里見が次いで報告した。「敵ミサイル群第一波、到達まで二千秒強! 現在相対距離五万キロ、相対速度秒速二十五キロもあるです。前進加速はしていませんがです。敵艦隊は相対距離十万キロ以上、相対速度は秒速マイナス三キロと推定です」

 俺は舌打ちした。

 涼平は喜んでいる。「そこまで遠距離からの射撃だったのか。ならば防御射撃でかなり凌げる。これを検出できた里見くんは、まさに玄人裸足の敏腕な情報処理通信管制官だな」

 直人も応じた。「それに敵は間合いをとりつつあるとは。ヒットアンドアウェイで無理なく勝利する狙いだな。俺たちのような寡兵、まともに相手にするだけ馬鹿らしいか。不知火、どう見る?」

 俺は事実を答えてやった。「理論上は99.97%敵ミサイルを破壊ないし無力化できるシミュレート演算結果が出た。残りは直撃するが」

 直人は疑問気だ。「ならば防げるのかな」

 俺は言い放った。「三百万発中の0.03%が残る理屈となる。それも直撃弾がな。計算してみろ」

 涼平は叫んだ。「するとおよそ千発は残るのか……回避できない直撃なら、一撃で戦艦すらも沈む。無論オーバーキルだ! 十分俺たちを殲滅できる」

 直人は状況を整理していた。「反撃する手はない。味方艦を逃がす余裕はない。ただおれたちとハムたち乗組員が全員無事脱出する間は十分にある。つまり。おれたちは負けたな……完敗だ」

 俺は皮肉った。「一将一敗地に塗れ、万骨助かるだよ。よけいな犠牲は出なかった。所詮艦隊なんてただの兵器、消耗品さ。命には代えられない……ハムたちの『愛の歌』作戦だって控えているし。まだ負けてはいないさ。それより急げ! 涼平、提督はおまえだ」

 涼平は命じた。「提督命令だ。全員、シフトにより地球地上へ離脱せよ! 至急だ、艦を捨てて逃げろ。猶予は三十分しかないぞ」

 これは戦闘艇出撃をしていたハムにとっては大変だった。戦闘艇にシフト能力は無い。母艦に戻って脱出シフト装置に辿り着かなくてはならない。もっともそれでも、帰艦に十分も掛かったハムはいなかった。

 命令から十五分と掛からず、すべてのハムと飛竜の脱出を確認すると、涼平は俺たち計十三名の旗艦隊員に退艦命令を下した。一行は早くも帰路に就いた。

 俺は涼平の真剣な面持ちに、敗戦の責任の重圧を感じていることがありありと窺えた。所詮は自動生産の艦艇だし、乗員に犠牲が出なかったのだから、いくら損害が大きくてもなんら気に病むことはないのに。

 純真で真面目すぎるな……こいつは。美徳ではあるが、古来兵法に曰く将の五危のいくつか。清廉潔癖と慈愛過多を踏んではいないかな?

 次々と旗艦ガルーダからシフト脱出していく仲間。俺は艦に別れを告げ、最後から二番目に脱出した。涼平はその確固としたポリシーとして、仲間が全員退却するまでは決して逃げない漢なのだ。

 そうして、春深夜の新都心郊外の公園にあっさりと「帰った」俺だった。ついさっきまで宇宙空間に在ったなんて、考えられない。誰が信じる?

 季節外れにもジョン・レノンのウォーイズオーバーを聞きながら、孫子の兵法をまた読み返そうと考える俺だった。この矛盾した趣味が大好きなのだ。

 俺たちの実力を過大過ぎるほど評価しているのか。三百隻相手に数百万発のミサイルなんて。消耗品のミサイルも一万発も撃てば、下手をすると戦艦のコストを凌駕するぞ。無論偵察艇のコストを軽く超える。

 あるいは――こちらの方が有力だし危険だが――それだけの消耗戦をしても余裕なほど、戦力的に勝っているのか? 『敵』……艦隊は。

 情報が欲しい、情報が足りない。まだ敵がナノテックの手先なのか、恐竜なのかすら判別できていない。それともうわさ通り両者手を組んで……

 とにかく自宅アパートに帰り、シャワーと着替えを済ませた。食事はカップ麺で済ませた。ここで端末にリレー音が鳴った。電脳世界へのリンクのお誘いだ。相手は……やはり霞か。食べても飲んでも太らない体質に感謝してウォッカを一口飲み、リンクする。

 場所は緑多い郊外の静かなゆったりとした公園だ。ハムスターの群れも楽しく駆け回っている。

 霞は申し出た。「正体はわからないけど、『敵』……かれらのもくろみは侵略ではないはず。だってあり得ないわよ、わたしたちの二百倍、あれだけの戦力をいきなり展開させる軍事力なら、地球なんてその気なら半日……いえ半時間で攻め落とされているわ」

「それはもっともだな。むしろ過去の戦役と同様、人類が宇宙征服をするのを阻んでいるだけか。ならば、戦う理由はない」

「不知火くん、タカ派は正当な権利として開拓を押し進めるし、ハト派は世界の分割共有を理想とするわ」

「つまりどちらに転んでも、技術さえあれば人類は宇宙侵略か。鳥は鳥でも、俺たちジェイルバードはどう動くべきかな」

「そう、そこよ。ジェイルバードの存在意義。時の鎖の管理者。鎖を架すか解き放つかはわたしたち次第」

 ここで、通信を務めていた女子高生、里見愛もこの電脳世界の公園にリンクし現れてきた。

 里見は切実に訴えている。「ハムちゃんたちが怒っているです。私たちが倫理に反したってです」

「かれらは全員脱出したろう? なにを怒って」

「船に貯蔵しておいた食糧なのです! 食べ物だってもとはみんな生き物、食べ物に生き物を粗末にするのは許せないってことです。パティシエの石田さんも、闇部族のウィンソンさんもリムさんも、他の隊員も……みんな同意していますです。無謀で無意味で莫大な損失と敗戦にです。もう艦隊はたぶん組めないです」

 この少女は語尾の「です」の使い方がおかしいな。本人は丁寧に話しているつもりなのだろうが。

 しかし常に後手後手に回される俺たちは、能動的にアクションが必要だ。それに俺は魔王として、敵がどれだけいようが、破壊の『鍵』さえ手に入れれば蹂躙できる。俺は言い返そうとした……と、先に里見と入れ違った古代文学者、浅尾もやってきた。同世代の二十代らしき男女を連れている。

 浅尾は語る。「カズキたちから聞いた。たいへんな戦いだったらしいな。だが全員生還とは称賛ものだ」

 俺は浅尾に聞いた。「こちらが彼女さんですか?」

 浅尾は軽く苦笑いして否定した。「美緒には私たち、ジェイルバードの件は秘密です。巻き込みたくありませんから。この二人はイレギュラーですよ。かつて私はその世界の美少女とも逢いましたが。こちらは女性錬金術士アヴィとその同期の元錬金術士アルバート」

 俺は意見した。「アナザーデッキがこうも集まるとは……これは運命の女神は気紛れ過ぎるな。助けになるから召喚されたのだろうが。錬金術か。言わば化学だな。直人が交際していた薬学部出の真理なら仲良くなれるかもしれないな」

 霞は意見した。「これは好機では? ナノテックのナノマシン、『精霊』とは細菌と似ている極小機器。錬金術士なら、操る方法を探れるかも」

 アヴィは意見した。「研究素材としては面白そうですが、わたしの力では何年かかることやら……」

 アルバートも軽く言いのけた。「金属といっても、まさか生きた金属なんて僕とは勝手が違う」

 浅尾は温和に笑っていた。「といっても協力は承知済みの二人だ。潰しの効かない私なんかより、遙かに力になってくれるはず。我々の戦いはこれからさ」

 そう、戦いはむしろ、まだ始まってすらいない。それはおいて……アヴィはハムスターを一匹わしづかみにしている。抱っこするというより扱いが雑だな。

 霞が意見した。「アヴィさん、いくら仮想現実の動物だからって、優しくしてあげなきゃだめよ」

 アヴィはきょとんと言った。「仮想現実ってなに? 野良猫のエサに捕まえただけなのだけど」

 ……生ハムは喰われるのが定めか。自然の掟……

 

(グルっぽ『自由創作表現同盟』(管理人、初孤羅さま)の会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。

 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、すまいるまいるさんありがとうございます。

 スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。不知火ら一行の敵味方その他、コメントないしメッセージ受け付けます。

 キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。

 追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)

(続く)