私こと二十一歳の女子大生、チビでつるぺたが自慢の萌娘(久しぶりに強調)、藤村千秋は安堵していた。都市国家の君主自らが敵、害虫だった巨大ゴキブリの対策をばっちり打ったのか……私の役目もこれで終わりかな。
マフィアの面々、ディモンドたちと合流できた。彼らはかなり奥まで探索を続けた様子だが、ゴキブリは小さいものすら見当たらなかったと。通信が麻痺したことでパニックが起き掛けたが、そこは超人的なエスペランサの能力で統率したと。
アレスは楽観した。「スライムは光や炎に弱いようです。ならスライムは地上まで出られないでしょう」
リディアが指摘した。「夜間はどうなの」
「あ……それもそうか」アレスは試しに光の魔法で、視界内のスライムに光線を浴びせた。効果はてき面で近距離のスライムだけは一掃した。見事な技だった。
おかげでジャマーが解け、シント総統ソングから通信が入った。「事情は承知しました。ご安心下さい、空からは太陽の可視光線以外にも周波数の違う光……電磁波が昼も夜も常に降り注いでいるのですから。なまじ可視光線など夜間の月に星空だけでは、他の電磁波のほんの数万分の一なのですよ。今回はリティン陛下の独走を許してしまい申し訳ありません。私ごときがいくら進言しても無駄なお方なので……」
リティンは君主といっても、憲法に準ずる民衆主権なシントの名目上だけ。シントの実権は電脳化されたシントを管理統率する女総統閣下であるソングが握っているのにおかしなものだ。技術ヲタは手に負えん。
ソングは語っていた。「あのスライムの有機物を処理する有効性は貴重です。シントの下水溝にもスライムを繁殖させれば、手間いらずの浄化槽になります。リティン陛下は……やはり偉大な技術者です」
と、ここで問題は解決と思った私は甘かった。みんなの頭痛い事に、さらにとんでもない発明品をリティンは用意していた。究極の通常金属弾質量兵器。
防衛用にリティンの考案していたものは、月面軍事兵器……月面に設置された、直人の電磁加速式スナイパーライフルサヴェッヂのデッドコピーで、十倍もの巨砲だった。全長で十倍、質量は千倍、出力は大型故効率化できるから七倍して七千倍のシロモノだ。
さすがの直人←(ハムの公星拳から早くも全快している)もぐったり語った。「太陽光発電のドライブ出力に負荷をかけ過ぎるな、しかしオーバーヒートも宇宙太陽影の絶対零度に凍結される計算だ。こうなるとマス・ドライバーだな。質量兵器もここまできたか。
リティンはこれでシントは万全だと喜んでいるが。たかだか口径120ミリ程度のマス・ドライバーでも金属製の弾丸の重さは数十キログラム、これは戦車砲と対等以上だが初速が違い過ぎるので、熱量で戦術級核兵器並のクレーター掘るだろう。月面から素材を自動調達とは虫の良い案だ。太陽光発電なら半永久的に稼働する。
直人は珍しく真面目に懸念している様子だ。「弾道計算はできるのかな? リティンはハードウェア技師で、ソフトウェアは疎いと聞いたが。ヤバいかも」
公星も意見した。「なるほど。たしかに端末情報の記録からすると、もとの世界の多段式ロケット動力推進などと違い、スペース・ディスラプト・フォースから買い取った宇宙艇を操縦して経路を一端跳躍、航路を手動で調整したらしいですから、数学的処理はファミコン以下かも知れないですね。シントのデータバンクには模範解答が眠っているのでしょうが、ソングの執務室にリティンは入らないでしょうし……」
「古典の名作『月は無慈悲な夜の女王』のように理想的に働くものやら……」
ソングは千里眼の魔力で得た情報を、ここに打ち明けた。「巨大ゴキブリを送り込んで来たのは、ディモンドさんの世界の没落貴族ミランダ・スチュルート。実行犯は彼女の執事のフォルベック。巨大化の開発は誰がどうしたかまでは異世界相手ではわかりません」
ディモンドは低い声で宣告した。「エスペランサに戦争吹っ掛けた構図だな。相応の礼は取ってやろう」
私はモニター画像に驚いた。「ミランダ、まだ十四歳の子供じゃない! テロリストなの、ガキっ娘が」
ディモンドは皮肉った。「おまえが言うと説得力がまるでないな、つるぺた」
私は怒りに打ち震えたが、十歳の子供に手を上げるような大人ではなかった。代りに一言。「フレッシュオイスター!」=生意気なガキ、生ガキが。ポン酢で美味しく喰われてしまえ!
(続く)
後書き すまいるまいるさん、亜崎さま、akiruさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、初孤羅さまありがとうございます。みなさまの御意向をできるだけ反映させたつもりです。貴重なアイデアご提供、重ねて感謝します。