夕刻だった。『作戦』は成功した。待ち合わせ場所にした郊外の人気のない草原に、任務を終えた巨大な鴉のウィンソンが悠々と羽ばたき、背に男女二人を乗せ帰ってくる。颯爽と華麗に着地する。

「怪我はない?」リムが聞く。

「無傷だ。警官たちは抵抗しなかった」ウィンソンは人間の姿に戻る。「それより、食事を摂りたい」

 ハムスターが応じる。「用意しましたよ、カツ丼、親子丼、天丼、鰻重、ピザ、パスタ、焼き魚、煮魚、揚げ魚、刺身、寿司……その他菓子類につまみ類に、BBQ用の肉と野菜も五十人前は。酒もタバコも」

 涼平は快活に笑う。「今夜はここでBBQキャンプパーティーだな。春の快晴な夜にみんなで火を囲む……学生以来かな、こんな体験。憧憬の日々」

 直人も同意する。「中学も満足に通わず高校中退したおれなんか生まれて初めてかもな」

 ハムスターが割って入り、ウィンソンの身体を肉球の手でポンポン触り回す。「ちょっと我慢して待ってください、ほんとうに怪我がないか確かめますから……ふむ、無事でよかった。お食事をどうぞ」

「ありがとう。きみも闇部族か?」問うウィンソン。

「いえ、単なるハムスターのスターです。では軽食をどうぞ」玉子サンドを差し出すハムだった。

 リムは取りあえずサンドイッチを摘むウィンソンによりそう。「無事で良かった。戦闘は無かったの? ほんとうに無傷だなんて。この国は治安が良いらしいのに防衛力って低いのかしら?」

 涼平は説明する。「治安の良い日本の警官は、まず実弾なんて発砲しないからね。五連装リヴォルヴァーで、一発目は空っぽ、二発目は実弾ではなく空砲、三発目と四発目は実弾とはいえほとんど威嚇用、最後の一発が犯人に向けてだ。しかもできるだけ致命傷を避けた箇所を狙って」

 ここで、飾り気のない簡素な木綿の服を着て……着させられている男女が挨拶した。

 アレスは一礼した。「どなたか知りませんが、助けて頂いたのですよね、ありがとうございます」

 リディアも礼をしたが、俺に声を掛けた。「あら、たしか貴方この前、私がキュートにいたとき……」

 俺は笑い掛けた。「俺はシントにいました。直接ではありませんが、モニター越しにお逢いしましたね、リディアさん。まだ貴女の本来の世界へは戻れないのですか?」

「そうなのよ。アレスとは合流できたけど」

 アレスはぼやいた。「早く装備を取り返したいな。剣と鎧。なまじ大抵の宝より一財産なのだから。なにより愛着があるし使い慣れている」

 ハムスターは提案した。「ならばいまこそここで、機動歩兵フルアーマー・ハムスターの採用を!」

 霞はぽつり、という。「公星ちゃん……もしかしてその装備で地球征服とか考えていない?」

 人間サイズハム☆は慌てて否定した。「いえそんなまさか! 滅相もめっさメッサーシュミット」

 機動歩兵の装備を確かめる。人間でも装備できる。甲虫のような外骨格アーマー、筋力を増強するマッスル、反射速度敏捷性を高める神経内骨格スケルトン、空を舞うウィングからなる。機能的なデザインだ。

 ただしウィングは三倍サイズハムスター用だ。人間サイズの九倍ハムスター並びに人間では、空気の空力揚力比的に空を飛ぶのは不可能だ。

 もっとも推進動力を付ける案もあるが、却下されている。それでは軽飛行機と変わらないから。

 それに標準武装……空気振動波振幅増長機? これって! 拡声機、マイクじゃないか……ハムスター、本気で愛の歌で世界を改革するつもりなのだな。その度量には心から敬意を表する。余人に追随できない。ある意味で世界征服の野望があるのも窺えるが。

 俺は感嘆と懸念していた。空いた口が塞がらないというか塞ぐ間もないほど賑やかな、『戦い』が待っているようだな……『祭り』と言い換えても乙だな。

 なんて混沌な事態に。この世界もう終わりじゃない? 創造主『紙』が病状の悪化で精神的にも肉体的にも経済的にも追い詰められて自棄になっているよ。暴走族に少年時代入りたかった願望があるらしいし。生まれ変わったら堂々ヤンキー貫く所存だな。

 人生太く長くって言いふらしている。その割に細く短く終わりそうだな、甲斐性無いから無能だし。本来は天然の馬鹿だし、純粋硬派路線の『籠の鳥伝奇』と『妖精伝奇』を構成したときの似非優等生ぶりが限界に達しているな。直人張りの不良オヤジが。

 馬鹿が良い子ぶるからだ。無為徒食って楽そうに思えてとても辛いのだ。しかし働くのは無理。薬漬けで幻覚幻聴妄想大爆発だからな。俺たちがその妄想の産物ってところが痛過ぎる……

 いずれ生活保護受ける気か『紙』。海外でミリオンセラー飛ばした、生保受給者シングルマザーみたいなシンデレラストーリーなんて真似できっこないのに。

 などとうつうつ考える俺だった。こんなこと仲間には話せない。一行は仲良くBBQパーティーの準備を終えた。全員、俺にも紙皿と割り箸、紙コップが手渡された。俺はドライジンマティーニをコップ半分貰いみんなと乾杯して、一気に飲み干した。神無月はともかく俺、不知火の人生は火酒の焼ける味のみ、か。

 霞は快活に声を掛けてきた。「なにか深刻な悩みがありそうね、困ったときは仲間に頼りなさい、みんな不知火くんを慕っているのよ。神無月真琴ではなく、不知火としての貴方に。あなたがマスターよ」

「そうだな」俺は焼けた牛串を手にした。そして一気にかぶりつく。旨味のある肉汁滴る、とろける肉片。命を食べる、命を繋ぐ。なにより現在を生き抜くこと……死すべき定めの生き物の習いだ。繰り返す営み。

 直人は酒を種類構わずがぶ呑みしている。こいつ突然死するか長生きするかだな。涼平は酒こそ嗜む程度だがタバコ、ロングピースはきついだろ。

 石田と浅尾は酒豪だな。大食漢で、飲みっぷり食いっぷりが良い。俺たちより落ち着いた大人に見える。

 ウィンソンは旺盛な食欲で、丼ものを次々と片づけた。未成年だが、リムと和やかにワインを啜る。

 アレスとリディアも同様だ。カズキと朱莉の真面目なペアと四人で酒は控えめに料理を堪能している。

 幸せって、こういう満たされた日常あってだな。俺はらしくもなくすでに暗くなった晴天の星空を仰ぎ、天の采配にいささかシニカル気味に感謝した。

 たまにある宴会。気紛れに変わる運命。続いていく世界。それらが生きていくことなんだ。俺は小さい安アパート住まいの生保受給者だが、中学高校レベルの教科にはいささか未練がある。

 三十歳控える俺なんかには時すでに遅しとはいえ、競争でないなら学問は楽しい。なまじ天才的な能力を頼りに数学だけに通じていた『魔王』神無月より、俺の方が努力家ではないか? いやこれは喜劇だ。

 過去誰かが言っていたな。学者にはなれなくても、永遠に学生でありたいと。これは真摯な矜持だな。そうして、現実に負けないよう……

 

(自由創作表現同盟会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。

 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、すまいるまいるさんありがとうございます。

 コメントないしメッセージ、スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。過去の出演キャラでも再登場承ります。連絡お待ちします。不知火ら四人の味方役敵役その他勝手にでっちあげますが。

 キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。

 追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)

(続く)