(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)
僕こと時雨は戦闘機を駆り、意気揚々とキュートへ向かっていた。しかし凶法は突然飛び込んだ。ソング総統からだ。「シントは財政破綻します! 数値的にこのままでは明らかです。これは見落していました」
僕は上空を最適燃費巡航飛行続けたまま、通信機に話す。「いかがされました、総統閣下?」
「ハムスターの食費です! シントを食い潰してしまう勢いです。ネズミ算の結果を送信します」
虚空にウィンドゥが開く。各種グラフ表示される数値の群れ。これが指数計算ってヤツか! 高校で真面目に習うべきだった。ネズミ算の恐ろしさ、ハムスターたちが少なくても一カ月に一回五匹の子をもうけると、どれだけ繁殖するか……僕は念頭になかった。
ええと、たった四ヶ月で百倍を軽く超える! 一年なら億だ! 現在概算二千匹か……。これがひと月後には五倍に、一年十二ヶ月後には……あれ、モニターの数値大きすぎて読み取れないよ。数え間違いそう。
不知火は呆れた口調だ。「これだから止めたのに」
僕は訴えた。「でもハムスターには、避妊薬避妊具渡したはずじゃないの?」
「それを上回る勢いで繁殖しているんだ。第一、通常体普通サイズのハムスターは自分でそんなものは使えないし、あんなたくさんいちいち管理もできない」
巨大ハムスター好い友達になったと思ったのに……残念だな。喰うか食われるかでは、誰だって喰う側に就きたいのは自然の摂理。僕は提案した。「九倍体と三倍体のハムスターだけシントに住まわせ、他の普通サイズは野に放ったらどう?」
不知火は反論した。「人間の食事に舌の肥えたハムスターだ、そう簡単に都市を離れるものか!」
アーダは提案した。「普通サイズは、ペットとして売り払えば良いのでは? シント二十万人口六万世帯として、流行れば一万匹は需要が見込めるわ。いまはまだそこまで増えていないはず。手を打ちましょう」
総統は懸念していた。「現実は、そううまくいくでしょうか。それに、三倍体九倍体の巨大ハムスターはとてもペットには向きません。そこで彼らはつまり」
不知火は肯いた。「働かせるべきだな。ヒマワリや落花生栽培し種を食べさせ自給自足し、ロックバンド組んで音楽慰安部隊に編入して給料を稼ぐ。諸外国へ赴いて、外貨を稼いでもらう線も有効だ。だがこんな人間の利益絡みの仕事、快諾してもらえるかな」
しかしソングはかぶりをふった。「それが医療機器開発エンジニアに輸送機操縦員を志望するのもすでに出ている始末で……なんてサイバーなハム……」
気楽に語る僕。「ハムスターの主は万能の『カミ』だからね。僕らの怠惰な『紙』とは大違いさ」
ソングは語った。「都市から出せる報酬といえば、彼らにシント市民証を発行して、各種保険サービスに加入させ、シント市民として共存して貰うこと、それが精一杯です。もちろん端末も付けてもらいます。奇しくも偶然ですが、鎖国政策を止めた後ですし」
ハムスターが市民ねえ。そうなると、もはや食用ではなくなるのだな。僕は一人、ハムスターを案じていた。かれらはシントを護る義務も課せられたのだな。いかに志願兵制の共和国とはいえ、入隊は……激戦は必至だ。ハムスター兵か。前代未聞かな?
「ジョニーよ、銃を取れ」ならぬ「トッポジージョよ銃を取れ」、か。「ジョニーは戦争へ行った」みたいな惨事が起きないことを祈るばかりだ。
シントとの通信はうやむやの裡に終わり、ものの半時間のフライトで、僕はキュート王国王都上空へ辿り着き、スムースに空き地に垂直着陸した。燃料十分の一以上消費したな、補給はシントでなくては……
と、ここで機体に近づいてくる警備兵の群れ……隊長格の男は、毅然と言い放った。「貴君は王国の領空を侵犯した! シントからの機体であろうが、金貨千枚の賠償を命ずる。さもなくば最低半年の禁固刑だ」
僕はうるうる泣いていた。王国防衛のために来たのに! 「僕はデーモンと戦いに来たんだよう!」
この答えに、十数名いる警備兵たちはどっと笑った。しかし僕は泣きながら自分は王国自由騎士なんだと主張した。しかし彼らは取り合ってくれない。さすがの僕も怒った。激情を前に、涙は止まった。
隊長は戦闘機から降りるよう指示した。僕は飛び降りひらりと着地すると、隊長の懐に飛び込み押し倒しながら軸足を大外刈り決めた。隊長は倒れた。
わあっと怒声が上がり、警備兵どもは警棒で攻撃してくるけれど、素人が扱えば爪楊枝と変わらないな。僕は打撃、払い、避け、投げ等々駆使して全滅させてやった。計十二名か。骨が無いな、無駄飯食いが。
「あなた、面白いわね。なにげに強いし」唐突に若い女性の声がした。「私なんかが助ける間もなしに」
見ればくせのある流れる金髪、宝石の様なペリドットの瞳。細みの長剣を帯びている。僕より15cmは高い平均男性並みのすらりとした長身、全身皮革の鎧から革ブーツ革手袋まで真紅に着飾った女戦士だ。
女戦士は自己紹介した。「私はリディア・ノース。ただの流れの剣士よ。ほんとうは四人で旅をしていたのだけれど、仲間とはぐれてしまって……」
返事した。「僕は時雨です。本職は新都心の警備会社の警備員監査役……の、はずなのにここでなにしているのだろう?」
「するとあなたも迷い込んだ口ね」リディアは当惑している。「ここは異世界。おまけに私のもといた世界と、あなたのもといた世界は別々らしいわ」
「でも」僕は意見した。「僕とリディアさんの創造主は同じ世界にいる。リディアさんだけじゃない、グレイルもコウもアーダもアンジェリカも……ハムスターもみんな別々な創造主だ。各々の創造主は、みな同じ世界に存在するらしいよ。ああ、SFだなあ」
「なに、SFって」
「サイエンス・フィクション。それともスペシャル・ファンタジーの方が適切かな。ああまったく、事件の発端の技師リティンを捕まえたいよ!」
「シントとやらではなにかひと波乱あったらしいわね……でも本題は明日の晩。ほんとうに現れるとしたらグレーターデーモンに対処しなきゃいけないわ」
空を見れば今日の日もかなり傾いていた。
(すまいるまいるさん、亜崎愁さま、akiruさま、初孤羅さま、月村澪里さま。ゆきえもんさま。ご参加ありがとうございました。不備があれば訂正します。言動をアドバイス下さい。他の会員さまもお願いしますね、参加待っています)
(続く)