地底に乗り込む後続部隊は私の千秋、三好先生、公星だった。優輝とアヴィは依然行方不明。この三名のリーダーは……

 公星が名乗り出た。「私がどうやらこの中でいちばん実戦経験豊富です。私に続いて下さい」

 私はふと漏らしてしまった。「ハムちゃんみたいなユルキャラに任せるの?」

 公星は憤慨している。「誰がユルキャラですと? 失礼な。私はハムスターのスターです。愛を叫ぶ立派なアーティストですよ。晴耕雨読の倹しい生活をし、工学的開発に打ち込み、私の力で世界に愛と平和を!」

「許されるはずもない……ラヴ&ピース!」調子っぱずれな歌声……、見れば直人は巨大な長筒を肩にしていた。私は問う。「直人、銃なの? それが……」

 直人はポケットウィスキーをしまうとゆっくり銃口を公星に向けた。「対戦車スナイパーライフル『サヴェッヂ』。電磁加速砲だ。耳を塞ぎな。リニアレールガン連射! ハム肉酒宴の始まりだ!」

 チュゥィィィィンンン……カッ! カッ!

 鼓膜が破れるかのほどの銃声だった。しかし。

 公星は悠然と佇み、冷静に語った。「まるで効いていませんよ。隕鉄鉱製のフルプレート相手には通常の兵器では無理ってものです」

 直人は戦慄の表情だ。「効かない? 放射性元素以外で最も重く硬いタングステン弾だぞ、極めて高速なら弾丸の速度と質量そのものがエナジー、最終的にはすべてが熱量に転換される。ならば自らよりも硬いものを溶かしえぐりとって自然のはず、物理法則を無視している!」

 公星は告げた。「正当防衛です、直人さん、貴方にはしばし休息が必要なようです。私はまた奥義を仕入れました。『ハムスター公星拳』です。私のコスモを灼熱に燃やして、いざ!」

 ドドドドドドドドドドドドドッッッッッ!!!!

 ……毎秒数十発という描写の仕様のない公星の拳撃の連打で、直人はタコ殴りにされ泡を吹いて倒れた。ハムちゃんユルキャラに見えて容赦ないわね。

 公星は毅然といった。「後顧の憂いは絶った。ここはいざ地底へ!」

 私も他のみんなも、反対する理由は無かった。すぐにアレスたち四人と合流した。

 私は地底世界の広い洞窟の床を確かめた。粘膜状のものが薄く一面に広がっている。これは床だけでなく壁も天井もこうだろう。「レーダーとかを無効にしていたジャマーの正体は、このネバネバ、汚泥だったのね……汚泥はスライムと呼ぼうよ。経験値とゴールド期待できるかしら?」

 生物教師三好先生は警告した。「スライムといっても某ファンタジーRPGのような雑魚とは違うわね、これは。全体が胃袋のような存在ね、気をつけないと喰われるわよ。身体を呑みこまれたら溶かされる」

「そんな物騒なものなの?!」

「いまは全員全身にフルプレートを纏っているから、問題ないけれど……うっかり籠手を脱いで素手なんかで触ったら、侵食される。試しにみなさん、床につば吐いてごらんなさい」

 私はつばを吐いてみた。床の粘膜に届くや床は一瞬燃え上がったかのようにジュッと音と煙を上げ、化学反応するようにつばはスライムに吸収されていた。驚きの声が一同から上がる。

 アレスは命じた。「全員兜の面頬を閉じろ! 天井から顔に落ちてきたら大変だ! ……って、あれ? 透明な板で完全に漏れなく覆われているのか。一方で呼吸も飲食も問題ない。便利な鎧兜だな」

 ドーハンは愚痴った。「まったくやっかいなシロモノじゃわい。こんな危険な存在、焼き払って一掃する必要があるのう。わしの腕が鳴るわい」

 三好先生は反論した。「いいえ、これは有機物を処理してくれる、理想的な浄化槽だわ。疑問ね、ならばゴキブリだってこの中にいればスライムに消化されてしまうはず……」

 公星がはっと言った。「これは生物兵器です! 私どもの他に、巨大ゴキブリに対抗しようとしたものがいたのではないですか? 現に、この地底にはもはやゴキブリの気配はまったくありませんよ!」

 三好がいかにも生物教師らしく意見した。「スライムはゴキブリと共生関係を保っていたのか……ゴキブリの排泄物に死骸はスライムが処理してくれる、エサを失って死滅したスライムの空白にはゴキブリが入って来られる理屈。こんなことを考えつくマッド科学者と言えば、一人しかいないわ。シント君主国事実上の君主当人にして技術中将、リティン!」

 

(続く)

 

後書き すまいるまいるさん、亜崎さま、akiruさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、初孤羅さまありがとうございます。いまだに佃煮ネタに詰まっています。助けて……同盟に栄光あれ!