謝仕切れないよ、あのときは一家心中寸前だったんだよ!」
「私こそ、ほとんど働いていないわよ。一連の騒動を引き起こしたのはみんな仲間たちのおかげ」
時雨はここで悟った様子だ。「ようやく解ったよ、タイムパラドックスが起こる。僕がいま千秋ちゃんを愛していると言っても、きみの時代の僕はそれを知らない。そして千秋ちゃんはタイムパラドックスを理解せず、何年もいままでみたいに僕を追いかけ回す……いまから言う僕の一言だけを追い駆けて……だから憶えていて。魔女の千秋、きみを誰より愛しているよ」
「時雨ちゃん!」
もちろん全肯定する願いだった。同時に私は彼の願いを迂闊にも叶えてしまったことに気付いた。だから私はもとの世界へ返される! 何も知らない時雨ちゃんを追いかけ回す過去、いえ現代に……
しかし、この魔法を解く気は無かった。空間に歪みが生じるや、それに巻き込まれるのを避けなかった。私は時空間の流れに身を任せ、宇宙が……その物質の十億倍もの圧倒的多数の構成要素光子が……もっとも得意とする性質、つまりもっとも楽な航路を辿るという理論を信じた。
千秋コラボっこ! 終
後書き いささか焦り過ぎました。まるでストーリーの体をなしていませんが、ここで打ち止め千秋楽……すまいるまいるさん、亜崎さま、akiruさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、初孤羅さま、秋月伶さまありがとうございました。