私千秋は、宇宙船母艦ジンバレルで衛星軌道上から異世界の地上をモニターしていた。シント君主国外の辺境の荒野での戦闘を。
アヴィの操縦するナックルファイターは、ディモンドの駆るそれに成す術がなかった。当たり前だ、素人が同じ体躯の格闘家に勝てるはずはない。アヴィ機の突き出したパンチは、あっさり払われ逆手を取られ、ひねられた。機体は傷ついていないが動けない。
ふと気付く。アヴィ・ロングさん、私直に一度だけ逢ったことがある。七夕祝いのBBQ大会でいっしょだったよね。私と会話はしなかったから忘れていた。
上空から増援……総統はなにをやっているのかな、大地さんの言うとおり敵の疲れる時を待てば良かったのに! 相手は子供、寝る時間長いはずよ。すると、敵エスペランサに部下の増援がいる?
さらに三機のナックルファイターが現場に到着し、参戦した。公星機とアレス機に三好機だ。しかしアレスは三対一とは卑怯だとして後方に二人を待機させ、ディモンドと一騎打ちとなった。
アレスは果敢に戦った。剣ではなく素手での格闘とはいえ、アレスは優秀な戦士だった。肉体的にやや非力な弱点をマシンは相殺してくれる。隙のない連打と払いで、ディモンド機を形の上は追い詰めた!
しかし、先が続かなかった。この優しい勇者にとって、十歳児を倒すなど不名誉だから。迷いはまさに致命的だった。瞬時の躊躇いの内に、足払いを掛けられ転倒してしまった。即座にマウントされる。アレスは負けを認めた。
次いで公星機が進み出た。「ディモンドさん、肩を並べて戦った仲というのに残念です」
ディモンドは不敵に笑った。「ハム肉BBQパーティー再開しようぜ」
「貴方はそれで人間ですか!」
「俺にしては珍しく正当な意見をしたつもりだが? 俺たちには強い味方がいる。黒猫の優輝だ」
公星機は動かなくなった。はむちゃん、恐怖のあまり気絶したらしい。またBBQできるかしら?
残るは三好先生一人! 彼女は柔道の達人、いくらディモンド相手でも素手なら勝てるはず……しかし。
三好は提案した。「負けたみんなの機体と引き換えに、捕虜を無事に帰して頂けないかしら?」
ディモンドは提案を受諾した。「好いだろう、ただしおまえの機体も一緒だ! ジェームズ、シンシア、ダミアノ、モンドリオ、機体に乗り込め!」
ソング総統は問います。「そもそもなんの目的で、ナックルファイターを必要としたのです。世界を武力で支配するつもりでも?」
「平和利用さ。環境にも良い慈善事業だ」ディモンドは演説を始めた。「エスペラントはここに宣言する。ナックルファイターは農耕機械とする。この世界の辺境とされる荒地を開拓する。不毛な荒野がたちまち緑に覆われるだろう」
応えるソング総統。「平和利用であれば闘う必要はありません。資金的には五機ものナックルファイターを奪われたのは痛いのですが……」
ディモンドは軽く言う。「無利子無担保なら三倍返ししても余る巨額を与えることを約束する。栽培するのはただの食材となる植物とは違うからな。この女性アヴィだけは預かった。俺たちに協力してもらう」
「あの荒れ地になにが栽培できるというのです?」
「なに、煙草栽培だ。これをシント都市で販売してもらう。関税は五割でどうだ? 俺たちが販売小売定価の約四割得をして、流通販売経費を差し引いてもシント国庫に三割の儲けにはなるだろう。他の国にも無論流通させる。が、単価がいちばん高いのは貴国だな」
私はその栽培畑を見てぎょっとした。「煙草は煙草でも、シガレットとは違う! これってマリファナじゃない! 大麻、麻薬よ。ソングさんに連絡して!」
大地は従った。
ソングは意見した。「議会に通します。マリファナはお茶並の害しかないと聞き及んでいます。タバコも酒もしょせん合法麻薬ですからね。酩酊作用等薬効が認められればエスペランサと契約しましょう」
なるほど、大麻、マリファナ栽培か。錬金術、つまり化学に通じるアヴィの知識が生かせるわけだ。麻薬を密売ではなく、公然と販売……この世界の『紙』はモラルに欠けるなあ。
私に願いを頼めば、なんだって叶えてあげるのに……かなりの確率で世界滅ぶけれどね。このくらい魔女にとってほんの御愛嬌の範疇よ。人生太く長くね!
(続く)
後書き すまいるまいるさん、亜崎さま、akiruさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、初孤羅さまありがとうございます。会員さまのリアクションを期待します。参加とキャラに取って欲しい言動を連絡ください。