まさかのハムサンド呼ばわり! 信頼していた里見さんにまで裏切られ。私、公星は失意のどん底にありました。アジトを襲撃されたらしい通信途絶生死不明の神無月さんには、いっしょにディオさんとエクステルミさんがいたはずです。アントワーヌさんもそちらへ向かった様子。知り合ったばかりとはいえ仲間……こんな混沌とした世界に捨て置いて、よろしいのでしょうか。

 とかいう考えは。普通の人間ならば、です。しかし社会的イレギュラーは違う。仲間のために死ぬなんてできない、自分が誰からも受け入れられていないのだから当然です。非難される理由は無いのです。

 ああ、無情。我ながら酷薄かな。しかし人間と違い私はハムスターなことを忘れてはなりません。すると頼むべからざる仕事を互いに行っていたのか……

 ちなみにいまの私はフルアーマー化されています。ほんらいの21世紀の時代の技術水準より高度で強力な。その気になればこんな20世紀半ばで停滞している似非21世紀を、私だけで制圧できる!

 そもそもこんなカオスな事態、いったいなにから始まりましたっけ。ええとゼロ戦の空中戦からですね。前世紀四十三年度世界最強の戦闘機。

 過去の戦闘機乗りは言いました。真っ直ぐ突っ込んでいけば、敵機は逃げていく。そこを追いかけて撃つから勝てるんだと。空中戦とはチキンゲーム。勇気が問われると。合い討ち覚悟で突っ込むのだと。

 第一次世界大戦から続く、戦闘機戦のセオリー。真正面からの奇襲は有効。相対時速千キロ超えるような空中戦なら、敵が視界の射程に入っている時間、数秒しかないもの。名誉と命を秤に掛けて、真正面から応戦し、すれ違いざまに反転し追いかけるか、一直線に離脱するかを決める。秤に掛ける、か。

 卓上や電算機シミュレーター、味方を相対しての模擬訓練ではどうしても測れないものがあります。当たり前ですが、兵士の勇気。戦争ではこれを士気、戦意、モラルと言います。伝説の大戦時の日本が根性至上主義だった理由です。兵器の質と量さえ敵と対等なら、疑いなく日本が勝っていた。それがまさに反映されたのが、ここの世界……

 私の力でハムスター王朝を築く!「これはフェアな勝負なはずだ、ハム私だけに対し、人間数十億!」←(アシモフ、ファウンデーションより)

 ん? まてよ、私はハムスター。ネズミ算式に増殖できます! 良い伴侶さえ見つかれば……楽勝で地上世界乗っ取れる計算です。単純指数計算では二年もかからない。世界にハム王朝を築くのです!

 では、人類全軍対私のハム軍団の交戦と消耗をシミュレーションしますか、端末で……キロ京フロップスもないと無理ですかやはり。この未発達の文明圏では、なまじ研究用や軍事用のスパコンより、私のハンドメイドの端末の方が機能上ですからね。なんたってこの世界、スパコンがキロフロップスですよ。

 地上に私の王朝を! ふふ、魅惑的な野望です。っていうか私、男か女かどっちでしたっけ。『紙』は曖昧ではっきりしてくれないのが困りものです。

 さて、人間のありとあらゆる学問、技術、芸術の、一流技量を電子コピーでマスターしている私としては……同じ万能ハムを子孫に残すべく、情報処理端末の開発に取り組まねばなりません。

 しかしざっと概算を暗算しただけで、もといた世界の技術を追い越すには、一千万人のエンジニアを三十年は酷使する必要があります。失われた文明の技術力は痛いですね。

 さらに、情報化社会は万民に開かれ、公正で健全でなければいけません。しかし。

 情報化社会の黎明期、そのネット社会風俗の乱れ様に荒らし対策でエロ動画どころかなんでもない活字をアップするのすら、一文字百円の課金をする提案がされたことがありました。とんでもない。その千分の一でも高い。一万分の一でやっと、というところです。これでも活字を常用する人には高すぎるくらいです。

 ネット情報に課金、そんなことをすれば情報化社会はたちまちほころび表現の自由、思想の自由の束縛となってしまいます。例え風紀が乱れていても、自由の権利はなにより勝る。自由な閲覧を禁止した某国家の国民が洗脳され暴走しないか疑問で心配でしたね。

 私の手で理想の世界を! ハムによる人類帝国! 人類をナッツに菜っ葉栽培畑で強制労働させます! ジークハイル!

 

(続く)

 

後書き 独裁と全体主義と選民思想、ファシズムの道を突き進むハムです。それを回避する理屈は封じられましたね。ハムこそ自由と自尊と独立の敵です。止めてあげて頂けませんか? 初孤羅さま、秋月伶さま、SPA-kさま、亜崎愁さま、akiruさま、すまいるまいるさん、キャラ出演ありがとうございます。