時は二十一世紀初頭、ネット通話で各々の自宅から話し合う青年三名……涼平、直人、一典。
涼平「目標は宇宙要塞ジンバレル。これを奪取する」
直人「ジェイルバードの掟に反する。おれは降りた」
涼平「直人! 第三の戒律を作ったのはおまえだろ」
一典「誓ったもんね。ぼくたちの生きる世界を守るために」
涼平「一つ、間違っているならば、神すら敵とする。一つ、輝いているならば、塵芥でも救う。それが掟だ」
直人「虐げられる一人を救うためなら、全世界を敵に回すことを厭わない。それがジェイルバードだ。たしかにおれはそう言ったさ、あのときは。おれは『彼女』を愛している……」
涼平「ならば答えは明らかじゃないか!」
直人「You say damn lie! Fools! I’ll crush you! And I saw fact! I have truth!」
涼平「You are weak. You are lost. And fact says not answer. Truth deposes you!」
直人「So you pity me, my best friends. I know, and this is why I pity you too… because I block your way.」
涼平「You can’t block me. Seeing… hearing… How darkness and quiet is the out space.」
直人「What must I do? Kill enemy or dead me?」
一典「物騒な話し合いはやめてよう、ジェイルバードは人殺しはしない。それが大前提にあるよ。どんな掟より前にね」
直人「良いだろう。敵が無人艦、無人機の内に叩く! 『0』との連絡は?」
涼平「公式には無い。しかし協力はしてくれるはずだ。だから希望は最後まで捨てるな。ジンバレル内部まではシフトできない、戦闘艇を使って突破潜入する」
直人「まったく酔狂な任務だな。おれたち三人の機体だけで宇宙要塞陥落せよ、とは。いくらまだ無人とはいえ、全長十キロ以上、艦載機一個旅団なんて」
一典「ぼく怖いよう~っ!」
涼平「『0』のジャミングがあれば、完全なる奇襲となる。いかに巨大な敵とはいえ、目も見えず耳も聞こえないとなれば、俺たちの勝利は疑いない」
直人「では行こうか。おれはナハトコボルトを使わせてもらうぜ。電子戦機が一機は必要だろ」
一典「ぼくはヴュルゲルで。戦闘機が一番安心だね」
涼平「俺はゲシュペンストにするか」
直人「アウフリーゲルではないのか? 涼平」
涼平「攻撃機アウフリーゲルは今回のミッションでは不向きと思えてね、バランスの良い汎用機ゲシュペンストにするよ」
直人「涼平の腕なら、アウフリーゲルですら並の戦闘機撃ち落とせるのにな。ならばゲシュペンストなら鬼に金棒か」
一典「では出撃! シフトランチャーを始動させる」
 三人は地上の家から忽然と消え失せ、各々の宇宙戦闘艇に乗り込んだ。それぞれ全長十二メートルほどの、シャープな直線シルエットのデルタ翼の機体である。
 宇宙空間には翼はいらないかに思えて、実は武装に燃料の致命部をできるだけコクピットから遠ざけるデザインなのだ。次いですぐに目標座標へ飛ぶ。
 火星衛星軌道。見えるは漆黒の鮮やかに輝く星空に、ぎらりと強烈に照りつける太陽の光……
 彼方に見えるは酒樽のような形の白い建造物。
一典「行こう! 肉薄して中枢部を抑える。メインコンピューターに接触し、『0』にクラックして乗っ取ってもらう」
涼平「待て、ヤバい! ジンバレルの火器管制システムが作動している!」
一典「『0』がジャミングしてくれる手はずではなかったの、なんて番狂わせ……うわあ、ミサイル来るよう! 二千発も!? ぼくたち三機相手に」
直人「ちょっと待て……。……、当たった。マス・ドライバーでジンバレルの管制発振機四基と戦闘艇ランチチューブ二基を破壊した」
一典「敵ミサイルの群れが逸れていく! やったね!」
涼平「やるな、直人。ハンドガンの至近距離狙撃だけが取り柄ではないのだな」
直人「ナハトコボルトは『0』が仕上げてくれた電子戦機さ、精密な超長距離狙撃の弾道計算を可能とする」
一典「敵戦闘艇が来るよ! 百機以上も」
直人「! 敵の戦闘艇ドッグは一つではなかったのか」
涼平「どうする、これはまずいな……」
一典「ぼくが迎撃するよ。ことわざに、『一典を行かす』ってあるでしょ」
涼平「漢字が違うぞ、『数の利を生かす』だろ」
一典「フェイクジャグラー、突貫します!」
涼平「無茶するな! 正気か?」
一典「蠅のように舞い、蚊のように刺す! のわっははは、わははははははははははは…………」
涼平「……圧倒的だな。なんて操縦技量だ。絶対的多数の敵機の追尾をかわし背後を取り、至近距離からマス・ドライバー撃ち込みまさに秒殺か……何機落したあいつ。俺も援護に向かう!」
直人「がんばってくれ、おれには戦闘艇と戦える能力は無い。それにしても一典、12Gの加速に耐えているぞ。超人だな」
涼平「一典のヤツ、母艦沈めたぞ! これで敵戦力は一機に半減だ。良くやった、一典」
一典「ははははははははははは! ?! うぐっ、うぐうううっげぇえええ……」
涼平「どうした、一典?」
直人「涼平、サポートに回ってくれ。一典の奴、笑い過ぎで横隔膜の発作を起こしたらしい。窒息しかかっているな、これは……仕方ない、おれも前線へ出る」
涼平「まったく度し難いな。これだからジェイルバード隊員は、アホだ間抜けだって馬鹿にされるんだ!」
直人「ピンポイント狙撃のつもりが……秒速五十キロのマス・ドライバーも当たらないものだな、軽快な戦闘艇相手には。間合いを詰めないとダメか」
涼平「無理するな、ナハトコボルトはドッグファイト向きではない。機動性も火力も劣る」
直人「一対一なら負けないつもりだ。……命中! 一機撃墜……ん?」
涼平「直人、後ろを取られているぞ、かわせ、急旋回だ!」
直人「う……おえっ! おろおろおろ……」
涼平「戻したのか? 直人! おまえ酒飲んでいやがったな、どアホがあっ!」
 集中砲火を浴び、直人のナハトコボルトは爆散した。シフト脱出する直人。
 次いで、発作の収まらない一典のヴュルゲルはシフトランチャーで回収処置が取られた。
涼平「俺一人になっちまった! 電子戦機がなければ不利だな。まあいい、このゲシュペンストが破壊されても、ジンバレルに潜入できれば!」
 こうして自棄気味に宇宙要塞ジンバレルに突っ込んでいく涼平のゲシュペンスト。機体は大破したものの、なんとか生身での潜入に成功した。
 メインコンピューターはどこだ? 涼平を『0』がナビしてくれた。ジャミングで一切の自動攻撃システムは動かなかった。迷宮さながらの隔壁と通路、電子ロックされたシャッターの群れをクラックで通過。
 目的の大きな一室にたどり着き、メインコンソールパッドに取りつき、言い渡されていたパスコードの群れを手動で入力する。これで要塞はジェイルバードのものだ! 安心してほっと一息つけた。
 涼平はタバコに火を付けた。瞬間、火災探知機が作動し、一斉に室内は濃い霧の水の消火スプレーが噴射された。湿ったタバコ噛み締め、ずぶ濡れになる涼平。
 コンピューターそのものは防水加工されているが、そうではないコントロールパネル、キーボード入出力端末はショートし使いものにならなくなり、宇宙要塞ジンバレルはここにその動作を停止した。
 ……以上が、ジェイルバード小隊が敵日本中央バイオニクスの宇宙要塞ジンバレルを乗っ取るまでの経緯である。こんな巨馬鹿三人組でも、時代は動かせるものである。

(終)