(新春企画! アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)

 

 私ことクワイエットは今日も多忙だった。士官学校上がりのデスクワーク組の佐官であれば、仕事と言えばタバコを吹かしながら端末モニターをスクロールし、ろくに記事も読み取らず、メクラに承認ボタンを押すだけなのだが私は二十二歳、それも曹長から昇進した特務佐官だ。妥協できる任務は入らない。

 従軍心理医師という職務は、戦場でトラウマを受けたりPTSDを発症したりした兵士の介護に当たる、後方とはいえ現場職だ。今日も困難な患者のカウンセリングを四件受け持つことになった。

 病院診察で四件と聞くと、少ないと思われるだろうがとんでもない。診察とカウンセリングはまったくの別ものだ。確かに三分診察と同様、三分掛からない患者もいる。例えば顔を会わすなり……

「俺が明日死ぬとしたら、最後に食べたい料理は先生の脳みそです」と、真顔で言ってのける兵士。

 これをただ聞くだけでは、こいつ○○○○なんじゃないか? と一般の人は思うだろう。違う、確信犯だ。兵役を逃れたいだけだ。ったく、シントは志願兵制だぞ!

 私は除隊処分にし、恩給を取らせる手続きをさせた。恩給だけで、最低限食べるだけなら十分な収入となる。もっとも遊ぶ金は入らないから、なまじ若くて元気なだけ無職の無為に耐え切れず、職を探すだろう。こんな『最古』野郎の扱いはこれで十分。

 深刻なケースも無論ある。敵兵から単なる負傷ではなく、心身への虐待を受けたような場合だ。それはあまりに個人の心証を害するので伏せる。その場合は半日掛かり切りになることざらだ。私は正規の医師ではないので薬の処方はできないが、精神科医への紹介状を症状詳しく正確に丁寧にしたためる。

 これが午前、つまり十四時に遅い昼食を摂るまでの私の仕事だった。午後の患者も二人だったが、これもイレギュラーだった。シント外の人間なのだ! それも二人とも若く美しい女性……イノセントよ、発見の功績は認めるがまさか、かどわかしてはいまいな? 二人とも都市の外で気を失っていたとは……都合良く出来過ぎていやいまいか?

 イノセントは肩をすくめた。「そんな目で見ないでください、クワイエット。佐官に昇進して人事の責任を負った辛さは察しますが、アーダの一件は、不起訴処分だったじゃないですか。あ~あ、こういうとき男って不利。セクハラは女性相手なら厳罰でも男性相手では軽犯罪だもの。俺これでけっこうモテるのですよ、女性を襲うほど飢えていません。というか俺たち同期三人組に、浮いた話はありませんね。アーダは単にラブリーなものが好きなだけです。一線を超えるようなことは……」

「それより」私は患者データをモニター表示する。「報告によると、こちらの女性など、蛮国剣戟隊兵士が六、七名倒れている中で見つかったというではないか?」

「女性本人は、自分が倒したと証言しています。武器も帯びて無いのに、ありえませんね」

 とにかくその一人は。三好真理亜(推定二十代後半)

体力23、精神59、感性69、運命49

 ふむ……この名前からして、古典家庭だな。海外との繋がりの線もあるが、遺伝子検査は人権侵犯だから行えない。外見からしてモンゴロイドだが。とにかく質問する。「貴女は何処から参られました?」

 三好は困ったように答える。「どこって……ここは新都ではないのですか?」

「たしかにシントだが、貴女はここの人間ではない」

「ここって言っても、私は外国人ではありませんよ。というか、ここは流暢に話す外国人多いのですね」

 話が噛み合わないな。シントに外国人などいないぞ、この女性の様な侵入者を除いて。体躯をふと観察する……大人の女性らしいプロポーションだが、肌に筋肉の張りがあるな。非力とはいえ、なんらかのスポーツをしている証拠だ。もしや格闘技?

 素手の喧嘩の達人なら、ついこの前取り逃がした。時雨という体術総合格闘技の天才的な使い手。「誇り高い男は素手で戦う」がモットーの天才にして確信犯馬鹿。あいつは精神病を通り越してサイコパスだったな。ただし人畜無害平和主義の。まだシントにいるのか……類まれな技量は明らか、戦力にしたい。

 とにかく三好真理亜……マリアの処置は保留だ、意識にやや錯乱があるのかもしれない、ここは医療保護で療養施設に入れよう。端末で手続きを済ます。

 では次いで残る一人を……!? 端末ゲージがエラーを起こした。なんとすべての能力値が、最大である99を振り超えたのだ! やがて落ち着いたが。

アンジェリカ(年齢測定不能)

体力10、精神60、感性31、運命99

 潜在可能性の運命が果てしなく高い少女だな。ならば実力は極めて傑出していることも考えられる。金髪赤い目……まさに可憐と言える華奢な線の『美少女』だ。フリルにレースの白い服装は天使の面影さえある。

 問題は……昏睡しているが、脈と心拍が無いのだ! 呼吸こそあるものの、血液が循環していないならそんなものに意味はないし、不可能だ。体温もある……血流無くしてどうして身体が温まる? 各器官臓器でカロリーを燃やす必要があるのだぞ。何故それで生きていられる、在り得ない。

 イノセントがここで進言した。「そこでですが、心理戦隊に、心強い助っ人が加わりましたよ。従軍軍属外の民間人扱いですが、一人はアレス・ティンバー。動物と会話ができるそうです。さらに、泉田優輝。彼は人の記憶の断片を見れる。それからリオン・エレン。彼は闇魔術師とのことで頼もしいのですが、年齢が幼すぎ働かせませんね、この先楽しみです」

「ならば優輝に患者の記憶を診てもらおうか」

「オレは相手の話を聞かないと……」優輝はアンジェリカを診て即答した。「なんて美味しそうな身!」

 私は怒鳴った。「おい、こら!」

 真理亜すらも怒っている。「この餓鬼がぁ! こらこら、こらこら!」

 アレスは意見した。「ちょっと待ってください、この女の子……純粋な人間とは違うようですよ。そもそも存在の在り方からして普通の生き物と違う……そう、天界を舞う聖霊のような」

「アレス、きみは動物や魔物と会話できるのだったな」私は一息吐いて考え直した。「優輝、診て欲しいのは真理亜だ。頼む」

 優輝は真理亜と二言三言会話しただけで、滔々と語り始めた。『……伝説の時代、優しい女の子がいた……街の一角で、二十匹とも五十匹ともいる野良猫の世話をしていた。彼女は親を亡くしたある黒い子猫を助け、いつも可愛がっていた……

 そんな少女は実は恋をしていた。少し年上の気品のある風貌の「王子様」に……。無論、子供の戯言だ。直接民主議会投票制の国に王子はいないのに。

 少女の家庭は、決して豊かではなかった。それなのに収入の大半を野良猫救援の為に使っていて。周りの人間からは馬鹿扱いされていた。そんな少女が、ある冬この国特有の毎年の流行り風邪に感染した……衰弱し切っていた少女に、耐えられる病ではなかった。少女は死んだ。それが三好真理亜、この方です……』

 私は問い返した。「! どういうことだ?」

 優輝は戸惑いつつ答えた。「この方は呪われている」

 言葉と共に、真理亜は駆け出した。逃げたか、私は直ちに追っ手を差し向けた。出入り口の非常警備にも通報した。しかしものの二分も掛からず、失態となる。群がる警備員を女手一つで薙ぎ倒して遁走しただと?

「格闘技使いですね、彼女。まるでヘルキャットだ」ぼやくイノセントだった。「とにかく、市民識別コード登録して、端末繋いだのですから袋のネズミでしょう。街灯消して真っ暗闇ですし。あれ?」

 突き止められない? 確かに真っ暗闇の中の指定座標赤外線映像にはどうやら小さな黒猫がいるだけ……私たち全員暗視眼鏡装備でその現場へ向かった。

 アレスは寂しげに事実を告げた。「子猫は少女がいつまでも一緒にいてくれたらと、心から願っていた。その黒猫は祈ったって。「僕の命をすべて差し上げるから、代わりにあの子を一日だけでも生き返らせてください」って。その子猫こそは猫の王子様、ケット・シーだ。仲間猫たちを守っていた少女はかけがえない」

 優輝は言った。「オレはいま過去を見た……願いは皮肉に叶えられた。猫の王子様が命を差し出して死んでしまっても、人間の少女が生まれ変わるのは日の沈んだ、月明かりの夜だけ……それも、人間としてではなくその黒猫として。毎夜、もういない片思いの人間の王子様を探して。少女と王子様はいまの世界に生まれ変わったけど、この事実を知らない」

 リオンは涙ぐんでいる。「ひどいな、それでは魔法どころか呪いだよ。僕も闇魔法使うけど、それは人を陥れる呪詛とは違う」

 アンジェリカが進み出た。「ならば私が祈るわ。私の命を十五年あげるから、この黒猫の女性に過去を取り戻してあげて」

 アンジェリカから、血の様に紅い涙が一滴黒猫の頭に落ちた。薄淡い光に包まれる……黒猫の姿が少女のころの真理亜になった!

 一方でアンジェリカは地にひざをついた。「少し力を使い過ぎたわね、私はもうここにはいられない……時空の彼方で、また逢いましょう。素敵な夜だったわ」

 アンジェリカは一筋の光を放って、闇へ消えてしまった。謎を残したまま。

 私はふと問う。「でも王子様って誰? 十五年も前では、もう三十歳過ぎているはず!」

 真理亜は語った。「記憶は無いけど、十五年前の王子様だけは憶えている。リティンと言ったわ」

 私は検索した。すぐに身元が分かった。シント防衛軍所属一等技術軍曹AQBJ21リティン。

 十五で四等工兵の時から二十年近く技術畑で務め上げた優秀な技師だ。昇進しないのは、現場を離れられてはマシンが泣くからが理由らしい。三十路にして、少年のように目をきらきらさせた私心ない理想ある男だ。ただしどうやっても王子様ではないが……直ちに現場に呼び寄せる。

 リティンは声を掛けた。「マリア! 時代を超えた上、その記憶を取り戻したのか?」

「リティン! あなた私を騙したの? 王子様だと名乗っておいて」

 リティンは言い訳していた。「いや、わたしはシントの王になれる身だよ、神話の初代リティン技師の保存されている記憶さえ脳内に植え込めばね。わたしはその被献体として誕生した。それがいまの総統命令で、非人道的だとして記憶植え込み処理はできないんだ」

「ひどい、私の初めての……初めての……」真理亜は頬を染めている。

 聞いてはいけない展開となったな。!? 止める間もなく、真理亜はリティンに組みついた! そのまま身体を瞬時に深く滑り込ませ捻り投げる!

 真理亜の見事な一本背負い……と思いきや、リティンはなんと足から着地し軽快に振り向いた。投げ飛ばされたのではなく、自分から宙を回転したのか!

 リティンは軽く吹く。「投げ技は試作機のテストフライトだけでたくさんさ。関節技に絞め技、寝技……でお相手したいね」

 

(月村澪里さま、初孤羅さま、オルフェスさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま。有り難うございました)

(終)