俺、泰雄はBBQパーティーをしていたが、肉がとても五人で食べきれる量でない事に気付いた。もとが重さ百キロあったらしいからな。
俺は千秋に提案した。「この夏の陽気、ほっておいたら無駄に肉を腐らせてしまうな。せっかくの大ハム肉なのに。ここは応援を呼ぼう」
千秋は嬉々と賛成した。「アナザーデッキのみんな集めましょうよ。時空を超えて携帯に連絡する」
「あたしにも任せて」シンシアは乗ってきた。この女、良く食べるな。それでいてモデル並みのプロポーション維持できるとはすごい。
「私も保護者を呼ぶです」と言う愛さんはお堅いな。
「私は心当たりありません」アヴィは残念そうだ。
たちまちシンシアのつてで、少年ボスディモンド、走り屋ダミアノ、女主人モンドリオ、シャブ中なのは秘密の女ネイフェスが集まった。一期一会の仲かも知れないが、互いに自己紹介する。
ダミアノはハーレーで、モンドリオはキャデラックで駆け付けた。飲酒運転はいけないから、休憩時間が必要だな。左腕の無いネイフェスも乗っていた。それにディモンド、このガキ葉巻くわえているが……まあ、煙の出るおもちゃなのだろう。
かれらはマフィアと聞いていたが、そんな悪そうな面子ではないではないか。言ってはなんだが、ジェイルバード・ファーストデッキのやつらの方が馬鹿な上無軌道なアウトローだぞ。こいつら(直人や涼平、不知火とか)は、今回呼ばない。
すぐに近郊に住んでいる、アナザーデッキとして馴染み深い青年、石田と浅尾の二人も加わった。
石田はパティシエでケーキだけでなく調理一般も得意のプロだ。野菜に串も調達し、タレも調合し味わい深い串焼きにしてくれた。骨もモツも無駄にせず、煮込みスープのダシにするという。さっそく作り始めた。これは朝まで宴会だな。
浅尾はイケメンだが実は飲んだくれ学者だ。まさにザル、底なしに飲めその上、身だしなみ素行乱れないとか。さっそくグラスワインあおっている。
いつの間にか、高校生くらいの少年優輝がいた。彼は猫のような翠眼を爛爛と輝かせ、実に嬉しく、そして美味しそうに焼きハム肉を食べ若い食欲を満たしている。もっとも彼はある有名女流作家の主夫で、娘もいるという。童顔なのだな。
優輝の友人、コウも加わった。少年だが落ち着いた素振りは、実に大人っぽい。バーテンダーの仕事をしているだけある。良識ある好青年だな。かれは悪魔を召喚する俺とは逆に、魔を制し封じ浄化する能力があるらしい。グラスワインをトレイに置き、給仕を始めた。
愛さんは、三好先生を呼んでいた。美人生物教師だが、柔道の腕はあの格闘帝王時雨を凌ぐという達人だ。お子様たちの保護者だな……と、小さな女の子も連れている。アルラウネというらしい。外人かな。さすがに俺の守備範囲の外だぞ。
アレスとリディアもやってきた。硬貨ではない紙の貨幣に、移動手段が車というのにいささか戸惑っている様子だが。仲良く合流し、親睦会を進める。野外料理は慣れている二人だった。
アヴィは小食な上、酒に弱いな。いなくなった黒猫をさがしてうろうろしている。と、声を上げた。「あら、はむちゃんもいたのね。このお肉、はむちゃんかと思っていたわ」
「はい、私ことハムスターのスター公星の肉です」
そんな馬鹿な! 俺は心底戦慄して驚嘆していた。詰問を叫ぶ。「ハム! おまえどうしてここに?」
「私はただ醒めない酒を飲んでいるだけです」と、ズレた決め台詞を吐くハム。論点が違うぞ。
「俺は確かにお前を刺してさばいた!」
「だってその前に貴方に魔法で無理やり召喚されましたからね。魔法陣に実態化したのは私のエーテル体、本物の私とは違うのです」
「ではここにある肉はなんだ、害はないのか?」
「エクトプラズムです。仙人の食べる霞のようなものです。実体がないのでカロリーゼロ、いくら食べても太りませんし、いくらでも食べられます。私もこれを食べることで、元の魂に完全復帰します」
「公星、おまえ……」
「済んだことは恨みませんよ。いまは楽しく宴会しましょうね。愛の歌をみんなで合唱しましょう! ♪愛はきみといる~そっと触れている~この世に生きる至上の喜び。それを愛と呼ぶ。争いも奪い合いも無い世界への架け橋、愛。自由、平和、権利の源……すべての礎となるこの世界の構築物♪見つけてごらん、心澄まして……見つめてごらん、心開いて……愛こそ未来への無限への切符だ、さあ受け取って、いまこそ勇気を出して心の旅へ出よう……」
まあいいか。元手無料で大宴会ができたものだ。幸せだな、俺。彼女さえできていればさらに……星条旗よ永遠なれ公星よ永遠なれ……
(終)
後書き どうしてもキャラを死なせることに抵抗があるので、ハム復活させました。御都合主義にもほどがありますね。
すまいるまいるさん、akiruさま、亜崎愁さま、SPA-kさま、初孤羅さま、ゆきえもんさま、秋月伶さま出演ありがとうございました。