(R15指定です。初めにお断りしますが、この物語には不適切な表現が多々描かれています。分別とご理解のある方だけ読まれてください。通報はしないでくださいね。
今回からゲストキャラ登場! アメブロ創作仲間、月村澪里さまのキャラクター朋村雫華です。)
「みんな起きたね! おはよう。勝利の朝に乾杯よ!」千秋は能天気に言う。
「乾杯って……朝から酒飲むのはいけないと思うぞ」俺、泰雄はやれやれと答える。
「言葉のあやよ。中学時代、某オヤジ歌手の古い歌のフレーズから「銀座に山買ったらすごいだろうね」って言ったら「銀座に山はねえよ!」って軽蔑口調で罵られたわ。一山当てる、の山なのに。それより戦利品山分けしようよ!」
講義室の一室に積み上げられた『財宝』に俺は生つば飲み込んでいた。光輝く金銀宝石宝飾品の山だ! 軽く数百億円になるはず。
もっともそれすら、ソロモン王の鍵72の悪魔を支配下に収めた俺たちには、はした金だ。何十兆円という利権が掌中にある! あれ? お宝としては妙なものがあるな。電化製品じゃないか。
俺は軽く笑った。「オーブンだね。それも、鍋が丸ごと入る箱型の高性能だ。え、なんだこのレシピは……ドラ焼きじゃないか。ドラ焼きの作れる鍋の箱か。ん? 鍋はパン。略してパンドラの箱、ははは」
「パンドラの箱?」千秋は言うやオーブンに手を伸ばした。ためらわず扉を開ける……
止める間がなかったが、すごく悪い予感がする。
小百合先輩は、のんびりと言った。「最後に入っているのは希望とは聞くわね、なにかしら」
空気がよどみ、すうっ……と気持ち悪く流れていく。これって悪魔召喚時の独自の前兆現象! ヤバい、魔法陣内でないのに。来る! 思わず臨戦態勢を執る……つまり時雨やニードルの背後に隠れる。いちおう男として、千秋や小百合先輩は楯にはしない。
? 箱が消え失せ現れたのは、若い女性だった。整然とした印象の目鼻立ち。優等生っぽいメガネっ娘だ。
「しずかだ」彼女はぶっきらぼうに言った。
たしかにいまは、昨夜の戦乱は鎮まり、この構内は静かだが?
おもわずかしこまって俺は問う。「貴女は?」
「朋村雫華(ともむら しずか)だ。おまえらはなんなんだ? 有象無象が雁首揃えて」
有象無象……返す言葉がない。たしかに変人が集まっているよな! 決して烏合の衆でないことを信じたいが……
ともあれ朋村雫華は身分証として、運転免許証を差し出してくれた。二十二歳……するとOGか?
ここで神無月は声を上げた。「貴女はここの学生ではないね。言っては悪いが、偽学生か」
「そうだ。ほんとうなら働いて学費貯めて、いずれは大学通いたかったが、いまの世の中そう稼げない」
「だな、いまの社会は狂っている。真面目に働いても努力しても、それどころか実績を上げても正当に評価されない。昔とは違う歪んだ時代だ」
「そうさ。金が無いから家から近いこの大学の学生の振りを思いついた。高卒以来バイトを続けていた、講義サボる不良学生の代返一件二百円。九十分講義中、せいぜい三件しかできないバイトだけど、タダで学べる身だし昼食費くらいになると、良い御身分だと思っていたのに。それがなんだ、このコンパの騒ぎは」
千秋は俺の後頭部に手を当て俺の頭を朋村に下げさせた。「うちの豚児がとんだ粗相を……すみません」
誰だよ、豚児って! とにかく挨拶はする。「俺は美嶋泰雄。政経科です、将来は証券マンになろうと思っていました。雫華さん、貴女は?」
「大学は心理学科志望だった。もっともそれは学べる限りは独学した。目下本格的に学びたいのは語学に文学だ」
「こいつは驚いた」神無月が割って入った。「朋村雫華さん、貴女はアナザーデッキだ。俺がマスターとして支配するファースト・デッキ以外のジェイルバード」
俺は神無月に問う。「アナザーデッキ?」
神無月はふっとうそぶいた。「いつだって、どこだってジェイルバードは甦る。何度でも、時代を超え次元を超えて」
「いかれているよ、なんだ次元を超えるって」
「馬鹿なのは天然なのでどう呼ばれようが気にしないが。病気のせいは侮蔑されると悔しいものだ」
「病気?」俺は神無月に問い返していた。
「精神病さ。いちおう統合失調症とされているが、分裂、鬱、躁、躁鬱病、神経衰弱、誇大妄想、解離性人格障害などあらかた踏襲したね」
「統合失調症は、病名もどきと聞いたことがあります。名前の付けようがないから無理に一区切りにされた病。大丈夫です、天才たる神無月先輩なら」
「俺はほんとうなら凡人だった。もっとも、決定的にマイノリティーでイレギュラーだから。一般の他人とは一桁違う人間だとは思っていた……はずなのに」
「先輩? なんでもないですよ、気にしないことです」
「一桁違う人は、傲慢な人間が多いので嫉妬するが。二桁も違う偉人は尊敬する。凡人と一桁ずれた自分と相殺して共感できるのだ。そしてここにきて、三桁違う超自我『逸般人』の登場。俺の世界は壊れた。それが時雨と千秋の二人だ。ま、愚痴はこの辺にしようか」
先輩たちと戦況を調べてみる。敵戦力は大まかに二派。神道の精霊、イザナギにイザナミ、総勢八百万。次いで仏教の御本尊、釈迦牟尼仏を筆頭に六名、さらに分家の仏、次いで守護天たちがテンコ盛り。
ふいにすくっと直立するや、神無月は指摘した。「来るぞ。どうやら精霊サルタヒコ率いる尖兵のごろつきだ。彼方を見てみろ」
これは壮観……まさに天と地を埋め尽くす悪の軍勢ならぬ巨大な光臨神々しい神仏の群れが、ゆっくりと大学キャンパスへ向かってくる。あれとバトルか。
俺の悪魔軍団と千秋の『魔法』で渡り合い、勝てるか……? ついでにガラの悪い身なり顔つき目つきの二十歳くらいの野郎ども十名あまりも歩いてきているが、あんなので神の飼い犬か、は。
俺は悪魔に命令を与えるべく、呪文詠唱の準備をした。一語一句間違えないように声を出さず舌打ちしながら繰り返し頭で練習する。あれ?
あの千秋がしゅんとしている……それどころかうつむき微かにだが震えている。何故だ、こんなたかだかゲスカス野郎たち相手に。しかしそいつらは、侮蔑のセリフを吐いた!
「まだ生きていやがったのか、この雌ブタが!」「は、なんだその不っ細工な雄ブタは」「ブーブーブタ同士仲が良いな」「死ね、バカデブス藤公!」
俺は血が沸騰するのを感じた。千秋をいじめていた連中か……許せない、こいつら! しかしその時だ。
時雨は感情の失せた平たい言葉を発していた。すべてが凍りつき氷のように砕け散る、絶対零度の寒風が吹き抜けたかのような冷淡なセリフ……。「人間がブタの言葉を話すなよ、ブタの方が恥ずかしくなるもんね」
悪寒と共に、背筋を電撃が走った。いつもの穏和な彼ではない。ヤバい! 時雨先輩完全に怒っている。次元万作、時限爆弾のタイマーが入った。
俺は叫んでいた。「逃げろ、みんな! 灼熱の爆風に巻き込まれるぞ! 時雨がひとたびこうなったら地獄絵図となる!」
と、ここで朋村雫華が大声でア・カペラのきついデスメタルを歌った。「シャウト! キャンユーディグイッツ? アトジャストナウ、レッツショータイム。アイアワードユーバスタード、アイウィルゲッチュー!……」
この歌声を聴いて、俺の血は踊った。勇気が高揚感が胸に頭に押し寄せてくる。『魔力』を秘めた歌だ、見れば千秋ももう立ち直り、いつになく怒りの表情を見せている。普段穏やかな神無月も小百合先輩も、士気が高ぶっているようだ。まして時雨ときたら……
俺たちは神、仏に人間の屑どもに向かって突撃していった。
今回からゲストキャラ登場! アメブロ創作仲間、月村澪里さまのキャラクター朋村雫華です。)
「みんな起きたね! おはよう。勝利の朝に乾杯よ!」千秋は能天気に言う。
「乾杯って……朝から酒飲むのはいけないと思うぞ」俺、泰雄はやれやれと答える。
「言葉のあやよ。中学時代、某オヤジ歌手の古い歌のフレーズから「銀座に山買ったらすごいだろうね」って言ったら「銀座に山はねえよ!」って軽蔑口調で罵られたわ。一山当てる、の山なのに。それより戦利品山分けしようよ!」
講義室の一室に積み上げられた『財宝』に俺は生つば飲み込んでいた。光輝く金銀宝石宝飾品の山だ! 軽く数百億円になるはず。
もっともそれすら、ソロモン王の鍵72の悪魔を支配下に収めた俺たちには、はした金だ。何十兆円という利権が掌中にある! あれ? お宝としては妙なものがあるな。電化製品じゃないか。
俺は軽く笑った。「オーブンだね。それも、鍋が丸ごと入る箱型の高性能だ。え、なんだこのレシピは……ドラ焼きじゃないか。ドラ焼きの作れる鍋の箱か。ん? 鍋はパン。略してパンドラの箱、ははは」
「パンドラの箱?」千秋は言うやオーブンに手を伸ばした。ためらわず扉を開ける……
止める間がなかったが、すごく悪い予感がする。
小百合先輩は、のんびりと言った。「最後に入っているのは希望とは聞くわね、なにかしら」
空気がよどみ、すうっ……と気持ち悪く流れていく。これって悪魔召喚時の独自の前兆現象! ヤバい、魔法陣内でないのに。来る! 思わず臨戦態勢を執る……つまり時雨やニードルの背後に隠れる。いちおう男として、千秋や小百合先輩は楯にはしない。
? 箱が消え失せ現れたのは、若い女性だった。整然とした印象の目鼻立ち。優等生っぽいメガネっ娘だ。
「しずかだ」彼女はぶっきらぼうに言った。
たしかにいまは、昨夜の戦乱は鎮まり、この構内は静かだが?
おもわずかしこまって俺は問う。「貴女は?」
「朋村雫華(ともむら しずか)だ。おまえらはなんなんだ? 有象無象が雁首揃えて」
有象無象……返す言葉がない。たしかに変人が集まっているよな! 決して烏合の衆でないことを信じたいが……
ともあれ朋村雫華は身分証として、運転免許証を差し出してくれた。二十二歳……するとOGか?
ここで神無月は声を上げた。「貴女はここの学生ではないね。言っては悪いが、偽学生か」
「そうだ。ほんとうなら働いて学費貯めて、いずれは大学通いたかったが、いまの世の中そう稼げない」
「だな、いまの社会は狂っている。真面目に働いても努力しても、それどころか実績を上げても正当に評価されない。昔とは違う歪んだ時代だ」
「そうさ。金が無いから家から近いこの大学の学生の振りを思いついた。高卒以来バイトを続けていた、講義サボる不良学生の代返一件二百円。九十分講義中、せいぜい三件しかできないバイトだけど、タダで学べる身だし昼食費くらいになると、良い御身分だと思っていたのに。それがなんだ、このコンパの騒ぎは」
千秋は俺の後頭部に手を当て俺の頭を朋村に下げさせた。「うちの豚児がとんだ粗相を……すみません」
誰だよ、豚児って! とにかく挨拶はする。「俺は美嶋泰雄。政経科です、将来は証券マンになろうと思っていました。雫華さん、貴女は?」
「大学は心理学科志望だった。もっともそれは学べる限りは独学した。目下本格的に学びたいのは語学に文学だ」
「こいつは驚いた」神無月が割って入った。「朋村雫華さん、貴女はアナザーデッキだ。俺がマスターとして支配するファースト・デッキ以外のジェイルバード」
俺は神無月に問う。「アナザーデッキ?」
神無月はふっとうそぶいた。「いつだって、どこだってジェイルバードは甦る。何度でも、時代を超え次元を超えて」
「いかれているよ、なんだ次元を超えるって」
「馬鹿なのは天然なのでどう呼ばれようが気にしないが。病気のせいは侮蔑されると悔しいものだ」
「病気?」俺は神無月に問い返していた。
「精神病さ。いちおう統合失調症とされているが、分裂、鬱、躁、躁鬱病、神経衰弱、誇大妄想、解離性人格障害などあらかた踏襲したね」
「統合失調症は、病名もどきと聞いたことがあります。名前の付けようがないから無理に一区切りにされた病。大丈夫です、天才たる神無月先輩なら」
「俺はほんとうなら凡人だった。もっとも、決定的にマイノリティーでイレギュラーだから。一般の他人とは一桁違う人間だとは思っていた……はずなのに」
「先輩? なんでもないですよ、気にしないことです」
「一桁違う人は、傲慢な人間が多いので嫉妬するが。二桁も違う偉人は尊敬する。凡人と一桁ずれた自分と相殺して共感できるのだ。そしてここにきて、三桁違う超自我『逸般人』の登場。俺の世界は壊れた。それが時雨と千秋の二人だ。ま、愚痴はこの辺にしようか」
先輩たちと戦況を調べてみる。敵戦力は大まかに二派。神道の精霊、イザナギにイザナミ、総勢八百万。次いで仏教の御本尊、釈迦牟尼仏を筆頭に六名、さらに分家の仏、次いで守護天たちがテンコ盛り。
ふいにすくっと直立するや、神無月は指摘した。「来るぞ。どうやら精霊サルタヒコ率いる尖兵のごろつきだ。彼方を見てみろ」
これは壮観……まさに天と地を埋め尽くす悪の軍勢ならぬ巨大な光臨神々しい神仏の群れが、ゆっくりと大学キャンパスへ向かってくる。あれとバトルか。
俺の悪魔軍団と千秋の『魔法』で渡り合い、勝てるか……? ついでにガラの悪い身なり顔つき目つきの二十歳くらいの野郎ども十名あまりも歩いてきているが、あんなので神の飼い犬か、は。
俺は悪魔に命令を与えるべく、呪文詠唱の準備をした。一語一句間違えないように声を出さず舌打ちしながら繰り返し頭で練習する。あれ?
あの千秋がしゅんとしている……それどころかうつむき微かにだが震えている。何故だ、こんなたかだかゲスカス野郎たち相手に。しかしそいつらは、侮蔑のセリフを吐いた!
「まだ生きていやがったのか、この雌ブタが!」「は、なんだその不っ細工な雄ブタは」「ブーブーブタ同士仲が良いな」「死ね、バカデブス藤公!」
俺は血が沸騰するのを感じた。千秋をいじめていた連中か……許せない、こいつら! しかしその時だ。
時雨は感情の失せた平たい言葉を発していた。すべてが凍りつき氷のように砕け散る、絶対零度の寒風が吹き抜けたかのような冷淡なセリフ……。「人間がブタの言葉を話すなよ、ブタの方が恥ずかしくなるもんね」
悪寒と共に、背筋を電撃が走った。いつもの穏和な彼ではない。ヤバい! 時雨先輩完全に怒っている。次元万作、時限爆弾のタイマーが入った。
俺は叫んでいた。「逃げろ、みんな! 灼熱の爆風に巻き込まれるぞ! 時雨がひとたびこうなったら地獄絵図となる!」
と、ここで朋村雫華が大声でア・カペラのきついデスメタルを歌った。「シャウト! キャンユーディグイッツ? アトジャストナウ、レッツショータイム。アイアワードユーバスタード、アイウィルゲッチュー!……」
この歌声を聴いて、俺の血は踊った。勇気が高揚感が胸に頭に押し寄せてくる。『魔力』を秘めた歌だ、見れば千秋ももう立ち直り、いつになく怒りの表情を見せている。普段穏やかな神無月も小百合先輩も、士気が高ぶっているようだ。まして時雨ときたら……
俺たちは神、仏に人間の屑どもに向かって突撃していった。