(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)
職場の机にカフェオレを用意し、私、クワイエットはゆったりとくつろいだ。仕事のファイルは積み重なっているが、今日は心理医師としての外来勤務ではないから、どうせ大した仕事ではない。
軍事的・政治的な事務処理をこなすデスクワークの方が準将としての立場上重要視されるが、私は現場の外来勤務を誇りにしている。
このシント共和国に、平和な安寧の時代が到来したのだ。こうなると職業軍人なんて国の食客、寄生虫みたいなものだな。治安維持は警察だから管轄外だし。憲兵隊に人員を回し強化すべきか。そもそも軍隊としての憲兵隊を、警備隊に変革すべきか。
すると警備隊総監を任せられるような傑物、適任者は……一人思い浮かんだ。そこで警備網を手配した。任務はただ一つ。無双の格闘家、時雨を捕まえろ!
無論簡単な仕事ではない。時雨は身長こそ私と変わらないくらい低いのに、体重はかなりあるがあまり太ってはいないどころか、筋骨隆々としている。
加えて素手での格闘技に連達する。基本は柔道らしいが、空手、合気道、少林寺、カンフー、ボクシング、レスリングその他総合格闘技の類まれな使い手だ。
こちらも人選を考えねば。三好真理亜……彼女も柔術の大変な使い手だな。時雨と渡り合えるだろうか。しかし素手となると他に候補者はいない。
イノセント・レパードなら体力は時雨を遙かに凌ぐだろうが。単なる突きに蹴りの打撃戦なら優位に立てるとしても、格闘技を知らないのだからひとたび組まれれば、投げられるなり締められるなどして終わりだ。
アレス・ティンバーは勇者だが、優しく純粋だからな……望んでも好んでもいない戦闘任務なんて引き受けないだろうし。魔法もある程度使えるらしいが……
泉田優輝は完全に戦士ではない。しかし猫のごとき俊敏さで、というか猫の動きで回避だけは上手そうだ。投げられても身の軽さでダメージは負わず、関節技もするりと抜けそうだな。
リオン・エレン……こんな子供を使うわけにはいかないが、闇魔術師としての能力は極端に秀でている。なにか良い魔法はないものか。
石田雪彦、浅尾昂介……祝勝会のため臨時に雇用した二人だが、二人とも結構喧嘩慣れはしているらしい。パティシエに学者なのに、人は見かけによらないな。
しかし人海戦術を使って勝っても意味はない。逆に言うと、時雨という兵(つわもの)が一対一で戦って勝てる相手ではヘッドハントする意味がない。なにか時雨を雇用する機会があればよいのだが。
あの戦乱時にあっての時雨の武勲は計り知れない。うわさでは、時雨も素手でデーモンを幾体も屠ったとか。帝国庶子皇子風伯に並び只者ではないな。
現在ほぼ間違いなく時雨はシント国内にはいない。シント国民は全員端末管理され、個人情報が中央集計装置に記録されているのに検索に掛からないから。ソング総統の魔力千里眼を使っても、広大な世界から人間一人を探し出すなんて不可能だ。
端末にキーワードを入力して検索するのだって、特定の個人一人を絞るのは至難なのだから。深い海の底からどうやって落とした硬貨を拾い上げられる?
官舎の外では、優輝が快活に笑っているのが聞こえる。「あのパイ投げ合戦は酷かったな。今度から平和的に、青汁一気飲み競争は? 負けた方は罰ゲーム、ビール一杯一気飲みプラス腹筋三十回」
真理亜は苦笑しているらしい。「それ、お祭りにしたら嘔吐ものね。それこそもったいないわよ」
アレスもにこやかだ。「粉っぽいパイ生地だったね。甘くない、パサつくけどべとべと感はあまりない」
石田は説明した。「砂糖もミルクも卵白も入っていないからな。小麦粉を水で練っただけ。もったいないけど、ビールぶっかけ合うよりは安上がりさ」
セラフはけらけら笑った。「なんだかんだいって、最初にパイ生地作ったの貴方じゃない! 確信犯ね」
浅尾はやれやれと引用した。「歴史的にも古来より世界共通に見られる普遍的な人間の習慣です、普段こつこつ貯めた金を祭りやイベントのときは大盤振る舞いするものです」
リオンは不機嫌そうだ。お祭りがトラウマになりかけているな。「なんの意味があって……」
イノセントは笑い飛ばした。「言語明瞭、意味不明瞭なのが『紙』の仕事さ」
アーダは皮肉っている。「つーか、この世界言語不明瞭の時も多いし。不完全に放置されているわね」
……まったくお気楽な連中だな。私はふと、ソング総統の様子をモニターで確認した。問題なく執務に励んでいるな。前総統のような超人的処理能力はなくとも立派なものだ。
事務仕事を続ける。……ん? またシントにイレギュラー(市民以外の闖入者)か。端末に表示する。
アルラウネ(七歳)
体力 7、精神44、感性50、運命99
名前の由来は処刑台に咲く花、と検索された。なにか哀しげな運命を背負っているのだな。兎に角彼女は警察や警備兵隊ではなく、私の直轄化の心理戦隊に保護されている。黒髪でやや褐色肌の幼女だ。
ならば外で遊んでいる仲間部下どもに対応させるか。そうだな、リオンなら良いカップルだ。アーダやセラフのような事故はないだろう。その旨を連絡する。
アルラウネはぐずっていたが、優輝を見ると途端に態度が砕けた。アルラウネは優輝にこう言った。「黒猫ちゃん、可愛い!」
優輝は驚いている。「この子、オレと逆の能力を持っている!」
「逆?」一同は問う。
「『黒森の魔女』の血を受け継ぎ、他者の目を見ればその未来が見える……のに、自分の未来は解らない。母から妖精、悪魔の知識を授かったらしい」
低いトーンで話すアルラウネだった。「私、森の妖精ピクシーに悪戯されてこの世界へ迷い込んだの。カイレフォンの下へ帰らないと……きっと困っている」
リオンは寂しげだ。「僕はいっしょに遊びたかったな……」
アルラウネはにっこり笑った。「私、男の子嫌いだけど、あなたは別。リオンお兄ちゃんは幸せになれるわ。私にも見通せないくらい未来が限りなく伸びているもの」
石田は好意的に提案した。「急がなくても、お茶をして少し休んだらどうかな? ケーキでも食べながら」
「え、いいの?」アルラウネは遠慮気味だ。
リオンはにこやかに語った。「このパティシエさんのケーキは絶品だよ。一緒に食べようよ」
優輝がはっと言う。「この子、時雨に助けられている! 僻地にいたのをシントまで案内して貰ったんだ」
アルラウネは不思議そうに言う。「あの時雨お兄さん、時代に世界を超えていろいろな場所に点々とするわよ。この国の警備総監を務めてもほんの数カ月だと思うわ。それでもすごく活躍するでしょうけれど」
この事実から、私は時雨捜査網の手配をした。時雨に対する好感は高まるばかりだった。恋愛の情か? いや、まさか私に。
(月村澪里さま、初孤羅さま、亜崎愁さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま、秋月伶さま。有り難うございました)
(終)