誰がネズミ男ですって、失礼な。私はハムスターのスターです。故に名を公星と申します。食害? 何故その問題を、私だけに押し付けるのですか。たしかに私は美食家、一端のグルメではありますが、世の中には不当に差別されている種族が大勢います。

 例えばネズミは害獣とされていますが、ペットともされるハツカネズミ『マウス』と嫌われ者ドブネズミ『ラット』はどちらが有害でしょう?

 マウスは清潔で雑菌をあまり持たず、ラットは薄汚れ黴菌まみれです。しかし、マウスは光当たる地上で人間の食料をカリカリ食べ、ラットは真っ暗い下水溝で汚物の有機物を健気に処理しているのですよ。

 健全な生態系と食物連鎖の観点では、ラットの方がむしろ自然に貢献しているのです。ですから必ずしも害獣と決めつけられません。

 そもそも益獣と害獣の区別なんて、あなた方人間の押し付けたエゴに過ぎません。生きとし生けるものすべてに平等な命の価値と意味と権利をここに主張するものであります。

 例えば雀と鴉、どちらが害鳥だと思いますか? 雀は可愛いですって? それこそ傲慢なエゴです。雀は米などの穀物農作物を荒らす害鳥ですよ。

 鴉も一応、害鳥に含まれます。しかし人間の残飯を漁る行為は一見有害に思えて、有機物を処分して土に還す働きを担う、生態系の一環の立派な役割です。

 では蝙蝠はどうでしょう? 蝙蝠は一見薄気味悪いかに思えて、蚊や蠅などの害虫を食べてくれますね。ですが蝙蝠は益鳥ではありませんよ。哺乳類ですからね、益獣です。あ、常識でしたね、すみません。

 人間はいかがですか? 貴方、ご自分が『益人』か『害人』か、なんて考えたことございますか?

 警察に捕まるような犯罪をしていないから益人? ですが、地球世界に……いえ、人間社会に限っても、それに貢献するようなことをされていますか?

 第一次産業第二次産業の生産業に努められているから貢献している? ふむ、一理あるかもしれません。

 第三次産業で福祉に従事ですか。これは献身的に見えて、補佐的なお仕事ですね。生産には間接的に貢献されているわけですね。

 対して私ども、貴方のいう『動物』はなんら社会に貢献していませんか? 思い上がってはいけません。生きる命の営みを人間社会に限って論ずることだけで甚だしい傲慢です。

 生きることを資源の消費と考える理論がまかり通っていますね。それどころか浪費と称する。貴方、何様のつもりですか。人間様、私はハムスターです。

 たとえどんな仕事であれ、地球資源を消化し――これが昇華であれば素晴らしいのですが――地球、いえ宇宙のエントロピーを増大させているのです。

 かといって資源を使わないことは文明文化生命活動そのものの否定ですし、仮に生命なんていなくたってどのみちエントロピーは増大しているのです。それも人間社会の消耗なんかより、天文学的に大きな量が。もちろんそれ以外の大多数の生き物の命だって。

 地上の生き物が使えるエナジー、つまり消費できるエントロピーは、太陽の光が地球に降り注ぐ、ほんの一滴だけなのですよ。ですがその太陽の光の一滴だけで、すべての生命は生きていけるのですよ。

 故に、職業に貴賎はありません。法を犯していないなら。それに無職であることを罪とし障害者のような働けない弱者を虐げる社会は間違っています。

 食と職について、もっと開明的に踏み込んだ、闊達な議論が必要な時です、これこそいまの時代に解答が求められる方程式です。世界平和と共存の道です。

 

(終)

 

後書き と、現在病床中で無職無為徒食の自分を正当化しました。マキャベリ的にディベート術を使えば、なんだって正当化できますね。すまいるまいるさん、毎度キャラをお借りしていますね。感謝です。