いささかイレギュラーな五人組は、新都心の平和なはずのカラオケの一室で三時間歌い尽し、一息して現状を憂慮していた。真に由々しき事態だ。俺、魔王こと如月不知火はこの異常に唸った。「あの男がいれば、力技で正面からなんとかなるかもしれないが」

 霞は肯いた。「かつてステイルメイト、手詰まりと呼ばれた戦役で、厄病神と恐れられた男ね」

「そう。敵からどころか味方からすら恐れられた男……異世界では非常識にもグレーターデーモン大帝すら素手で屠り伝説の英雄として世界を救い……」

「え、それは知らないわよ。腰ぬけくん、パラノイア入って無い? いくらなんでもゲームやり過ぎ!」

「俺はしょせん架空の人格、サイコだよ。あの男……時雨にはなんでもありだろ。無敵のワイルドカード」

 霞はカードから引用した。「円卓の騎士なら不知火くんはつるぎのエースね。あるいはキング。わたしは聖杯のクイーン」

「つるぎのエースは神無月だ。俺は王錫のジャックだな。平札には負けないが名の付く中では最下位さ」

「でも策はある。それが腰ぬけくんでしょう?」

「ああ、だから直人を招いたんだ。彼は戦いにおいて退路を確保するのが常道だからな」

 直人は軽くうそぶいた。「ああ、簡単さ。関わらなければ良い。俺たちは感づかれてはいない」

 俺は疑問だった。「直人らしいといえばらしいが、いささか消極案に過ぎないか?」

「不知火、おまえこそ策士だろう。俺を売った時の事忘れていないだろうな? ソードダンサー戦役で」

「時効だ。それよりやつらは昼間に男の鴉、夜は女の猫……昼夜の時間違いを利用して各個に撃退する。しかしそれより衝突を流せれば無論最善ではあるが」

 涼平は進言した。「俺は消極案を好まない。ジェイルバードの仲間としての実力を双方知り合うために、ここは正面から応戦しよう。まず正を持って対するは兵法の常道。シュリークなら絶好だ。スクリームもシンフォニーも活躍するはず。そういやシャウトが余っていたな、これは霞に譲れば?」

「やれやれ、喧嘩がお好きで。OK、外へ出ようぜ。あと二時間は飲みたかったがな」

 支払いを済ませてカラオケ店から出る……俺は検索していた。ウィンソンにリム、裏手に潜んでいる!

 銃声が響いていた。これは、かれらと朱莉とカズキペアが戦っているな! 無益な争い、阻止せねば。

「涼平、一斉射撃スタンバイだ。ははは、景気良く撃ってくるね」笑い飛ばす直人だった。「おかしいな、ナイフピストルはオートマチックとはいえ、あんなに連発が可能とはね。マガジン(弾倉)が長いのかな」

 涼平は反論した。「いや、それならナイフなんて使えないし……予備のマガジンを複数持っていると考えるべきだな。それにしたって弾数多すぎる。マシンガンとは違うのに。いささか銃身が加熱するはずだな。ふむ、暴発を誘えないかな。すると直人、アルコール弾頼むよ。念のためハムにはサヴェッヂを持たせて」

 って二十連射はしているぞ! おかしい、いいかげんマガジンを交換するはず……ここで堅物理系人間の考えつかない発想に思い当たった。魔法が! 魔力で弾丸を精製……これでは弾数は無限と言える。

 霞も気付いたようだ。「弾数の限界は敵の体力気力次第よ。あの高校生カップル、付け込まれる!」

 その時だ……カッ!!   突然凄まじい強烈な閃光が横切った。正面から見たら眼がくらんでいたな。これをウィンソンとリムに? 直人の手か、良い作戦だ。「やるな、これだけの光。なにをした、直人?」

「昔のカメラのフラッシュさ。90年台にはもう見られなくなった、一回限りの使い捨ての高級品だがね。鴉も闇目の猫もこれには応えたろう」

「燃えているな、敵の銃! これも直人か」

「ああ、100%ウォッカを飲ませてやった。ナイフピストルはこれで終わりだ……おっと!」

 俺は戦慄していた。眼前で二人は、建物を超えるほどの巨大な漆黒の鴉と真っ赤な猫に変身していた。美しい鴉と妖艶な猫だ。やつらは目標を俺たちへ変え、力技で来るか、ならいくら俺たちでも敵うはずはない……すると自然、敵の視力が戻る前に手を。

 涼平は叫ぶ。「化け物だ! どうする、直人は退路を確保しているはずだろ?」

「下水道を使う。マンホールの蓋開けといた。とてもあの化け物の大きさでは追って来られない。もし人間に戻るなら、白兵戦で始末するだけのこと」

 俺はぼやいた。「ここではハムスターもさしずめ、マウス、ハツカネズミじゃなくてラット、ドブネズミだな。悪徳著作権濫用ネズミハウス御用達」

 ハムスターは憤慨している。「失礼な! 私どもはそんな利権争いなどせず自由と平和を愛する民です」

 霞は提案した。「無駄話していないで、敵の視力が回復する前に逃げることよ」

 で、俺ら五人一行はマンホールからはしごで下水道へ降りて行った。直人の用意していた電費安いLEDライトが小型なのに十分眩い。にしてもやはり薄汚れて異臭がたまらないな。早く場をはなれなくては。

 涼平は指摘した。「問題は座標が掴めないことだ。通路図なんて無いしナビは働かないしね。直人は地図が読めないという致命的障害を抱えているし」

 はっと気付く。携帯端末が圏外になっていやがる! ヤバいな。一時地上へ出て、位置をセットしないと。

 直人は楽観的だ。「とりあえず、いざというときの非常食はたっぷりとあるし」

 涼平は問う。「それは用意がいいな。で、どこに」

 直人に指差され震え上がるハムスター。「ひええ、私ですか?!」

 ハムスターの大きな悲鳴が下水溝内にわんわん反響する中、霞が割って入る。「だめよ! 動物虐待!」

「ケチ」直人はつまらなそうだ。「まあ、少し歩けば別の出口へ繋がるだろう。上がどこかは度外視して」

 ハムも抗議した。「私たちにはハムスター権があります。シント市民としての正当な生きる権利です」

 俺はあえて言葉は伏せた。権利があるのは異世界のシント立憲君主国においてだけだ。現代日本のここでは通用しない。教えるのは気の毒過ぎるから止めだ。

 涼平は不味そうにロングピースを吹かした。「ああ無情……ザ・マミレダブル。身も蓋もないな。少なくともここでは食欲はわかないさ」

 直人も同じく不味そうに、悪臭の漂うここで新しいポケット瓶をあおった。「シラフで生きていくだけくだらないさ。そもそも現実が狂っている……それともおれが狂っているのか? は、ドブの味がするぜ」

 ハムスターは呻いた。「こんな恐ろしい世界へ招かれて……私どもは愛の歌で現実を変えるだけです」

 愛を愛する愛の民、か。愛ってなんだっけ……つくづく自分の存在に疑問を感じる俺だった。霞はこんな環境なのに喜んではいるが。お子様だな。

「♪喜びも哀しみも~怒りも憎しみも~すべては愛~愛から生まれる、包み込んで広がり~素敵な夢を紡ぐ~それが愛……哀しみを溶かしてくれる~怒りを鎮火する~憎しみを流し去る~」歌いまくるハムスターの酔っ払い声が、地下の下水溝に響いていた。

 俺は無論疑惑に駆られていた。ジェイルバードの再結成はわかるが、なぜアナザーデッキまで召喚され、しかもいちおうの『仲間』同士争う理由は不自然だ。自然、背後に兼ねてからの陰謀が蠢動しているな……日本中央ナノテクノロジー。

 

(自由創作表現同盟会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。

 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、すまいるまいるさんありがとうございます。

 会員奮ってのご参加、お待ちしております。コメントないしメッセージ、スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。

 過去の出演キャラでも再登場承ります。連絡お待ちします。不知火ら四人の味方役敵役その他勝手にでっちあげますが)

(続く)