俺は霞に同意して、夜時間を迎え互いの自室へ眠りについた。なにが『紙』だ。そもそもジェイルバードの掟は、『間違っているなら、神すら敵とする』だ。宗教は嫌いだ。御都合主義に信じれば救われるからと救済を求めて、金を払って偽りの安心を買っている盲信者がいかに多いことか。御都合主義に洗脳されてしまうのだよな。
 『良い事はおかげ様、悪い事は身から出た錆』これは自戒としては好い名文句だが、悪用されたらどれだけ恐ろしいか。例えば『責任転嫁』という言葉がある。マキャベリ的ディベートをすれば、事件の善悪を正反対の人に押し付けるなんて簡単にできるのだ。結局、弱いもの一人が悪者にされてしまう。責任転嫁を責任転嫁で返す繰り返しの訴訟裁判の様なものだ。
 盲信者は少しでも良いことがあると、神とかの御影にして自分の信仰を誇る。自分の努力であっても神の力と謙遜する。これは一見美徳だが。
 悪いことが起こると、自分の信仰心が足らないのだと、宗教法人に多々金を寄進する。それで自分は善人だ、正しい、天国へ行けるとして疑わない。
 俺の見た中で、敬虔な信者と言えば涼平とかくらいだな。自らが真摯に生きる戒めとしての信仰だから。信念を持つ、自らの信じる道を逸れず真っ直ぐ行く誇り高い男だ。現代の侍と言える。
 その点、直人は敬謙な無神論者を自称している。それは共感できるがしかし直人は肉体的にも精神的にも脆弱過ぎる。反面感性はかなり繊細で脆く、ガラスのナイフのような印象を受けるな。
「……がぁあああっ!」!? なにか怒鳴り声がした。アジトの建物はかなり防音されて作られているから、近距離とはいえ聞こえるとはそうとうな絶叫だな。
 現場へ行くと、声の主は直人だった。この声にみんな集まってきた。
 直人は叫んでいる。「黙れ、うるせえんだ、この卑怯者野郎どもがあ! 死に損ないのババアが!」
 里見が進み出、尋ねた。「なにが聞こえるのです、直人さん?」
「遠くから声がするだろ、聞えよがしにおれを馬鹿にしているんだ! それなのにみんな、聞こえないとか幻聴だとか言って信じてくれない!」
 里見は直人に、にこやかに笑いかけ優しく語った。「耳を塞いでです。幻聴なら、現実の音や声とは違うのだから止まないはずです」
 直人は両手の指を両耳に突っ込んだ。「あ……ほんとだ、音がかなり止んだ……幻聴ではなかったんだ。おれは正常だ! さあ来い、異常者ども! 対戦車リニアライフルサヴェッヂで粉砕してやる!」
 軽く言う里見。「そう、あなたは正常ですよ」
「よってたかっての弱い者いじめしかできない卑怯者ども! おまえらどうせ一対一ではおれと勝負できないのだろ、おまえらに言われたことそっくり返してやる、最低はお前らだ! 最低、死ねよ! 生きている意味ねえのはお前らだ!」高笑いの止まらない直人。「は~ははは! おれのはリアルだった……不知火、おまえの体験談は幻覚幻聴……え? なに、なにかおれ悪いこと言った? おまえ妄想強いんだよ! 誰が二十歳そこそこで数学博士の、社会を変えたヒーローだ? テレビの見過ぎだよ、は! え、なに、おい、どこいくの、どうしたの?」
 俺は場を離れ里見に質問した。「あれで正気か? 直人のやつかなり我を失しているぞ、素人でパラノイア自覚する俺が見ても」
 里見は小声で事実を語った。「直人には嘘を吐いたです。幻聴はさまざまな五感の刺激からも起因して発せられるです。周りの音から聞こえたなら、耳を塞げばその刺激もなくなり幻聴も小さくなる理屈。これは信じられないですか? 逆に言うと目覚めているのに夢を見るのが幻覚です。人間の意志って弱まるとこんなに簡単に壊れるのです」
「まあ、俺も壊れた身というかその残骸だから非難はできないが……ある程度わかるし。繰り返し体験したトラウマのストレスが蓄積されて爆発したのだな」
 俺は里見愛の見識に感心していた。心理学に精通するな、創造主の威光故か。
 霞が意見した。「そうよ、直人はなんら取り柄のない自分に耐えることができない……社会の人間全体で見れば、なにか特別な取り柄、技術や知識や能力を持っている人の方が決定的に少ないのに」
「そうだな」俺はやるせなく語った。「普通の仕事の大半を占める工場工員や倉庫内軽作業員等々なんて、なまじなんらかの特別な経歴や資格を持っている方が採用されにくいものだ。俺は厨房内清掃バイトしようとした事があるのだが、履歴書を信じて貰えなかった。なんで大学院出て難関の資格も持つ人がこんな仕事をするのかって。犯罪歴すら疑われたよ」
「でも普通の人は、人並みの仕事をして人並みの生活を送るだけで満足するのに。直人は自分に我慢できない……どこで壊れたのかしら」
 ここで「証人」を呼んで訊いてみた。中学時代直人のクラスメートだった涼平に。「直人は中学初めまで出来る少年だったのさ。五教科の成績はクラス一位とはいかずとも、二位三位……運動はまるでだめだが、パソコンプログラミングも、電子工作もハム無線も出来る。このままの成績なら偏差値70近くの高校に進める、悪くても65だ、努力すれば学区一位だと教師から言われていた」
 俺は疑問気に聞いた。「そんなにできたのか、あの酒飲みのおっさん」
「それが妬まれいじめを受け、荒れた中学なんてまともに勉強できる環境じゃなかった。俺ですら、中学はボイコットしていたのだからな、朝点呼だけ出席して即早退。登下校中はタバコ吹かしていたから典型的な不良少年だったよ」
 驚きだ。この真面目な涼平が。いささかヘビースモーカーであることを除けば真人間なのに。涼平は続けた。
「直人は過度に期待され、毎日無理やり登校させられて「最低でも偏差値65」を連呼された。劣悪な環境で勉強できず、直人はその『最低』以下の高校にしか進めなかった。それでも普通からすれば実力校なのにな。俺は何度も、学校なんか行かないで、俺と一緒に県立図書館で勉強しようと持ち掛けた。しかし直人の親は俺を『落ちこぼれの不良の屑』だとして、追い払った。PTA会にまで発言されたよ」
 霞が飛び込んできた。「直人が失踪したわ! 端末の回線を断ったみたい、不知火くん、検索できる?」
 俺は端末を確かめた。確かに直人の個人データが出てこないし検出できない。ハードウェアレベルで回線を断つとしたら機械工の直人らしいが。「見つからないな、何故だ?」
「置き手紙があったわ」
 紙の直筆の手紙か。読んでみる。
(涼平、おまえおれのこと嫌いだろ、無理して付き合ってくれないでいいんだよ。馬鹿にしているだろ、俺がこのまえ嘘で大学社会人入試受けて落ちたって電話したときにわかったよ、「あはははははっ! ざまあみろ、馬鹿じゃねえの?」なんて言っていたもんな。俺は一人にするよ、馬鹿にする慣れ合い大所帯なんてまっぴらだね)
 俺は問う。「直人にそんなこと言ったのか、涼平」
「いや、確か俺はそのとき、「あ、そうなんだ。まあ仕方ないね」みたいなことを言った記憶はあるが、ざまあみろとも馬鹿だとも絶対に言ってはいないぞ」
 里見は意見した。「典型的な幻聴被害妄想ですね。そもそもそんな嘘の電話すること自体、普通では冗談意外に考えられないですから、本気で電話するなんて精神的に失調を来している証拠です」
 直人。もし敵に回るなら厄介だな、スナイパーには手加減できない。格闘家や武道家なら、五体をどれか軽傷負わせればよほど精神的にタフでなければ戦闘不能になり倒さずとも放置可能だが、銃は身体が痛くても指先動く限り撃ってくるからな。
 だが直人はいままで敵を殺さない、ジャスティス・ショットの使い手で通ってきた。そのポリシーも変わるのか?
 
(グルっぽ『自由創作表現同盟』(管理人、初孤羅さま)の会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。
 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、すまいるまいるさんありがとうございます。
 スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。不知火ら一行の敵味方その他、コメントないしメッセージ受け付けます。
 キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。
 追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)
(続く)