(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)

 

「古語は文化、古代文学は歴史です。地球上生命体で、人類だけが歴史を持ちうるのです」客員講師浅尾昂介は言い切った。ピシッと折り目正しい隙のないスーツの着こなし似合う、貴公子然とした青年学者。

 私……シント共和国防衛軍女準将クワイエット・ラプターはこの講義を黙って聞いていた。従軍心理医師を務める私だが、分野が違っても人間のルーツに亘るテーマは共通するものがあるらしい。とりあえず、小難しい数式や論理演算子の出なかったところにほっとする。浅尾は続けていた。

「……これは言い換えると仮に地球上人類以外の知的生命体がいたとしたら、人類の歴史はどう扱われるのか興味深いところです。人間は動物の生態は観察しても、その歴史まではなかなか及びませんから。遺伝子の研究成果上、生物の進化のルーツは解明されたのが光の文明です。しかし、伝説の二千年紀以前に大半が解読されたはずなのに、ひと間隔置くとこのテーマは闇へ葬られました。二千年紀にはタブー視されたのです。政治的・倫理的な作為が働いたのかもしれません。この知識失ったいまは、由々しき事態です」

 地球上以外、か。考える視点は少年の夢だな。生命体そのものの在り方が違うかもしれないのだから、地上のような生態系を築ける可能性は他の星では限りなく0%に近い。しかし宇宙のあまりの広さからするとどこかに地球と似た星が在る可能性は限りなく100%だ、小学児童でも分かることだ。

 それに遺伝子操作か……人間は神の領域を侵したのだ。禁じられたファイルによると、飛竜は過去の文明遺伝子操作の最高傑作とされているな。強靭な肉体、人間並の知性、加えて不老。そう、ドラゴンに寿命は無いらしいのだ。

 心理学が過去のものとなり、脳科学に採って代わられて久しいが、それでも化学代謝を持ってする後者よりは、疑似科学であれ臨床を持ってする前者に準じたいところだ。浅尾の講義は続いていた。

「……数学は宇宙共通の言語ともいいます。物理、化学、天文学もかもしれません。しかし、数万年の歴史も無い人類が人類だけで世界を述べるのはおかしいし、まして過去を模索するあまり神話を述べる神学なんて、滑稽な戯言かもわからないのです」

 こんな内容の講義をすること自体、荒唐無稽だ。シラフの意見ではない。酒飲みの妄言だ。無論。そう、私たちはいま飲み会の最中なのだ。場所は神聖たる地下三十階の中央制御室。シントにもすっかり酒が定着したものだな。

 私はカルアミルクを飲んでいるが、浅尾はウィスキーロックでくいくいあおっている。ザルってやつか、こんなに飲んでいるのにまったく表情が変わらないぞ。スーツもしっかり身に着け乱れ無し。

 そもそも朝から始まったこのデーモン掃討記念祝勝パーティーに飛び入り参加し、「駆け付け三杯」大ジョッキビール一気して平然、すました顔しているのだからな。なにげなく、端末情報を調べる。

浅尾昂介 古代文学者

体力25、精神73、感性62、運命40

 肉体的には貧弱だが、確かに学者肌だな。しかし経歴によると特務課だし、非常勤講師経歴もある。非常勤講師とは名前だけ、事実上は学生のトラブル現場に乗り込み制する監視員任務だ。意外と喧嘩慣れしているようだな。出身地が石田パティシエと同じ方面だったから誘ったのだが。恐ろしく飲んでいるのにまったく滑舌に狂いなく浅尾は話を進めている。

「これは私の意見ではありません。この世界を司る『紙』に言わせるとですが。人間の仕事はい、しょく、じゅう、とされます。衣食住ではありません。医、職、銃です。医療福祉こそ最上。次いで一般の職。最後に軍事力です。もっとも『紙』はこれを時に間違えて、威、色、充にすり替えるのですが。つまり力で欲を満たす短絡的衝動に」

「『紙』とやらはパラノイアだな。恐ろしく暇人で無能の塊だ。さもなければ私たちはこんな不自然な世界には住んでいない」やっと口を挟めた私だった。

「それも世界の故事来歴ですね、このくらいはわかるでしょう。「故事」は昔あったこと伝わること、「来歴」は由来、いきさつです」

「正直度が過ぎた専門用語の引用は嫌悪感を招くぞ」

「なるほど、例えるなら苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)とかですか。「苛」はひどい、「斂」は搾り集める。「誅求」は責め求める意味ですよ」

「そんな熟語憶えても、一生使う機会がないかも知れないではないか。そもそもどうやって学ぶのか」

「葦編三絶(いへんさんぜつ)に尽きます。「葦編」とは書物、「三絶」は閉じ紐が何度も切れることから、繰り返し書物を読む事の例え。史記に出展がある孔子の論語が由来です。その教えもかなり失われましたが」

「たしか儒教とかいったな。宗教とは違うというが、政変で焚書され、学者は生き埋めにされたとか」

「二千年紀には知的リベラル層の活躍で甦りましたよ。さもなければ彼の大国は暴走し、世界を破滅させる騎虎の勢いだった。虎に乗ると降りたら喰われるから、満腹するまで戦い続けるしかないのです」

「語彙に頼ることこそ玩物喪志というものだ」

「はい。これらの四字熟語は『紙』によると、百均の四字熟語辞典を買って読むと好いのだいそーです」

「だいそー?」

「はい、庶民の味方良心価格百均のだいそーミニ辞典シリーズです。百円に消費税で買えます。『紙』は怠惰ですが無意味なことに時間を費やすのが困った点です。英和とかもコンサイズどころか、ミニ辞典を愛用しています。高い金払って英会話スクールに通うより、百均のミニ辞典丸読みに浸る。無学な『紙』は余計な悪あがきが大好きなのです」

「そんな『紙』に創造された自分に疑問を感じるな」

「いえ、私にラプター準将はアナザーデッキです。生みの親は間抜けな『紙』ではありませんよ」

「が、あの少女。古語を連発していたペオシィンはいわば百均から生まれたのか」

「『紙』は突発性疾患を発して以来、友人から読者離れを起こすから止めろと再三言われたのを無視して、酒タバコを断ち鎮痛剤・安定剤浸けになり、自宅にヒッキーになって暴走してこの世界を作ったのです。全十六万字もかけて、一日三千字目標のペースで」

「未消化、消化不良に終わった部分も大きいな。そういや、アーダとティルスの恋はどうなったのだ?」

「あの騎士は純情ですからね、天性の誇り高い戦士なのにモデルルックスのお姉さんに遊ばれちゃってまあ……これも年上の女房は金のわらじを履いてでも、というものでしょうか」

 ここらで、今朝の「戦い」の疲れから立ち直った戦士たちが次々と目覚めを済ませていた。仲間同士パイ投げし合った挙句、風呂に入って洗った後眠気に襲われて、ろくに料理も食べず眠ってしまったのだ。

 パイ生地ワイン、グラス破片散らばる部屋の後始末は石田と優輝が完璧にこなしたが。

 絶世の美少女セラフは懲りずに、今度は高校生くらいの少年、優輝に迫っている。優輝は頑固に、オレは妻帯者なんだからと突っぱねている。妻帯者? 男は十八歳以上でないと結婚できないぞ。それを言うならセラフは法的に、一線を超えてはいけない年齢だ。

 アレスと真理亜は戦いの疲れからか気だるそうに目覚め、今朝の喧嘩を互いに謝りながら、ワインを嗜みケーキを食べている。

 アーダとイノセントは元気に喧嘩を笑い飛ばした。この二人も慣れないワインを口にし、気持ち良さそうにあえいだ。

 十歳ほどの美少年リオンは幸せそうな顔をしてまだぐっすり眠っていた。闇魔術師? 否、天使の休息だ、邪魔しちゃいけないな。

 

(月村澪里さま、初孤羅さま、亜崎愁さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま、秋月伶さま。有り難うございました)

(終)