アジトの一室に面々は集まっていた。会話を始める逢香、直人、真理、涼平。
「昨日の飲み会、楽しかったなあ」と涼平。
「わたしも、おごってもらって悪いわね」真理がいう。
「いいよ、真理は酒飲まないから」直人が答える。
「でも、結構食べたわよ。焼き鳥おいしかったわ」
「焼き鳥って、肉そのものよりも、ヒナ皮、軟骨、モツとかが美味いよね」
「レバーとかカシラ、スナギモもね。直人は、嫌いなものないよね」真理はふと聞く。「イナゴの佃煮や、蜂の子って食べれる?」
「ツチノコ食べたことある」直人はさらりと答えた。
「だめだ。直人はなんでも食べるから」涼平はふっと笑う。「直人って、ひそかにモルモン教徒だろ」
「なに、モルモン教って」
「酒、煙草はもちろん、お茶もコーヒーも飲んじゃいけないんだよ。つまり直人は背信者」
「麻薬ならいいの?」直人が聞く。
「麻薬や覚醒剤は、やっぱりいけないな。中毒になる恐怖もあるけど、怖いのはその値段だよな。止められなくなったら身の破滅だよ」
「そうだ。麻薬なんかより、酒にしろ!」
「どうしてそういう結論になるかな、直人は」涼平はからからと笑っている。「酒だって金かかるじゃん。煙草も高くなったなあ……」
「打開策はある!」直人は力説する。「酒を飲みたいけど、あまり金がない。そんなときどうするか。注射器で、酒を筋肉注射すればいいんだよ。めちゃくちゃ酔える。少し量多いと即死だけど」
「それをマジで実行するのは、さすがに無神論者だけだよな」
「悪徳なんか怖くない!」
「直人、おまえ地獄に落ちるな」
「地獄? みんなで行けば怖くない!」
「だめよ、そんなことしちゃ。酒だって毒になるのよ」真理が言う。「というか、どんなものだって飲み過ぎれば毒。死ねない薬は薬ではないっていうし。逆に、毒だって少量なら薬になる場合もあるし。酒は百薬の長、か」
「酒の飲み過ぎは、煙草の吸い過ぎより身体に悪いぞ」涼平が言う。
「ニコチンの経口致死量は、60ミリグラムほどよ。一本2ミリグラムとしても、一日強い煙草三箱も吸う人は、死んでおかしくないわよ。直人って、いつごろからお酒、飲んでるの?」
「覚えてないなあ。おれの家の近所の神社では、お神酒を茶碗一杯くれるんだよ。だから覚えている限り、小学生から」
「ま、わたしだって小さい頃お父さんに、ビールの泡を舐めさせてもらったことくらいあるわ」
「おれの母は、雪国育ちでね。冬、遠い小学校に行く前に、軽く酒を引っかけて行ったっていうし。雪の積もる厳寒のなか、毎日スキー板履いて」
「それは微笑ましい思い出だけど。わたしが聞いていたのは、そうじゃないのよ。本格的に、酒を飲み始めたのは?」
「高校中退時。16歳だな」
「結構遅いな。俺の喫煙は中学からだ」涼平がいう。
「おれは、真面目だからね。煙草は26歳からにしようと思っている。そうすると、平均して21歳になるし。おお! なんておれ真面目なんだ!」
「なにが、意外よ。なにが、真面目ですって? 高校生から酒飲んでたんじゃ、不良じゃない!」
「その台詞は言外に、高校出れば未成年でも飲んでいいっていうことだね」
「そういえば、結婚さえすれば未成年でもお酒飲んでいいらしいわよ。社会的な立場として、大人と見なされるんですって。神前の結婚式できないから」
「で、直人。なにを飲んでいたんだ?」涼平は聞いた。
「主にウィスキーかな。安いから。ジンやウォッカも好きだよ」
「水割り? ロック?」
「だいたいストレート」
「きっつうぅ~! アルコール度、40%くらいあるだろ。ビールとか呑まないの?」
「ビールは、高いからね。呑むとしたら発泡酒。第一弱いから、酔う前に腹が一杯になっちゃうよ」
「直人って、血管をブランデーが循環しているんだね」
「涼平は、血管内をタールが巡っているだろ」
「ワインや焼酎でも度数弱いの?」
「焼酎は、子どもの飲み物だよ。小中って言うくらいだからね。そうゆう弱いアルコールは、高校までには卒業した」
「って、いつから飲んでいるのよ直人くん!」逢香が言う。「危機意識とかモラルないの?」
「なら俺。マンティコアの針で、ダーツを作ったよ」涼平は、カバンを開いて中を見せた。ダートが三本入っている。柄はプラスチックで一見市販のダーツに見えるが、暗褐色の針はどうやら金属ではない。「ど~だ、大抵の人間なら、かするだけで麻痺するぞ」
「器用なやつ」直人は感心している。
「勉強して、歴史、異文化、外国語覚えたら? ペンは剣よりも強し、よ」逢香が提案する。
「そうだね。確かに、ペンは剣よりも強いよ」と直人。カバンを開け、ペン箱を取り出す。「おれもいろいろ持ってるけど。ペン型銃、ペンシル爆弾、ペンシルロケット。関係ないけど、ペン型のカメラとライターもある。持ってないけど、吹き矢も作れるよね」
「意味がちがうわよ、意味が!」逢香は反論している。
「いつもそんなもの、持ち歩いているのかよ!」涼平は吹いた。
「護身用にね。極めつけは、このボールペン」直人は、直径5センチくらいの金属性の球を見せる。
「この丸っこいのが、ボールペン?」
「よく見てよ。マニピュレーターが付いてるでしょ。自走式の武器なんだ。かつて人はこれを、{動く棺桶}と呼んで恐れた」
「それを敵にすることを恐れたのではなく、それに乗って死ぬことを恐れたんだろ、知っているぞ! んなもんのミニチュア作るなよ」
「まだあるよ。この、消しゴムなんてどう?」
「丸いね。いっぱいあるなあ。赤青緑……」
「気をつけてね。同じ色のを四つくっつけると、消えるから。回りのものも巻き込んで」
「って、スライムかよ!」
「なら涼平さんにプレゼント。煙草だけど」真理は涼平に紙の箱を手渡す。「これを吸うと、体内のアストラル体が分離して、エクトプラズムを発生するのよ」
「いらんいらん」涼平は嫌がっている。
「煙草型爆弾もね。火をつけたとたん、ドカン! 最強のブービートラップね。商標は、{タバコン}。タバコとたばかるとバコンをかけたヒット商品」
「やめて~」
「それからね、涼平さんのジッポ、火炎放射器に改造できるよ。百円ライターは、ガス爆弾にできるし」
「もう勘弁してよぅ」
「マッチも銃の弾丸の炸薬にできるよ。先っぽについているリンを使うの。絶対に足がつかない」
「じゃあ、俺の話しを聞いて」涼平が真理を遮る。「俺は主に、刃物使っているけど。でも、アーミーナイフとか高い。少し良いのになると、すぐに数万円する。安物では、脆くて使いものにならないのもあるしね。良くナイフに使われるステンレス、あれは駄目だよ。すぐに折れる。鋼でできていても、包丁やペーパーナイフでは大抵刃が薄くて弱いんだよね。そこで、どうするか」
「店先から、ちょいと拝借するんだね。駄目だよ涼平」
「直人、人の話を聞けい! それでね、金が無ければ、工具の手斧がお勧めだよ。安くて頑丈だから。投げても使えるし。武器としてだけではなく、木を切る道具になるのもポイント高いなあ」
「でも斧って、いまいち格好がね」
「俺は、良いと思うけど。直人は、なにか白兵戦用武器を持っているかい」
「知り合いジジイに元革○がいてね。闘争のシンボル、ゲバ棒をもらった」
「え! 直人って、左翼なの?」
「政治に興味はないよ。右からも、匕首と日本刀」
「やばいことが続いたからね。無理ないか」
と、突然照明が消えた。まだ昼間だから日光だけで明るく、明かりが消えたこと自体はどうってことはない。しかし。次の瞬間、パパパパンという音が鳴り響いた。方向は、下の階のようだ。
「銃声?」涼平が鋭く言う。四人目を交わす。
「間違いなく銃声よ。涼平さん」真理はうなずく。「それも部外者の銃ね。わたしたちは致命的武器使わないのに今の銃声は、サブマシンガンだから」
「銃撃戦か!」直人は臨戦モードに入った。「サブマシンガンは、拳銃の弾丸を連続発射する、口径が小さくて威力の弱い機銃。こんな屋内の対人戦闘に向く」
「なにが起こったの?」逢香が聞く。
直人は携帯を操作した。「0に連絡……見つけた。銃などを持った覆面の男が八人……彼らの目的は……アーティーファクトを盗み出すことだ」
「魔法のアイテムね。オブジェには、護符になる高価な宝石が多数使われている……」
「ただの、こそ泥。重武装のおれたちに、敵うはずないよ」笑い飛ばす直人。
「それじゃ、ぼちぼち始めますか。打倒、強盗団!」涼平はゴム弾エア銃シュリークを手にした。
「0に頼んで、電波を流す。電子機器を壊すんだ。連中の通信手段は、携帯だろうがトランシーバーだろうが使えない。スタンガン系の武器も壊れるね」直人は余裕だ。カルシウム弾拳銃スクリームを構える。
「どの薬物使おうかなあ」真理はカバンを引っ掻きまわしている。
「なんだか、泥棒さんたち可哀相になって来たわね」逢香はぽつり、といったが木刀の用意は終えていた。
(終)