わけあって服役中の公星です。ペンは剣よりも強しなんて、誰が言ったのでしょう? 平和的な話し合いは軍事力の国防力に勝ると。美麗なだけでしたかね。
私は平和と愛と平等を謳っただけです。それを国はテロリスト扱いして、非武装の私を大勢で取り囲み、乱暴に逮捕し牢獄に監禁するとは。なにがいけなかったのでしょう? さすがに議事堂前はヤバかった?
む? ハムスターは籠の中に入っていて当然ですって? 私にも自由を求める権利が有ります! え? この牢獄、別室には虎も監禁されているのですか。襲われて死ぬ自由……残酷ですね。虎箱という別室か。
話せば解るという言葉を、いくら話してもいちばん解らないような馬鹿が使っていましたね。はい、あの『紙』です。たしかに問答無用よりはマシですが。
ああ、愛も平和も夢と消えた……いまこの監獄の中でできるのは真理の探究、未知への好奇心だけ……心を自由にすることこそ人生いえ公生、更生なのです。
しかし学問となると、どんな文化分野であれ、究極的には最後は解答不明なのです。極められた学術など世界に存在しません。芸術もしかり。文明を極めるなどと、前世紀の思い上がった幻影です。しかし。
いまの社会は魔法の文明を築いています。むかしはそれを科学といったらしいですが、実質アナログ機器を、少しハードを齧った程度の少年が見ても論理的に理解できるような時代は過ぎました。いまのハードはブラックボックス化しています。
ソフトもかつて、というかいまもブラックボックスです。初期デジタルの時代は、ハッカー少年がダンプリスト開いてメモリを空読みする時代もありました。
それは一時期いかにも利権主義な逆アセンブル禁止で絶え、やがてソフトのソースコードは公開されるようになりましたが、個人レベルで介入するにはもはや光の世界は肥大化しすぎていました。
宇宙そのものの未来を見通す科学力も、ここ十年来で大きく進歩しました。しかし宇宙全体なんて個人のいえ個別の個体にはどうでもいいこと。
地球生態系生命すべてを扱えば、銀河くらいには足を延ばす夢が広がりますが、前世紀にあった宇宙開拓の夢……宇宙が加速しながら光より速く膨張している事実を突き付けられると、空恐ろしい気がします。
命に限りがあってこそ、救いですね。なぜならもし不老の身であれば、未来に将来に希望すら持てないのでは? それでいて命を慈しむこともなく、感謝することもなく、ただ場当たりに欲望に餓え、愛に食に身分に待遇に満たされぬ身を常に呪い、それが永遠と思い狂い……そしていつかは襲う避けられない死に恐怖する日々を送っていたかも知れません。
地球のハビタブルゾーン(生存可能域)の崩壊は十億年掛かるかもしれませんし一千万年と短いかもしれません。しかしまさか一万年後は早すぎるでしょう。
ですが別の言い方をすれば、命とは発生以来何億年と親から子へ受け継がれてきた神秘です。宇宙の歴史と私達の命の長さは等価かもしれません。そしてすべての種の起源は同一……この奇跡の前に。
そんな夢を獄中であれ抱けるのです。心とは魂とは命とは素晴しいじゃありませんか。身体が拘束されていても精神は自由です。空は天を突きぬけ無限の宇宙へ永遠に広がっています。
私のことはなんらお気遣いなく。ハム、公が公安に捕まったのですから、安心ですよ。
(終)
後書き 一端〆ですかね、余裕かましている公星ですが、シャバに出られるのか!? 嗚呼なんて悲劇! 漱石の猫もびっくりです。つうか何年服役するのかな……助かる術は?