念のため貴方に自己紹介ご挨拶しておきます。私の名はキミホシ、『公星』と申します。自由と平和を愛する当たり前の一市民。ハムスターのスターです。
なんですと、ハムスターに市民権は無いですと! 失敬な。私はペットではありません。160センチ、100キロくらいの体格ですね。
心身の能力的にも、私は向上するよう日々練磨しております。健康は朝寝夜起きで保たれます。はい、私は夜行性です。不健全ですと? 貴方は夜勤労働者を差別するのですか! あ、そんなつもりはない。それならば結構です。
とにかく砂場の整えと、畑仕事が肉体的労働です。それを終えるとメロディを案じつつ、シンセサイザーに向かいます。自由、平和、愛を口ずさみながら。
読書も欠かしません。古い書籍であれ、温故知新といいます。むかし読んだ本を読み直すと、新たな発見があるものです。その時自分の成長に気付くのです。
そして閃いたときは俄然PCに向かい、機械製品の設計図を情熱のままに引きます。私の発明品で、世界が幸せに包まれる日を夢見て……それから外回り営業も無論こなします。万能主義が私の本分です。
そうして得た利益は大切に、将来のために貯蓄します。最近金融緩和とかで激しいインフレで目減りしないか心配ですね。私は別に円や$を稼いでいるわけではないのですが。この社会、例えインフレになっても節制は必要ですよ。はい、私どもは節度を保ちます。
なのに、不知火さん、貴方無粋ですね。1941年春に時空間移動して、ゼロ戦の設計図を盗み運び出したドイツへのスパイを阻止せよなんて。私の能力を、そんなことに浪費したくありませんが。
しかし歴史を一転しかねない事件……馴染みは無論ない事ですが、時空間犯罪者は許せませんからね。未来から過去を操るのは、おそらく悪いことです。
では不知火さんに私、ついていきます。直人さんは……私が決定的ダメージを与えてしまったのでしばし安静にさせましょう。はい、事故とはかくして起こるものです。え、なんですか? よくある事故ですよ。
というわけで私は故郷の砂丘を離れ、新都心へ。そこの組織ジェイルバードのアジトに勇んで乗り込みます。いざ時空間旅行……? なんだ、ただの休憩室ではないですか。土足で上がれるカーペットにゆったりとしたソファー。
あれ? 『端末』なんてまた使うのですか、ふむ、電子操作で情報だけ過去へリンク……今回の敵も同じ手口で過去へ飛んでいるというわけですね、つまり生身同士は殺し合わずに済む。ここは過去の人間の犠牲を出さずに終えたいものです。
ほう、私はゼロ戦パイロットになるのですか。緒戦最強を誇った栄光の二一型。これと同じシロモノが独国へ……ナチスハーケンクロイツ、ジークハイル! っと、敵でしたっけ。
時間の扱いはどうなっているのですかね、いささかパラドックスを感じますが。過去を変えようとした敵が既に過去を変えたなら、いまの現実も無論変わっているわけで、疑問を感じる余地はないはずなのに。
不知火はその問いに、未来は無限分岐と軽く答えていました。「結果がどうあれ、俺たちが現代に続く過去を護る。それだけだよ、戦友! 早いとこ始末して一杯やろうぜ!」
というわけで、不知火と並んでいささか柔らか深いクッションのソファーにもたれ、私は電脳空間へリンクしました。すでに火の入ったゼロ戦操縦席の中です。空防から見えるのは真昼の太陽眩しいどこぞの殺風景な飛行場。青々とした空。磯の香りがします。
即出撃です! 最大出力、加速して……増速し……離陸! たちまち空へ軽快に舞い上がりました。これが伝説の無敵の機動性を誇るゼロファイター……。
「公星」不知火の声。「電子機器は作動しているな、赤いマーカーがターゲットだぞ。俺たちの勝手な出撃にすぐに後ろから白マーカーの追手が来るだろうが、それは味方、相手にするなよ。青マーカーは俺だ」
携帯電話とレーダーが使えるというのは、反則技的に有利ですね。赤いマーカーは西へ西へと移動しつつある十機……ひええ、同じゼロ戦を五倍も相手にするのですか! まあ私ほどの力量があればなんとか……なるのかな? って撃ち落とされたら私はまさか!?
(続く)
後書き 序盤からいきなり五倍もの敵機を相手にするハムスター公星。どなたか飛び入りで救って頂けませんか? かなりの確率で撃墜されて、BBQの食材にされる危険があるため架空現実設定にしました。もしどなたも助けてくれなかったら、すまいるまいるさんの公星の運命は如何に?! 追伸……キャラ提供者に著作権はあります。当方は権利を放棄しております。