一睡もせず徹夜明け、ハッカー崩れの俺、不知火は端末から顔を上げ、みんなに答えた。「検索できた。敵の魔法は『フェアリートーク』だ。直人はそれにやられたんだ。精神力の弱いものから発狂するな」

 里見は意外な知識を引用した。「妖精にからかわれたですね。ここは上着を脱がせて裏返して着せると呪いが解けるはずです。古来から伝わる魔法なら……でも、敵に操られているとすると、直人さんは逆上して私たちを狙うかも知れないです」

 涼平は断言した。「いや! 直人が道を逸れるはずはない」

 俺は問う。「なぜそう言い切れる、いくら親友だからって」

「あいつは痛みを知っている、肉体の痛みも心の痛みも……」

「そんなもの誰だって知っているだろ?」

「そうかな? 中学の同級生だった身長195センチの剣道部員は、直人の母親が急死したときだって「なに泣いてやがる、誰だっていつかは死ぬんだよ!」と吐き捨てていた。図体がでかいのを良い事に、大した葛藤を経験してないのさ。それでいてそいつは、女に振られた逆恨みで女を大声で侮辱しまくり、警察沙汰になりかけて俺は最低の人生だ、なんてほざいて落ち込んでいたな。メンタル面がチョコレートをねだって泣き叫ぶ幼児と変わらないのさ」

「そうか、涼平の話は興味深いな」

「そういう奴は心も体も痛みを知らないだろう? 直人の背が低いのを「一人エロのし過ぎ」と嘲笑してもいたな。非力なヤツにしか威張れない男だ。俺はそいつより剣道が強かったから、馬鹿にはされなかった。というより直人だって一対一の時には馬鹿にされなかった。背後から目玉えぐられたらどうしようとか、内心ビビっているのさ」

「は、それはでかいだけの最低のヘタレだな」

「そんな直人は高校中退前日、自分を馬鹿にする英語教師の授業で」ここで涼平は携帯に次の文を打った。

(手い茶言う知っといた、作家舞い明日)「と、黒板に大書きしたって武勇伝がある」

 発音して絶句する俺だった。直人、ただの馬鹿ではないな。なんというか……天然、形容詞不要だ。

 霞は語った。「I’d hate to die twice. It’ so boring.

「なんだい、それ?」

「物理学者ファインマンが死ぬ間際に残した言葉よ」

「ファインマンなら知っている。『不敗魔』だな。半分天才で半分道化どころか、完全な天才で完全な道化とされる。まるで世界の北の監督みたいだ」

 完全な馬鹿で道化ではない、つもりの笑いも取れない道化にもなれない、毒にも薬にもならない人間の集まりなんてくだらない。しかしそれより馬鹿のくせに己の無知無教養狭量を隠して真面目ぶって道化を人間の屑と馬鹿にする無能な人間の集まりは最低だ。

 俺はマスターとして命令を下した。「機は熟した。いまこそ総力を挙げ、ナノテックの破壊を敢行する。竜騎兵隊、出撃用意! 決起は本日の日没後だ。まず夕刻各員徒歩で前進してナノテック本社に迫る。相手がナノマシン使いでは、車等電子機械類の使用は危険だ。俺はハードウェアはダメだからな。各員の端末セキュリティは万全のつもりだが……俺は限界だ、仮眠取らせてくれ、三時間半は眠りたい」

 

 そして夕刻、ジェイルバード隊員は全員で『進軍』した。みんな体調は健康、焦る理由もない……しかし携帯に映像通信が入った。直人!

「ノコノコと、勢揃いでおれのサヴェッヂに撃ち抜かれに来たか」相変わらずポケット瓶あおっている直人だった。位置を検索……本社ビル屋上だ。

 ナノテックに就いたのか……このセリフは……こんな直人とは離れているのに、俺たちの座標がバレている証拠だ。これがナノテックの技術か。

 俺は宣告した。「サヴェッヂは四発しか撃てないのだったよな、俺たち全員撃ち殺すのは無理だ」

 肩をすくめる直人。「いいや、残念ながら。ナノテックのハニカムカスタマイズコンデンサー、充電電力んっパネエな。このサヴェッヂが一万発は撃てる」

 俺は気持ち悪い汗がどっと全身に噴き出した。リニアレールガン、電子偏差修正照準器付きのスナイパーライフル。ましてガンナーは照準が困難な拳銃ですら、ヒットレート98%を弾き出した直人……

 落ち着け、俺。火薬式でないレールガンとはいえ、銃身は加熱するはず、リニア式なら電磁力を保つために、冷却が必要なはずだ。現にこの武器は絶対零度に近い宇宙空間日陰面での使用を前提に設計されたのだから。ならばそう連発はできないはず。一気にたたみ掛ければ勝機も……

 直人はうそぶく。「これは対戦車ライフルだぜ。ただの鉄筋コンクリートのビルなんて容易く貫通する。こんなふうにね!」

「なに?!」俺たちは騒然とした。確かに、民家貫いて地上の俺たちを狙い撃てる理屈だ。直人は自分のいる高層ビルの下に向けてリニアレールガンサヴェッヂを撃っていた。五秒に一発のペースで十発以上も。離れているとはいえめちゃくちゃな騒音が轟き、事態がわからない。狙撃された? 否、全員無事だぞ。

「悪に強ければ善にも強しってね。敵を騙すにはまず味方から。基本だろ?」軽く言う直人だった。

「直人! それでは、おまえは?」

「魔力の絆さ……魔法使いだろ、ジェイルバードは。おれは精神の狂気とも武器の凶器とも馴染み深い。軽いものさ。いまさらあんなことでいちいち壊れているくらいなら、ひ弱なおれがこの歳まで生きているはずがないだろ?」

 俺は事実を反復していた。精神疾患は、こころの疲弊の蓄積で生じる。幻覚も幻聴も妄想も自己の潜在能力の暴走によって引き起こされる。コントロールできないなら、致命的な悪魔、死神となる。しかし扱えるなら、超人的な力を発揮することになる!「なにをした、直人?」

「ソフト屋の不知火さん、ここまではおれ、機械工の仕事さ。ナノテック本拠ビルの非常用発電機をぶっ壊してやった。後は当たり前の高圧電線からの電源切るだけで無力化だ。ちょろい狙撃さ。もっとも非常用バッテリーまでは完全には壊せない。内部の見取り図があれば可能だが……」

 俺は即答した。「余裕だ、すぐにデータ渡す」

 ここでウィンソンが巨大な鴉に変身し、背にリムが乗った。夕焼け空を直ちに舞い上がる。リムは警告する。「なにあれ? ナノテックの出入り口固めているの、生身ではない動物……群れが地上にも空にも!」

 朱莉も発言した。「合成樹脂みたいな表皮で作られているわね、炭素繊維かしら? そうかロボットね」

 直人は嘲り飛ばした。「ガラクタさ。地上の機械屑は俺が引き受ける。竜騎兵隊は空のおもちゃを叩き落としてくれ。およそ空は六十機、地上は二百機だ」

「こちら、アレス、リディア、公星。一撃離脱駆逐戦隊、出撃します!」

「浅尾、石田、カズキです。迎撃隊離陸、後詰め布陣態勢を取ります!」

 俺も命じた。「行くぞ、涼平、霞、ウィンソン、リム……遊撃補佐隊、臨戦態勢を取れ!」

 たちまち空中で大戦闘が始まった。素人目には、敵味方入り乱れた大混戦に見えるだろう。違う。ナノテックの飛行マシンは隊伍が散々に乱れているが、俺たちは小隊ごと統制された指揮の下闘っている。数において劣っても、負けるはずはない。ドラゴンの吐息を受け火球となり、次々と撃墜される敵マシン。

 地上ではサヴェッヂが怒声を上げ、対侵入者殺戮マシンを超長距離から一撃で次々粉砕していく。歯止めの利かない破壊だ。直人をもし敵に回していたら……

 直人はバッテリーを壊す仕事も終え、俺に報告した。「こいつで貫通しなかったところがあった……タングステン・セラミック・炭素クリスタルのハイブリッド装甲だな、真理ほどは重装甲じゃないぜ。ナノテックのツボは間違いなくここだ。この中に成育中の飛竜と生身の科学者に技術者がいる。後は任せるよ、殺しをしないのがおれたちだろ?」

 敵機はいまだ数だけは多いが、指揮系統などなく混乱し瓦解していた。こちらも無傷とは言い難かったが……墜ちたのは誰だ?

 

(グルっぽ『自由創作表現同盟』(管理人、初孤羅さま)の会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。

 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、すまいるまいるさんありがとうございます。

 スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。不知火ら一行の敵味方その他、コメントないしメッセージ受け付けます。

 キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。

 追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)

(続く)