紆余曲折を経て、運命に翻弄されるヒロイン=私、千秋の任務は終了したはずだった。

 ナックルファイター試作初号機は、ディモンドから私に引き渡された。私なんかより優秀なパイロットの方が多いのに……とにかくいちばん性能の良い試作機を預かる身となった。

 さっそくコクピットに乗り込み操縦席に座るや、その操縦系統と計器類があまりに簡素なのに驚く。君主リティンは技師として、極力兵士の労力を減らすことに心血を注いだらしい。

 とにかく両手と指を置くキーパネルと両足を乗せるフットバー、それだけ操作するのが九割以上だった。いじくればとんでもない離れ業もできるらしい。各種格闘技の技は、ソフトパックしてあり間合いと態勢が整えば、自動的に繰り出してくれる……は、おいて。

 これを奪還することがシント総統ソングから命じられた最初の本来の任務だったわけで……でもエスペランサには他の量産型のナックルファイター四機を拿捕されてしまったし。二機は宇宙艇との交換で戻ったけれどやはりエスペランサは二機を鹵獲したまま。

 これではいつになればもとの世界へ帰れるだろう。いえ、世界は関係ない。時雨ちゃんがいてくれるならどこへだって行ける。

 ディモンドは葉巻を吹かしながら、愉快そうに笑った。「マリファナ栽培が出来なくなったのは惜しいが、オーバーテクノロジーのマシンを手に入れた。これは『現代』に帰ったら大変な戦力だ。得難い体験をさせて貰った。楽しかったよ、もう帰れるのだろう?」

 宇宙補給艦ジンバレルから通信が入った。大地だ。「『現実現代』世界へならいつでも帰してあげられるっす。でも宇宙艇は母艦が無いと満足に動けないっす。まあ地球から動かないなら、燃料は海水を精製すれば無尽蔵っすね。核融合炉動力っすから」

「ならば宇宙艇ごと戻してくれ! 俺たちエスペランサは世界征服できるな」

 こうして配備につくエスペランサ隊は、たちまち全員の全宇宙艇は魔法のように消え失せた。可愛い生ガキ、楽しかったわよ。では私もそろそろ……

 端末が作動した。またレーダーにジャマー反応? でも近距離帯なら探せる。十六機、一個中隊の未確認機接近を確認……って、あり得ないっしょ……

 あれははるか昔のファーストGの敵側主力兵器、モビ○スーツの量産型ザコだ! いったいなぜ……世界が崩壊しかかっている。黒幕は誰だ?!

 ソングは命じた。「ナックルファイター試作初号機よ、迎撃せよ! 千秋さん頼みます。優輝とアヴィも参戦します、長距離射出兵器使い魔のクロとシロです……もちろん貴女は軍人ではない、任務を拒むことはできますが、いけますか、女大魔術師千秋さん?」

「平気です、だって祈れば願いは必ず叶うもの!」

 ナックルファイターコクピットでブースト加速し、敵集団を間合いに収める。私はさっと命令した。「行って、シロ、クロ!」

 シロとクロは超小型戦闘機で、予測不能な軌跡を描きつつ敵機に向かって行った。まるで某人気ロボットアニメの往年の最強兵器、ファ○ネルみたい! シロとクロは巧みに敵機を翻弄し、至近距離の死角から急所を撃ち抜いていた。たちまち大破炎上する敵機。

 しかし混戦となれば油断はできない。曳光弾が流れて行った。遠距離から銃撃の連打をされている、といってもかすりもしない。アサルトライフルだな、遠距離狙撃なんてほぼ不可能な弾丸をお祭りみたいに景気良く撒き散らす突撃銃。もっとも接近すれば火力は圧倒的なのだが。そうなる前に。

 再び猫使い魔で応戦する。「こいつはお釣りよ、とっときな!」

 クロは文句を言う。「俺たちはお釣りなのか?」

 愚痴を言いつつも、クロとシロは抜群の機動性でまた一機仕留めた。

 通信回線越しに、直人がぼやいている。「いくら強力でもマス・ドライバーなんて着弾に時間がかかる。機動兵器相手には無力じゃないか……リティンは国防費で遊んでいるな。あの雑魚どものマシンガンなんかどうせナックルファイターには通じない。一気に打撃で片付ければ良い」

 了解! 魔力発動、私のナックルファイターは無敵の格闘家になった。間合いを一気にゼロ距離に詰め、次々と技をコンボする! 敵機のマシンガンはいくら当たっても効果無かった。まさに無双無敵状態。

 ソングから通信。「すみません、作戦の上意下達が滞っていて……あの人型兵器は味方だったのです! リティン陛下がデーモン対策で召喚した。陛下は過労で眠ってしまわれ……」

 ええっ!? 味方、それにデーモン?

 

(続く)

 

後書き すまいるまいるさん、亜崎さま、akiruさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、初孤羅さまありがとうございます。みなさまの貴重なキャラをできるだけ反映させます。