私公星と不知火さんは、二十一世紀の組織のアジトから前世紀の大戦開戦時直中へ時空間移動しました。電子情報として、改革の意志として。しかし!

 時すでに遅し! ゼロ戦は大幅改造され、機動性はそのまま馬力向上、つまり最大速度に高空性能が飛躍……しかも武装が11.7ミリ砲六門に強化されていました。昔日の紫電改を上回る性能ですね。

 分厚い新聞の号外が配られています。日本帝国艦隊は、真珠湾で敵米戦艦だけでなく航空母艦を殲滅! 対して被害は十数隻小破、駆逐艦二隻が潜水艦に撃沈された程度。その米潜水艦は爆雷で撃沈したと。

 なにより味方航空母艦に損害は無し。飛行隊は九割以上生還! 脱出者も大半が救助され、陸戦兵部隊がハワイを制圧した! なんという完勝……

「謀られた……設計図は別のゼロだったんだ。ここはもはや俺たちの知る日本ではない。日独伊枢軸が勝利することになる異世界だ」痛切な不知火。「軍事帝国だ、税金の半分が軍事費に消える。シミュレーターによるとそれで財政難、庶民の生活は貧窮してしまう、呆れたものだ」

 私は恐る恐る尋ねました。「ここでどうしましょう、不知火さん。元の時代へ帰ります?」

「たしかにこの時代で打てる手は打ったが……まさか日本が戦勝国の驕りの退廃に、衰弱する可能性は考慮すべきだった」苦しげな不知火。「俺は歴史に疎い。ここはリンクアウトして、『現実』世界へ戻ろう。霞お嬢さんなら、回天となる打開策を考えてくれるかもしれない。俺なんかと違ってね」

 というわけで、過去を諦め『現代』に直帰した私と不知火ですが……柔らかいソファーから立ち上がり、二十一世紀の新都心のアジトを出て愕然とします。

 これが日本? 戦争に勝ったというのに文明も文化も、科学技術そのものが遅れている。情報機器が進歩していない。パソコンも携帯も消えた。単なる電卓はあるが、ろくに小型化されていない。アルカリ単2乾電池使用だなんて。昭和五十年レベルの技術ですね。

 テレビなんか馬鹿でかいブラウン管のアナログだ、画素荒い。映るのはファシズム的な『品行方正潔癖』番組、バラエティーなんて笑える番組なんかない。これはむしろ不健全だろう。これが全体主義か!

 これでは日常生活どころではなくなった。『現実』の世界を取り戻すにはどうすれば……

 この世界は『魔王』電脳神たる神無月真琴のなれの果て、不知火にとっては致命的に不利なところだな。って、不知火さん?

 不知火は低く笑った。「公星、俺は神無月真琴だ。俺は能力を取り返した。アルコールの呪縛からも解放されて、情報機器なら超人的に操れる! こんな幼稚な文明のコンピューターなど、容易く乗っ取れるな。最新鋭機ですらコンピューターは16ビットマシン。俺たちのいた80年代のシロモノだ。付け入る隙あり過ぎる……ああ、俺の手にいま端末さえあれば……」

「情報処理端末ですね、私がなんとかします」

「え、公星?」驚きの声を上げる不知火=神無月。

「任せて下さい」私は神無月のために、即興で電子計算機端末、つまりコンピューターを設計しようと思い至りました。ふふふっ、技術屋の腕が鳴ります。え、そんなことが私に可能かと? 解説しますね。

 計算機はたった三種類の計算しかできません。その三種類の組み合わせで、情報化社会は華開きました。三種類とは、論理積、論理和、否定です。

 これらを並列させて、二進数的に妥当なビット数、8ビット=1バイトとして並べ、三種の計算を組み合わせれば加算構文はできます。二進数計算において、減算構文は加算構文と同じで作れます。

 数値の桁を一つずらせば二倍、逆にずらせば二分の一の乗除算構文が作れます。加減算構文と組み合わせれば、整数計算なら四則演算機の仕上がりです。

 さらにプログラミングコードも、構造化システムならたった三種類の構文で構成されます。それは、連節、選択、繰り返しです。コンピューターの基礎とはこれほどシンプルなのです。

 後は大切な土台、ハードウェアの電子回路ですが、これもおおむね三種類の回路部品だけで成り立ちます。抵抗、コンデンサー、コイルです。しかもコイルは除いても、やや設計図は複雑になるもののすべての電子回路は設計可能で、抵抗とコンデンサー、強いて言えば電子配線だけで動きます。というか元いた『現代』のデジタル製品にまず一切コイルはありません。

 計算処理箇所だけならそれで動くのです。あとは入出力機器とかに繋げる技術いりますけどね。はい、問題は制御・計算処理用ではなく入出力等用部品です。こればかりは複雑で膨大な種類があるので、かつては手続きにてんてこ舞いだったのです。

 問題は、素材部品の調達ですが。電器家電メーカー倉庫に忍び込んでかすめ取るしかないかな? コソ泥はいやですけれど。その懸念を神無月に話します。

「ひょっとしてあの街なら……」神無月は語る。「ヲタク街、萌の聖地だ。しかし、前時代は違ったのさ。俺がファシスト為政者なら絶対に残っている!」

 というわけで電車に乗り『現地』に急行しました。なんと秋葉が、伝説の平成初期のままの電気街に! 潔癖なファシズムの世界では萌文化なんて許されなかったのですね。願ったりかなったり、これで電子部品集まります。存分に買い物楽しみました。

 一息入れに喫茶店へ。あれ? なんだこの中世西洋貴族邸宅風内装は。黒地にふりふりな純白のレースのメイド衣装をした十六歳くらいの小さくて可愛い眼鏡っ娘が一礼し、恭しく語る。「お帰りなさいませです、ご主人さま。私、新入りの里見愛と申します。なんなりとお申し付けをです」

 メイドカフェ?! 影では運営していたのか……

 

(続く)

 

後書き 禁忌を冒した……ロリヲタ趣味が暴走しております。馬鹿です。はい、私は馬鹿です。でもメイド喫茶はほんとうに行ったことありません。知人に過去バイトしていたマジ萌な女性がいますが。

 SPA-kさま、亜崎愁さま、akiruさま、すまいるまいるさんキャラ提供有り難うございます。