登場キャラ 懲りない連中
時雨 戦士  十七歳男性
魔言 魔術師 十八歳男性
逢香 魔術師 二一歳女性
真理 射手  二二歳女性
   
 それは、いつもの馬鹿たちが寝静まった深夜のことだった。密に街の宿を抜け出す中世西洋風の四人……
逢香「取り敢えず街の外へ。真理、準備は良いわね?」
真理「もちろんよ、今夜これで直人たちいないし」
魔言「時雨、俺は今回後衛に徹するが? 良いか」
時雨「では僕ちゃんだけ? 前衛」
逢香「わたしは魔法戦士よ。手にするのは剣と楯。杖なんか持たないわ。というより……」
真理「そうよ時雨ちゃん! あなた今回も素手なの? さすがに今回ばかりは武装したら?」
時雨「武器は持たないよ。でも鎧はこれ総板金だよ」
逢香「板金鎧を着て楽々走れるなんて、とんでもない体力ね。敵に体当たりするだけで慣性の法則で大衝撃」
魔言「時雨くらい膂力と格闘技量があれば、攻撃力は武器がなくても大したものだろうよ」
逢香「わたしはこう、曲刀と円楯に、鋼の胸当てで武装しているわ。あとは兜の代わりにティアラ。魔法だけでなく前線で時雨ちゃんと並んでビシバシ戦うわ」
真理「わたしは長弓ね。鎧は着ない。このローブだけにするわ。視界の悪くなる兜なんて論外。ティアラなら、もし手に入ったら使いたいわ。魔法も少しは憶えるわよ。魔法射手ね。でも接近戦武器は持たないわ。わたしのポリシーとして。少しでも身軽でいたい」
時雨「真理さん、刃物には注意してね。敵にとって弦を切断するのは容易、弓矢なんてとたんに使えなくなる。直すのに時間喰うし」
真理「張り替え用の弦ならいくつも用意してあるわ。それに予備の短弓も」
魔言「俺は堅革鎧で良いな。兜はいらない。武器は杖、それも現地調達、魔法さえ入っていればどうでもいい。魔法を使い切るまで使って新しいのを手に入れたら捨てるだけのこと。能力は魔力のみに一点集中する」
時雨「僕も力強さだけに一点集中するよ。飛び道具や魔法なんかいらない。誇り高い男の矜持だね」
魔言「まあ俺も接近戦用に、手斧くらいは用意しておくか。ハッカーたるものの嗜みだね」
逢香「では出発ね! いざラスボス魔王の城へ」
魔言「え、生ける屍さ迷う地下迷宮ではないのか?」
真理「わたしは王国の財宝探しに、海の彼方の禁忌の孤島と聞いていたけど?」
時雨「僕は街の悪徳代官を懲らしめろって聞いていた」
しばし無言で視線を交わし合う四人。
逢香「これは、騙されたわね、『紙』に!」
真理「わたしたちの創造主、執念深いものね。きっと直人を連れて行かなかったのが、気に入らないのよ」
時雨「では、こんな武装までして、僕らの敵は?」
魔言「さあ……しまった、時空間シフト喰らったぞ、これは。ここではもう俺たちに一切魔法は使えない!」
逢香「ファンタジー世界からリアル世界へシフトか」
時雨「視界が少し変わったね。なんだか向こうに都市らしき夜景が見えるけど……僕たちのもともと住んでいる二十一世紀日本ではないなあ」
逢香「武装して正解だったわ。剣道のスキルは使えるものね。それに刀は片腕で扱う方が、リーチが長いわ」
真理「西洋弓アーチェリーもね。なんだかんだいって、みんな戦える四人よ。問題は……『紙』がどんな手を打ってくるか」
時雨「どんな敵だって、戦い抜いて勝つべきだよ!」
魔言「誰もがおまえみたいな逸般人ではないんだ!」
逢香「そこが時雨ちゃんたる所以だもの、仕方無い」
時雨「高校でも教わっているよ、『背水の陣』って」
逢香「え~っ、どこの馬鹿教師、それ。信じられない」
時雨「え、馬鹿なのその言葉。かっこ良いと思うよ?」
逢香「孫子の兵法では、劣勢なら逃げよ、勝算が無ければ戦うな。これが鉄則よ。互角なら勇戦あるのみ、とは記してあるけれど。背水の陣なんてほんとうに使ったら、実力を出し切れないまま溺死して終わりよ。本来戦争とは『五倍なら攻めよ』と言うくらい優勢でないと無理なの。勝ち目のない戦いは有害無益」
真理「そうね、リアル世界なら、『死』は絶対的ね。時雨ちゃんは格闘技においては天性だったから、受験戦争の厳しさなんて知らなかったのね」
時雨「ん~っ。僕は推薦枠で就職先決まっているから、大学は記念受験感覚だったなあ。それより僕たち、これからどうしようか」
逢香「『紙』のことだから、一筋縄ではいかないわ」
魔言「そいつはそいつの世を儚んで、僕らの世界を作った。常識ではありえない巨馬鹿の群れ……俺も人のことは言えないが」
時雨「う~ん。考えてみると、今この場にいる四人は、わりかし好意的に待遇されているよね」
真理「え? しまった! これは馬鹿どもからわたしたちを引き離す作戦だったのね」
逢香「すると三馬鹿、直人、一典、涼平が危ない!」
魔言「でも助けに行く義理あるか」
真理「そうね、あいつら無敵だし」
逢香「馬鹿に包丁、怖いもの無し」
時雨「え?! 助けに行かないの」
逢香、真理、魔言「だってあいつら……」
逢香「情け容赦無いし」
真理「ルール無用だし」
魔言「礼儀知らないし」
時雨「でも……あ、そうだ、後輩に新会員がいるよ、美嶋泰雄ちゃんが。まだ高一で、空手を習い始めた真面目な少年だよ。成績良いし硬派だし……」
魔言「事実を知らないやつは可哀そうだな。あいつは十八歳で壊れる。まあ復活はするが、醜態晒したぞ」
時雨「事実ってなに?」
魔言「馬鹿に相応な礼をするだけだ。時雨、おまえは幸せになれるはずだから気にするな」
時雨「幸せ……は、いいけれど、はずってなに? はずって? まさかまた僕にあの魔女っ子が……」
逢香「さてね。すべては『紙』の思し召しまで、よ」
魔言「あの『紙』のことだ。何が出るかな? 怪物、悪魔、人喰い異星人、巨大戦闘ロボ、魔法に銃撃、火炎放射、剣の舞い、落雷、地割れ、天罰、天誅……」
真理「別の宿へ行きましょう、くわばらくわばら」
魔言、逢香「賛成!」
 この時……都市の方角から、男たちの悲愴で悲痛な叫びが幾度も木霊した……無視して歩きだす三人。
時雨「ええっ? いいの、みんな、ねえっ?!」
  
(終)