(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)
早朝の高級官僚宿舎の私室だった。勤務時間外だが、私心理医師ラプター準将は昨日話題に上った時雨を登用しようと、策を練っていた。あの飄々とした男、地位、権力、財力などで動く俗物ではないな。その気になれば、戦乱期にあって一将足り得たのだから。
時雨は人買いのごろつきの群れに攫われようとしていたあの幼女アルラウネを助けシントに連れたのか。戦禍はほぼ収まったというのに、辺境は治安が悪いな。
しかし世界を統一した政府の下に置く、なんて発想自体が戦乱の火種になる。国際連合を作り、やがては各国が主権を放棄して統一連邦になる……これは滅んだ神話伝説の文明理想的未来図とされているが。
繰り返しになるが、民族の独立は何人にも侵犯できない絶対の権利だ。独立、解放、自由、自尊、平等、博愛、その他……世界の美徳はここから生まれる。
征服や統一ではなく、理解と調和こそが求められているのだ。民主国家に王はいらない……はずなのに、なんとシント共和国では国王が選出されていた。
昨夜の内に直接民主投票選挙で決まったのだ。この統治体制は時として劇薬となることを痛感する。あくまで立憲君主制度での王だが、それがまさかあの技官リティン二尉とは……。
デーモンとの戦いにいちばん活躍した乗り込み人型兵器、フリーダム・ナックルファイターを開発した功績が評価されたのだ。あのサイコ野郎が……まったく正気の沙汰とは思えないが、これが時代の流れか。有為転変は世の習い、だな。
まあ、政治的な権利が彼の手に動けば、ソング総統の負担も軽くなるというものだろう。しかし世論ではソング総統をリティン王『陛下』の王妃とする意見すら多々叫ばれている。
あの可憐で繊細、潔癖な少女のような総統を、マッドでサイコ、パラノイアで人間より技術とマシンを愛する理数人間、過去の用語でまさに『ヲタ』のようなリティン王に……ぞっとしない光景である。
とにかく、時雨を探す手配を整えなくては。私は朝のシャワーを済ませると、将官の制服――白衣ほどは気に入っていないのだが――に着替え、もはや馴染みの『イレギュラー』たちに会いに行った。シント外人物だ。いずれも、この世界司る『紙』の創造したものではない。私もアーダもイノセントもだが。
総統の執務する地下三十階の中央集計制御室に、イレギュラーたちがずらりと集まる。ここで拍子抜けしてしまった。時雨の位置が判明していたのだ! それもイレギュラー1の問題児、セラフにより。
セラフはペオシィンもかくやだな……まさかシント中央集計処理装置をなんと個人端末から操作どころか、ハッキングできるとは。本人は「簡単過ぎ!」と言い切ってはばからないが。なんと、シント国外にいる時雨の位置を探り出してしまった! これは彼、キュート王国に向かっているな……
では取るべき道は一つ。この面々で心理戦隊特別班を作って時雨と接触する。私は命じた。
「主力第一班、石田、浅尾、イノセント」
「了解しました」石田はノリノリだ。
「補佐第二班、真理亜、アレス、優輝、アーダ」
「私で好ければ」真理亜は了承した。
「予備第三班、セラフ、リオン、アルラウネ、私」
「嫌だ」リオンは泣きそうにぐずっている。「だってセラフお姉ちゃん、僕をいじめるんだもん~」
セラフは意に介していない。「いじめてないわよ、可愛がってあげているでしょ?」
私は返答に困っていた。心理医師として、適切な発言はどうかな……たしかにセラフには悪意害意はまったく無いだろうが、リオンにとってはいじめなのだ。子供に良くある行き違いだな。
この『イレギュラー』の面々なら同じくイレギュラーな時雨を平和裏に仲間にできるかも……と、思ったのだが真里亜は楽しそうだ。
「時雨か。久々に骨の有る相手とガチで組み手できるみたいね! 自分を凌げる敵がいないと、なにごとも上達しないもの」
ふと優輝が提案した。「ソング総統の『紙』ならぬ、オレの『上』の子供なら、人間に限れば真正面から時雨に対抗できるとしたら、コウ・ソンしかいない!」
私は問う。「人間に「限れば」って?」
優輝は真剣に語る。「逆に言うと『上』には人間でない子供も幾人もいるんだ……あからさまに強いよ、反則技みたいな」
アルラウネはぽつり、という。「黒猫の優輝お兄ちゃんを含めて?」
リオンは慌てて止める。「駄目だよアルラウネちゃん、それは秘密」
浅尾は軽く言う。「とっくにばれていますよ。いささか非科学的ですが魔法まであるこの世界では、古代文学者としても学ぶこと多々あります」
石田も同意する。「時代に世界が移ろいでも、人々の暮らしぶりはそうそう変わるものではない。ケーキ職人としての技が通用してなによりだ」
私はみんなの好意にいささか恐縮していた。「悪いな、みんなのそれぞれの役職外だろうに。勇者アレスに、闇魔術師リオンは除くとしても」
アレスは穏やかに語る。「平和な仕事で良かったです。剣を抜かずに済むなら越したことはありません」
真理亜もにこやかに引用した。「一文惜しみの百知らずと言います。ここは稀有な体験を、ゆったり堪能するとしましょう」
ここでソングは引用した。「一将功成りて万骨枯る、と言います。私たちの勝利の陰には名も知られず散った命が多々あったことを銘記せねばなりません」
「は!」私は最敬礼した。「将としてより医師として、世に貢献したいものです」
「謙虚なことですね、足るを知る者は富む。教うるは学ぶの半ば、私も見習いたいところです。手書きあれども文書きなしといいますから」
「得を取るより名を取れは職業倫理としてよって立つところです。私のラプター家はいちおう地主でそれも伝統ある旧家。総統閣下は平凡な家庭出ですが、氏より育ちといいます。ソング総統の才には私は及ばない」
「ではみなさんの活躍を蔭ながら応援しています」
……かくして時雨の下へ向かう私たちだった。V-STOL(垂直離着陸)機に輸送され、現地の荒野へ飛ぶ。徒歩では一日掛かるにしても、飛行機ではほんの十数分ほどのフライトだ。この国は狭いな。
アルラウネは不安そうだ。「帰れなくなりそう……」
着陸するやいざ格闘王時雨の下へ……いない? どこへ行った、おかしいな、測定座標はほとんどゼロだぞ……?! V-STOL機が離陸を始めた! なんだ、命令も無く!? あ、パイロット兵士が置き去りにされている! 時雨に奪われたのか……シント特別班一個小隊時雨一兵相手に、一敗地に塗れるか。
浅尾はことわざを語る。「両雄、並び立たずといいます。それよりは和を以て貴しとなすべきでしょう。忍の一字は衆妙の門、つまり忍耐は成功の第一条件」
石田は声を上げた。「余裕かましている場合か! 俺たちここからどうやって帰るんだ? 食料に水!」
セラフならなんでも創造できそうだが、リオンは泣きだした。アルラウネは年上のリオンをなだめていた。
(月村澪里さま、初孤羅さま、亜崎愁さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま、秋月伶さま。有り難うございました)
(終)