(R15指定です。初めにお断りしますが、この物語には不適切な表現が多々描かれています。分別とご理解のある方だけ読まれてください。通報はしないでくださいね。
 ゲストキャラ出演中! アメブロ創作仲間、月村澪里さまのキャラクター朋村雫華です。
 カオスな物語もこれで最終回! 読者さま、いつもありがとうございます)
  
  
 どっと響き渡る喜びの歓声が耳をつんざく。地球中の人々が、救世主たる俺、美嶋泰雄たち六人に祝福の喝采を挙げている。いよいよ宇宙艦隊の出港を前にして、歓迎激励のエールを送っているのだ。
 宇宙艦隊出航前に、俺は祈りを捧げていた。「主よ、この迷える子羊をお救いください……」
 突然視界が暗転した。しかも横になって寝ている? 真っ暗だ、なにも見えない。手を動かすや、壁にぶつかった。狭いな。まるで棺桶……はっとする。
 叫ぶ。「千秋! ひつぎじゃない、ひつじだ!」
 次の瞬間、俺は四つ足で立っていた。体中もこもこした体毛……羊! 「言葉のあやだ、元に戻せよ!」
 視界は元に戻った。全長五百メートル超える巨大な宇宙戦艦の搭乗エスカレーター。俺たち六人組は全員フォーマルでシックなスーツ姿。
 千秋はしれっという。「泰雄ちゃん、やっぱり変な人~っ。あなた、私たちは神を超越したの忘れたの? それなのに神に祈ってどうするのよ」
 ……ああ、そうだったな。俺たちこそ世界の支配者。なんてカオスな世界。
 ちなみに部下に人間はいない。悪魔に神、聖霊、精霊、妖精、御仏など数十万。これらはすべて、悪魔使いたる俺が率いたのだ。
 幾重にも隔壁が施された長い複雑な通路を抜け艦橋に入り、所定の席へ就く。時雨はみんなになにやら長細くて香ばしい食べ物を配っていた。
 受け取り齧る。歯応えが良い。「スルメの干物か、オヤジの食いもんだとばかり思っていたが、けっこう美味いな。酒のつまみに合うわけだ」
「泰雄ちゃんそれ、仕留めて火炙りにした火星人よ。金星人も良かったらどう?」千秋はさらりと言った。
 俺は反射的に吹いていた。火星人平らげ酒宴かよ!
 しかし仲間五人けらけら笑っている。
 千秋は懲りる様子もない。「軽い冗談なのに。知っているでしょ、私は自分の願いまでは叶えられないわ」
「下らんな」口癖ではっと一蹴する雫華だった。「それより問題はトランス・パーソナルさ。世界を自分、前世、宇宙の三つに区分する。宇宙が未来であるなら、過去、現在、未来と呼んでも良い」
 俺はこの言葉の意味に愕然とした。「敵は……時間と空間そのものだ! 悪魔や神と違う、いくら力だけはあってもちっぽけな定命の人間にとっては、致命的だ。もっとも相手の『時空』にはそんな意志はもちろんないだろうが……これが宇宙、か」
 小百合はまったりといった。「まあ、では敵は大砲やミサイルでどうにかなるシロモノではないのね。無益な血を流す必要は無いわ、素敵ね。宇宙は人間に好意的な存在ではない、だけど決して敵対的な存在でもないと、どこかで聞いたわ」
 時雨はきょとんとしている。「ん~っ、僕ちゃんどうしようかなあ。この宇宙の時間、空間相手にするには人生は短すぎると思うよ。僕ちゃん、昔は時空間跳躍できたけれど、その範囲内は光速で広がっているだけの狭い宇宙だったもの。すると銀河系だけを相手にするにも、何十万年も待たないといけない。かといって推進加速し亜光速となり時間を歪曲させたら、宇宙船は虚空に孤立してしまう」
 千秋がいつになく寂しげに語る。「人生、か。儚いわよね。それももっとも素晴らしいとされる青春時代が、十代から二十代のたかだか十年二十年だなんて」
 小百合も同意した。「だからこそ、どうせ同じなら人生楽しまなきゃね。歳を取るのは怖いことではないわ。むしろ面白いことよ。わたくしは変人で構わない」
 俺は嘆いていた。「命の保証のない戦場には無神論者はいないはずなのに、兵士は敵の血に汚れ、いまさら神にはすがれない。だからといって悪魔を崇拝すると、その罪で自ら発狂するのが人間か、度し難いな」
 神無月も応じて断言する。「この苛烈な人間社会。本来ならみんな死んでいた。耐え忍び生きる、自分を持つ、確固たるアイディンティティーの確立が促される必要がある。さもないと人間は誰しも人格分裂しているだろうな。意志の弱い俺みたいに」
「自己を卑下することこそ下らない」雫華は言うが、過激なセリフと裏腹に口調は穏やかだった。「複数生じる思想を自分が正しいと盲信して事実と願望をない交ぜにしたまま異なる考えを下等と決めつけて生きることなら、コミュニケーション能力を持たない黴にもできる。ま、菌類がそんな思想を持つかわからないけど。まだ多細胞生物で鳴き声をあげるブタの方が上等じゃない? 私個人の話になるけれど、黴と同レベルの生物と一緒になりたくないね」
 俺はこの言葉の意味に恥じ入っていた。宇宙を手に入れるなど、どうでもよいこと。人はみな、大地と命と共にあるのだから。空に宇宙に抱かれ。なんでこんな当たり前のことが分からず、ちっぽけな、それでもすべてである地球で人間は同胞同士、愚かしい争いを繰り返してきたのだろう。人として生きること……
 だから。いまは……俺たちはただのジェイルバード。籠から解き放たれた鳥、『竜の眷族』として飛翔するだけだ。それで十分だろう? 何故って……
『間違っているなら、神すら敵とする。輝いているなら、塵芥でも救う。虐げられし一人を守るためなら、全世界を敵に回す』……それが籠の鳥の掟だから。
  
* 竜騎兵の変人! 終 *
  
  
  
  # 後書き $
  
 うやむやに始まり熱く激しく暴走疾駆した支離滅裂な物語も、ここで無理やり『千秋楽』です。
 実のところ、話が広がり過ぎて手に負えなくなったのが本音です。あのノリのまま突き進めば、文字通り主人公たちが宇宙を超える時空の支配者になってしまいますからね。
 全然結末の体をなしていませんが、御容赦ください。あの無軌道な六人がこれからどうなるかは……御想像にお任せします。数名は過去作品にも登場しますよ。
 最後に、ゲスト参加の月村澪里さまにお礼申し上げます。朋村雫華、強烈な個性となりました。
 もちろん、あなたにも。ありがとうございました。
 感謝を持って終幕とします。自分一人の存在は世界そのものと等価。だから世界を壊すことはできない……