新都心の安ビジネスホテルに泊まり込み、俺、如月不知火は、バスタブの中でゆったり現状の『組織』の状態を整理していた。ぬるい湯に酔いが心地好い。

 メンバーは俺、横島直人、剣崎涼平にHN霞嬢……が正規の隊員。創造主の違うアナザーのゲスト隊員はカズキ、間宮朱莉、石田雪彦、浅尾昂介。つまり八人……ん? ハムスターも一応仲間には入るか。生きる保存食。

 もっとも浅尾は泥酔して昏睡してしまったし、石田は下水道を通って汚れた俺たちの着替えを調達に出ている。

 いささか常軌を逸脱しているが、この戦力で事態を打破せねばならない。頭数だけは多いな。

1、恐竜銀河闊歩説の確認、事実なら対抗策を執る。

2、悪徳企業のナノマシン『精霊』、魔法を制する。

3、敵役に使われたアナザーデッキ隊員の編入。

4、後は籠の鳥の誓いと掟を務めるだけ。

 ……か、パラノイアの有象無象、一見精鋭実質社会的イレギュラーの集い。それがジェイルバード。

 俺は端末をいじりつくづく呆れていた。この世界の創造主『紙』がここしばらくの猫被った似非優等生ぶりに我慢しきれず、限界に達しているらしい。

 ほんとうは自分に世界をめちゃくちゃにしたい破滅的願望があるのに、酒もタバコも断って粗食の毎日。ほんとうはもっと遊びたいのに働けないから負い目を感じて、ゲームどころかテレビ鑑賞すら断ち柄にもなく活字雑学本にマンガの歴史書等読書し勉強、ノルマまで課してこの『世界』を構築する。

 ったく『紙』学生のときこのくらい勤勉だったら、人生変わっているぞ。俺たちもこんなに馬鹿ではなかったはずだ。無能で怠惰な恥晒しが。

 過去ログによると学生時代の『紙』は真面目だったが学歴コンプレックスの劣等感から酒におぼれ怠惰だった。反面、実技面では敏腕の技師だったつもりらしいが。いまの『紙』は不真面目だけど節制している。もっともなんら取り柄のない無駄飯食いだが。

 さて、あの闇部族二人。鴉と猫にはどう対処しようか。獣に変身されては爪の一薙ぎで、人間の頭なんて吹っ飛んでしまう。現在地を観測……

 そいつらの『布陣』に感心する。やつら俺たちの位置を突き止めたな。いまは人間の姿に戻っているが、俺の端末は一度登録した人物は情報機器駆使しまくってできるかぎりの追跡が可能だ。

 リムはこのビジネスホテルの隣の閉まったオフィスビルに待ち構えている。ウィンソンはその屋上から、俺たちの部屋を見下ろしている。

 鴉は知恵が回るな! 猫を正面に配置し挟み撃ちとは。陸と空からの奇襲を目論んでいる。索敵は上空から、指揮も上空からの、互いの特性を生かしての見事なコンビネーションプレーだ。

 しかし、情報戦なら俺の独壇場だ。闇夜の鴉、墜死に注意することだな。味方にするとして、俺が主でなければ話にならない。ここはこのまま連戦して、俺の実力を高く売り付けてやる。

 ? はるかむかしも同じことを考えて、逆に子分にされたことがあったような気が……む……思い出せないのだが。するともしや『電脳神』神無月真琴の愛した女性か? 早生まれの俺より三学年上として、いま三十二歳かな。結婚して子供もいておかしくないな。きっと魅力的な大人だ。霞のようなお子様とは違う。

 ふむ、ならば襟を正すかな。AIのコウはセカンドデッキを否定したが、もし若きウィンソンにリム……それにカズキに朱莉に適性があるならジェイルバードを任さねばならないだろう。石田に浅尾もどうかな。

 ……って、ハムスターも? あのハム、あらゆる学問に技術芸術武術の一流の能力を電子コピーしているはずだぞ。万能のハムではないか。おとなしい草食獣でなかったらどれほどの脅威となるか……恐ろしい。

 ここではっと我に帰る。いや、『時の鎖』を制する絶対の権限者、籠の鳥のマスターは俺だ。仮にも魔王と呼ばれたこの俺に敵うと思うなら、挑んで来るが良いさ、有象無象ども……。って、それは神無月の話。俺は単なる生保受給者ヒッキーだ。

 自己嫌悪に陥り思い切り心証を害して、俺は風呂を出た。取り敢えず策はある、いかに肉体的に強かろうと知性が優れようと意志が固かろうと、人間は無敵にはいられないものだ。

 人間もしょせん生き物、食べなければ飲まなければ息をしなければ生きられないからな。休む必要があるし眠らなくてはならないし。常にコンディション万全ではいられない。つけいる隙はある。そして情報面の主導権は俺が握っているのだから。

 簡単だ。ほんの1、2秒、完全に無防備になる隙を事前に察知して突けば良い。事前に掴むのは数学屋と計算機の処理次第だな。コウたちにまた任せるか。

 と、ホテルの廊下のソファーに霞が待っていた。霞の携帯にも俺と同じ端末機能をできる限り落としておいたのだ。なにか掴んだな、これは。

 霞は意見した。「あの二人、並の人間の十五倍は食べている計算になるわよ! 二人前くらいを買っては食べ物屋を転々として」

 俺は軽く笑った。「小食だな。人間の五倍の体長から単純計算では125倍食べる必要があるのに。二人してモデル体形の訳だ。すると人間サイズでいる時はあまり食べないで済むのだな。ずっと怪獣サイズではやっていけない証明だ、良く発見してくれた、霞」

 霞はさらに指摘する。「あの二人もほんらいアナザーデッキとして、わたしたちの同志。だけど、わたしたちを襲うのは、嘘を吹き込まれてジェイルバードを社会の敵と間違えているわね。裏は解らないけど」

「裏はおそらく、企業ナノテックだ。神無月とは遠く縁があるからね。それに神無月はその計算機数学能力を、本来遺伝子工学に役立てるために叩きこまれた。結果、生物、化学、物理は不得手な数学だけ特化した似非理系人間の偏った成長をしたがね」

「それが魔王神無月真琴……不知火くんの過去ね」

「俺はしょせん偽人格、架空の人間だ。神無月とは器が違い過ぎるよ。だが反面、ナノテックを制し得る」

「いまを生きて……それだけよ、腰抜けくん!」

「あのね、霞。そのセリフをおっさん連中相手に言わないでくれない? 特に直人や涼平には、まるで俺が性的不能者みたいに思われているぞ」

 ハム☆はさらりといった。「きっとスキンシップが足らないのです。人間も毛繕いの習慣を是非」

 霞は嬉々としている。「ハムちゃん背中ほつれているわよ、ブラシしてあげるわね」

「ああ……人間の方から歓声と花束以外にこんなご褒美までいただけるとは……」ハム☆はうっとりと恍惚とした声で感激している。

 ? 俺の端末が妙な表示を示した。なんだ……このハム☆の嗜好がピスタチオナッツを抜いて霞のグルーミングが好きと出ている。カシューナッツよりは下ではあるが由々しいな……ってそういう問題か!

 ハムはいまの時代、人類の食糧問題改善の為に存在すると思うのだが。食糧用の無菌ネズミ、巨匠の名作にも登場したし。ま、いいか、いまは仲間で。

 ふと、ラジオ地方局にニュースが入った。新都心で銃刀法違反のファンタジーマニア逮捕? 中世西洋風の戦士のコスプレをしているが、剣の刃が真剣。男はアレス、女はリディアと名乗り……

 

(自由創作表現同盟会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。

 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、すまいるまいるさんありがとうございます。

 コメントないしメッセージ、スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。過去の出演キャラでも再登場承ります。連絡お待ちします。不知火ら四人の味方役敵役その他勝手にでっちあげますが。

 キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです)

(続く)