『敗戦』後……俺、無職で無能で馬鹿な男不知火は鬱々とアパートの自室でつまみなしでのどに焼けつくウォッカをストレートでちびちび一人酒飲んでいた。
SFの古典、「幼年期の終わり」か。地球に宇宙を開拓するだけの知性体が生まれたとき……生命はその形態を変える。しかしそれはサイエンスフィクションとしては秀逸ではあるが、現実面からするとオカルトめいている。
いずれ人類が究極に進化すると、人類は生命を超越した存在に成り得る……傲慢ではないか? 他の種の生き物の存在価値を否定して、人間も地上の命の一粒という事実を欠いてはいないか……作者の巨匠にはそんな意図は毛頭ないだろう。むしろ命の賛歌だ。
だが俺は宗教を信じないが、死語の世界を否定はしていない。死んだ後、生命は生きていたときの存在を超越していても不思議はないと、理詰めで納得している。だが人間が生きているうちに通常の生命を超越するだなどと、おこがましいではないか!
と、立て付けの悪い扉が、きしみながら突然開いた。広いトップモニターのある机を前にしていた俺は振り向いた。もう馴染みの深い少女が一人立っていた。
「霞か……」俺は力の無い声でつぶやく。
「酔っているわね、昼間から。鍵も掛けずに酔い潰れたらどうするの? それにわたしと二人きりの時は、本名で呼んでって約束したじゃない、不知火くん」
「ああ、悪いな瞳。霞と語呂が似ているからつい習慣がつくよ」
「あなたやつれたのではない? ちゃんとごはん食べているの? 酒だけは相変わらず飲んでいるけれど……つまみの用意もないわね、ストレス抱え過ぎよ」
「シラフの時の仕事は、電脳神と化した神無月真琴がこなしてくれる。各種シミュレーションもコウらが。俺はジェイルバードのマスターとしては単体では落第だが、情報を仕入れ状況を判断し、打てる時に戦力を投入する、大まかな役割を演じるだけだ」
「そんなお膳立ては、わたしにはどうでもいいの! 不知火くんが無事にいてくれたら。体重何キロ?」
俺は椅子から立ち上がり、部屋の隅に置いてあったヘルスメーターに乗っかった。「53kgだ」
「服着て計ってそれだけ? 標準を10kgは割り込んでいるわよ! これから食べに行きましょう、わたしが奢るから。タクシー呼ぶわよ、ここのアパートの番地幾つだっけ?」
「タクシーなんて贅沢はしない主義だ。瞳だって駅から歩いてここへ来たのだろう?」
「歩けるの?」
「正直言うと、車酔いしたら戻しそうなんだ。歩いた方がいい。なにを食べる? 食欲は無いのだが……」
「回転寿司はどう? 量調節できるから。消化の良さからいえば麺類、お勧めは特に蕎麦だけど」
「では回転寿司にしよう、県道沿いにある。ここから歩いて十分少しだ。俺からすると、贅沢だけどね」
「贅沢? そうなの、回転寿司くらい」
「生保受給者は一食三百円も掛けないのさ。一日千円も食費に当てれば破産する」
「だったら酒止めればいいのに」
「唯一の嗜み、酒代は死ぬほど飲んで一日三百円以下さ。ディスカウント店で純粋ウォッカ4リッターボトルまとめ買いするならね。それを700ミリボトルに移し替えて密閉して暗所に保存する。空気に触れると酸っぱくなるからね。一日三分の二本飲める」
霞は珍しく憤慨した。「政治はなにをやっているのかしら! ここまで切り詰めて生活しなきゃいけない人が大勢いるのに消費税その他税金値上げ、物価も値上げ目標、インフレを起こすなんて。円安になったのではなんの意味も無いのに……伝説のバブル景気とは立場が違うのに。そのときは同時に円高だから採算は取れていたと習ったわ」
「瞳はお嬢様だな。俺は働いていない身、なのに生活できて不自由はしていないよ」のらくら話しつつも身支度を整え、外へ瞳と出て鍵を閉めた。
「あなたは、世界を改革し得る働きをしたのに……」
「あれが仕事と言えるなら、な。それに頭割りにすれば全世界数億人の、一人一回数百円、多くて一人複数回合計数十万円の儲けに過ぎない」心地よい晴れた春の日の下、歩きながら会話続ける。俺に最近欠けていたものって、直射日光だな。
「あなたはその元締めの親の総取りをして、数兆円稼いだじゃない。それを全額寄付しちゃって」
「いいのさ。あれは不知火ではなく神無月の仕事だ」
「不知火くん、人が好過ぎ。せめて一万分の一の一千万円でも懐に入れておけば……」
「……生保は受けられなくなる。俺は傲慢な勝者より誇り高い障害者でありたい」
「頑固なヒーローね、あるいは信念を持つピエロ」
どういう賛辞だ。とにかく店には着いた。時計回りに皿が流れるカウンター席に着く。「俺は決して運命論者ではないが。奇妙な事に、自己の体力と精神力が共にピークの時に落とし穴がある。いや、そんな受動的な罠ではないな。能動的な攻撃を受ける。神無月のころ、神童ともてはやされまさにAIの自我を芽生えさせた十二歳ころに、会社は乗っ取りに遭ったし。大学院で博士号を取り、民主制改革の『ソフト』を作り上げた二十三歳後なんか、人格が崩壊したからな」
瞳は俺の分のしょうゆ皿と、箸とお茶を用意してくれた。「ピークの時に降りかかる災難、それが現実の人間社会も当てはまると? 似たようなことを神無月が語っていたわね……バベルの塔」
俺は愚痴った。「むしろ復讐心から破滅寸前に荒れていた十四歳の時は、優しい少女が助けてくれたし。自我を失い酒浸りヒッキーの時も……瞳、霞としてのきみたちが助けてくれた」
瞳はぴしり、と言う。「甘えないで。みんな不良には親切なのよ。普段素行が悪いのが一回良いことしただけでヒーロー扱い。反面、普段真面目にしている人がたった一回ミスしただけで、非難殺到するわ。なにを食べる? 食欲がないなら半分っこしましょう」言うや瞳は百円のサーモン皿を取った。
思わず照れてしまう俺だった。寿司は二貫ずつ大抵出るから半分にするのはデートにうってつけだな。一口含むや、どっと唾液が溢れた。急激に腹が減るのを自覚する俺だった。マグロ、甘エビ、イカ、螺カイ、ウニ、中トロ……次々と食べていた。小食の俺が瞳と合せてだが、二十皿は食べたか。
ここではっとする。昼食費に五百円以上掛けるのは生保どころか一流ビジネスマンでも馬鹿とするところだ。ずいぶんと豪華に食べたな……瞳の奢りで。
ところで、宇宙艦隊を組むのにこじつけて、俺はすべての隊員の携帯に、異世界シントからの個人データ検索機能を搭載していた。越権行為だが閲覧し、微笑ましくなる。大抵はペアで仲良くやっているな。
浅尾も石田も彼女と親しく交際している。ウィンソンとリムも熱々だ。アレスとリディアは……仲間意識が強そうだな、カップルとまではいかないか。朱莉とカズキは良く分からないが、主従関係に近い仲かな。アルバートとアヴィは……なにか線を引いているな、相思相愛でも良さそうなのに。
涼平は、愛に気があるらしいが。年齢差からしてこいつやはりロリコンだな。いくらイケメンで有能と言っても。里見愛本人は、頑ななところもあるし。そこは大切にしなければ。直人は別れていても、真理を最優先に愛している。軟弱で優柔不断だが、この一点は譲らないのだな。
おっと、ハムを忘れていた。人並みサイズ万能ハムスターのスター、公星。こいつは仲間内に絶大な人望(?)があるだけでなく、人間からも人気あるのだよな、異世界では。雄なのか雌なのかわからないが。
どの道宇宙戦争も恐竜も異世界も常軌を逸した話、俺たちは一般人を遠く逸脱した逸般人だ。いまは幸せなひと時を楽しもう。
(グルっぽ『自由創作表現同盟』(管理人、初孤羅さま)の会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。
亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、すまいるまいるさんありがとうございます。
スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。不知火ら一行の敵味方その他、コメントないしメッセージ受け付けます。
キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。
追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)
(続く)