(R15指定です。初めにお断りしますが、この物語には不適切な表現が多々描かれています。分別とご理解のある方だけ読まれてください。通報はしないでくださいね。取敢えず序章を終え第二幕開始!)
  
  
 俺、美嶋泰雄は自分が眠っていたことに気付いた。とりとめのない悪夢を見ていたような気がする。でも夢としてはゾクゾクワクワク痛快で楽しかったな。
 確か俺、大学入学式終えたんだよな。それからコンパで酒を飲んで……あれ? なにがあったっけ。
 はは、ドラゴンが現れた? 魔女っ子に出会った? 悪魔を俺が召喚した? とことん酒とは理性を狂わせるらしいな。馬鹿らしい。まあ酩酊感は心地良いが。
 目を開く。ん? 大学の構内じゃないか。帰宅せずに夜を明かしてしまったのか……毛布がかぶさっている。ん? 近くに眠っているのは!
 無敵天下無双の豪傑、次元万作、通称時雨先輩!
 数学の天才貴公子大学院生、神無月真琴先輩!
 加えてミスキャンパスの変人、石橋小百合先輩! 助かったのか? え、助かったって……彼女悪魔に攫われて……悪魔!
 と、声がした。「起きた? 第四号、私の下僕、ロリコンの壊れた変態泰雄ちゃん」
 はっとする。俺好みのロリコン体型の変人美少女超能力者、藤村千秋!
 俺は愕然と現実を受け入れざるを得なかった。ドラゴンは依然と同じく千秋の脇に平静に伏せている、馬に乗った悪魔も!
「夢ではなかったのか、それともここは夢の世界か?」
「現実と夢の境界なんて、無いものよ。人の意志と世界そのものは等価だもの」
「では悪魔たちをなんとかしないと……」
「なに言っているの」クスリ、と笑う千秋。「悪魔ならみんな私たちで倒して味方にしたじゃない。勝利の宴に飲み過ぎたらしいわね」
 はん? 七十二の悪魔をすべて支配しただと?!
 俺は声を上げた。「では戦いは終わったんだな。俺たちが勝利した……では借金を返すどころか、世界の権力、富は俺たちのものだ!」
「いいえ私たちの支配下の悪魔の軍勢は、目下日本の八百万の守護神と交戦中よ。他にも日本を守る御仏が多数戦っている」
 なんてことだ! ジーザス! マイゴッド! ヘルプストレイシープミー……プリーズリッスン! 俺は祈っていた。
 得意気に吹く千秋。「ここで戦力の編成を行うわね。まず私は王女にして大元帥。時雨ちゃんは公爵にして元帥。神無月先輩は侯爵で技術中将。小百合先輩は子爵の上級大将。で、泰雄ちゃんは農奴の三等兵」
「不公平だ! なんでみんな将官なのに俺だけ極端に地位階級が低いんだ!」
「ちょっとからかっただけよ。泰雄ちゃんは悪魔使いとして、伯爵の大将よ」
 全身から血が引くのが音に聞こえるかのようだった。千秋、確実に自分の帝国の地歩を固めているな。俺はぼやいた。「恐れ入谷の鬼子母神……悪魔どもの戦況はどうだ?」
「かなり苦戦しているわ」
「やはり好事魔多しだな」
 突然視界が変わった。なぜか色とりどりの鮮やかな美しい花畑にいる。その向こうには荒れる大河……三途の川?!「千秋、ここはまさか!?」
「そうよ。『工事間男死』、自分で言ったんじゃない」
 工事、か。苦労して難関の国家資格なんて取らなきゃよかった。間男……って、何回死んでいるんだ、俺?
 しかし一粒の麦として社会の糧、礎となり……クリスチャンたる俺の矜持だ。「助けてくれ、千秋!」
 視界がまた大学キャンパス内に戻った。命を安売りするにもほどがあるな。恐ろしさに貧血で倒れそうな俺に、千秋は語り掛けてきた。
「初めに言っておくわ、私は馬鹿よ。しかしあなたは馬鹿ではないの? 自分を偽るのはだめ。馬鹿のくせに見栄を張り、学歴容姿財力権力をひけらかして……。どん底の中学時代、劣等感の塊だった。バカデブスと呼ばれ虐待された地獄の思春期。ストレスがストレスを生む悪循環」
「千秋……」言葉が詰まった。
「あなたは私を嫌っていますか、構いません。嫌うのは自然な正の感情です。非難や否定する理はありません。ですが私を憎んでいますか。きっと違うでしょう。憎しみは抱いてはいけない負の感情です」
 はっとして見つめる。「千秋?」
 千秋の目には涙が浮かんでいた。「私ね、憎しみに心を支配され生きてきた。憎しみこそが生きることの原点、自殺するくらいなら世界、いえ宇宙そのものを破壊してやりたい」
 俺は言葉が出なかった。千秋は話を続けた。
「……狂おしい葛藤に欲求、エゴが膨れ上がり。この地球どころか太陽系、超えて銀河系、超えて超銀河団、さらに超えて宇宙と等しくなったとき悟った。私は宇宙と等価だと。瞬間、『魔力』を得た。私にとってはブラックホールすら小さい。銀河すら小さい。永遠の虚無、バブル状に広がる超銀河団の間隙の『ボイド』に比べたら」
 千秋の両頬には涙の筋が流れていたが、それを拭きもせず微笑んでいた。「私、狂っているでしょう?」
 ……残酷な奇跡だな。だからせめて。俺のできる限り守ってあげるよ、千秋。天然記念物は大事にしなきゃな、幸せに。
 俺は柔らかく声を出した。「ほんとうに狂っている人間が、自分で自分を狂っているなどといわないさ。神経質におどおど震えながら『俺は正常だ、俺は正常だ、嘘なんて吐いていませんよ、嘘なんて吐いていませんよ』などと繰り返すものこそ自我に破綻を来している。しかしそうした人間を見て、『あいつあれで自分が正常だと思っているんだぜ』などと大勢で吊るんで聞えよがしに嘲笑する人間たちこそ無理解で精神が歪んでいるものさ」
「理解されて嬉しいわ。私ね、優柔不断に生きていこうと思う。決して誤字や誤用ではないわ。日和見とも違う。良く言えばしなやかさ、適応性、度量の深さ広さ、したたかさ。問題に対する回答の可能性を多く有すること。馬鹿であれ正直に生きたい」
 俺は共感していた。「モラルとTPOは公の場で応じて必要だが、堂々と『聞いてくれ、俺はチェリーガイだ』と叫びたい。知識を詰め込むことは大切だが、最良ではない。脳みそは人間の限られた人生の中では、限りなく無限に近い潜在性を秘めている」
 千秋の顔は明るくなっていた。もう泣いてはいない。「あなたも馬鹿ね」
「自覚したよ、ありがとう」
 まったくファンタジーにサイエンスフィクションの世界だな。物理の数十年先を数学は走り、数学の数十年先をSFは物理を無視してワープするものだ。
 とりあえず、こうなりゃ自棄だ、全国規模の神対悪魔合戦をどう対処するかだ!
 偉大なる先輩たちがここらで、常軌を逸した世界への目覚めをしていた。