(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)

 

 日の長い春の新月の朝を迎えるいま、地下三十階の中央制御室の中。私、クワイエット・ラプターは前線でデーモンと戦っている部下……大切な仲間たちの帰還を待っていた。私はシント共和国防衛軍準将、事実上この国で最高の権限を持っている。その働きも魔人ソーン・イング、ソング総統あっての御威光だが。

 彼女は亡き前総統に代わり、シントを治めている。しかし優れているとはいえ、前総統のような天才的な処理能力は無い。前線との大切な通信回線が一部麻痺してしまったことに、私はいらだちと不安を募らせる。もっともソング総統には魔力シーカーセンサーがある。あらゆる真実を映し出す魔法の耳目。

 黎明とともに、どの周波数帯でも通信機越しに無数の歓喜の声が流れてくる。祝勝パーティーの用意が整えてあるこの地下室内に、男女四人が到着した。

 見た目十歳くらいの可愛い少年、闇魔術師リオン・エレンは喜んで出迎えた。「お帰りなさい、お兄ちゃん、お姉ちゃんたち!」

「ただいま、リオン。待っていたのか、眠くないかい?」勇者アレス・ティンバーは快活に言う。「俺には馴染みがなかったけど、あの機械人形は無敵です。俺にもこのくらいの実力があればな……」

 三好真理亜も同意する。「私の身体能力以上にあのマシンは動くわね。フリーダム・ナックルファイターか。まさかグレーターデーモンにスクリューパイルドライバーかませるなんて。でもこんな兵器、人間相手に使うのはいけないわね」

 私とタメの親友モデルルックス美女アーダ・フローラ一尉とワイルドガイ、イノセント・レパード一尉も無言で集い、パイロット四人は敬礼した。

 私、ラプター準将は敬礼を返した。「貴官らの活躍により、シントに侵入しようとしていたデーモンは駆逐され、民間人に犠牲はなくこの新月は過ぎた。感謝すべきだな、ケネローもキュートも同様らしい」

 しかしソング総統は懸念している。「ですが目下最強と思われた時雨は見当たりませんでした。彼ほどの実力者……フーハクにもハシにも並びます」

「いまそれはいいだろう。私も招きたかったがな」

「あら~っ。お堅い朋村雫華嬢(クワイエット・ラプターの本名)に想い人かしら?」アーダは冷やかした。

「まさか。シントの国防上有益にも有害にもなる要注意人物だからだ」

「ですね、クワイエット」イノセントは同意する。「ところでこちらのアイドルみたいな女の子は?」

「セラフというらしい。つまり彼女もイレギュラーだ。かなり特異なのでこの場に招いた。以前いたアンジェリカと接点があるらしいのだが……」

 シントに保護された謎の美少女セラフはこれらに無関心らしい。限りない潜在能力のある、人知を超えた能力の可能性があったから招いたのだが、これでは登用は無理だな。

 黒髪緑目にはだけたシャツにホットパンツ姿という子供らしい出で立ちなのにものの13歳くらいにして『妖艶な』雰囲気……敵であった亡きオスゲル皇帝もかくやという……末恐ろしい。というか実年齢が不詳だ。異世界の生命体らしいと識別されたが。

 セラフは言ってのけた。「人も雑草も天の下ほんらい等価な生き物。デーモンに勝ったってなんの意味がある。結局アンジェリカと逢えなかったか……ここで不死鳥の羽扇を使う価値あるかな」

 アーダは不安げだ。「新月とデーモンは去ったけどティルス……ペオ……どうしているかな」

 セラフは断言する。「特定の個人に何故こだわる。私は砂粒に名前をつけたりはしない」

「砂粒!?」一同は返答に窮した。

 リオンの目は潤んでいる。「人を砂粒と一緒にするなんてないよ!」

 私は割りこんで止めた。「大丈夫よ、リオン。心理医師として言わせてもらえば、この少女は平等主義なだけ。いささか極端だから過激だが」

「ラプター準将」石田雪彦が聞いてきた。彼は優秀なパティシエだ。この祝事にシント外から雇ったのだ。「パーティーの準備はできています。あとはみなさんの着席を待ってして……」

 感謝した。話題を逸らしてくれたな。私はうなずくや、全員にテーブルにつくよう命じる。

 それから高校生くらいの少年泉田優輝が、みんなのグラスに辛口フルボディの赤ワインを注いで回った。調理手伝いに来てもらったのだ。石田と優輝、この二人の席もある。

 私はねぎらった。「悪いな、優輝くん。きみの本職でもないのに」

 優輝は穏やかに言う。「オレは専業作家アイコさん宅の家事担当ですからこれくらいは。オレはせいぜい専業主婦並ですよ、本職の石田さんには敵わない。せめて洗い物くらいは片付けます」

 次いで優輝は、大きなホールケーキにナイフを入れた。手慣れた手付きで切り分ける。見事に十二等分できた。ホイップにクリームの甘ったるい匂いが漂う。

 ここで、リオンがきょとんという。「数が合わないよ? ここにいるのは十人」

 つくづく感じる。大所帯になったものだ、人の縁とは大切にしなければな。とにかく数を確認する。私、総統、アーダ、イノセント、真理亜、アレス、リオン、優輝、石田、セラフ。なるほど、十人だ。奇しくも男女半々。

 ソングが詫びた。「すみません、時雨とかがいた場合の予備を考えたのです」

「問題ない」石田は軽く言う。「余った分は一口大にカットだ。それに円いケーキを十等分は難しいよ。優輝くんはきれいに切ってくれた」

「では皆の生還と戦勝を祝って、乾杯!」私はグラスを掲げた。

「乾杯!」一同はグラスを軽くぶつけあった。

 が、ここで。セラフのグラスが勢いよく動いたため、リオンのグラスに当たった時打ち割ってしまった。リオンはワインを顔から浴びた。綺麗なかっこいい服にシミができた。とたんに泣きそうな顔になるリオン。

 私は可哀そうに思い、着替えの手配を頼もうと思ったが、セラフはなんら意に介さずリオンの濡れた服を脱がそうとしている。お子様だな……と思いきや!

「自分で脱げるよう、やだ! へんなとこ触らないで」リオンは半泣きだ。

「坊やどうせチェリーでしょう? お姉さんに任せなさい。女の子みたいな顔して……あら、女の子なの?」

「僕男だよ!」

「だったら脱いでも恥ずかしくないわよね、さあ男の子の『印』を見せてもらいましょうか」

「やだ、やめてよう! 下は濡れてないよ! あ……」

「あら、子供のくせに女の子に反応したのかしら?」

 というかセクハラではないか? ったくガキのなんとかごっこにも程がある。周りの大人連中は困った顔をしているが、はっと気付く。アーダのヤツうきうきした目で見物している。これはいかんな……ん?

 突然、紙皿が飛んできてセラフの顔面を直撃した! 皿が剥がれ落ちると顔面白塗りになっていた。

 パイ生地を投げた優輝は真面目に怒っている。「食べ物や飲み物で遊んじゃいけないんだぞ!」

 セラフは怒鳴った。「なにするの! これだって食べ物じゃない。小麦粉ベトベト!」

「だから思い知っただろ……おっと」投げつけられたワイングラスをさっと避ける優輝だった。そのワインはイノセントの白い礼服に命中して紅く染め上げた。

「うわ、俺の一帳羅を!」イノセントは声を上げるや、自分のワインをセラフにぶっかけ……ようとしてその中身は真理亜に命中した。

「やったわね、女をなめるな!」真理亜は怒鳴ると、パイ生地をイノセントの晴れ着に投げていた。

 そんなものどこからかと思いきや、セラフがパイ生地を無数に創造していた。魔法かな?

 セラフはパイ生地皿を乱発したが、これも猫のような俊敏さで優輝はかわす。流れ弾ならぬ流れ皿がこんどはアレスのマントの留め具に当たった。

「よくも紋章に……勇者に対し侮辱」驚いたことに、アレスは怒っていた。私はこの温厚な青年が怒る姿なんて考えつかなかった。アレスは紙皿をむしり取って投げ返す。ソングに当たった! なんてこと、シント司る神聖不可侵たる総統閣下に……

 こうしてパーティー会場は男対女に仲良く(?)分かれ、パイ投げ合戦の修羅場と化していた。リオンはマジ泣きしているが、アーダなんて嬉々としてやっているな。まさか真面目な優輝にソングまで加わるとは。

 石田だけは冷静であった。場を少し離れ、後片づけの算段をしている。「ったく、小学生かよ……雪合戦で雪玉に石を詰めるよりはマシか。世界に争い絶えないわけだ。とんだお祭りになったな」

 私も被害に遭う前に戦線を退き、石田パティシエと静かに祝勝のワインを嗜んだ。私はお笑い芸人ではないからな。

 

(月村澪里さま、初孤羅さま、オルフェスさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま、秋月伶さま。有り難うございました)

(終)