相対性理論によると、速度は光速を超えない。
質量を持つ物質の速度は、だ。現に数学上は証明されるタキオン粒子の速度は光速を超える。その質量は、数学的には虚数だ。
情報の伝達速度は光速を超えるという説もある(情報は質量を持たないから)。無限、一瞬と言ってもいい。つまり、物質同士は物質そのものは時間を隔てて離れていても、その存在の情報は時間を超えて結びついている。
本当だろうか。
宇宙に星と星をまたぐくらいの巨大な電光表示板があり、それに光点が一瞬で流れたとする。光点は質量を持たない情報のため、その流れていく速度は光速を超えてもかまわない、という説がある。
ほんとうだろうか?
電流の速度だって光速なのだから、電光表示板の表示を光速を超えて映すことは不可能だ。
仮に、ちょうど光速の速度分、先に光るのを遅らせたとすると? 確かに電光表示板は、一瞬に(同時に)光るだろう。
しかし、それには最初に光る分が、最後に光る分を待つ、ということになる。それはいかにもパラドックスだ。とすると未来と過去とは逆転する、もしくは未来と過去とは一つの輪に結びついていることになる。空間を隔てるということは、時間も隔てるということだから。
逆に、情報を伝達できる最大の速さは光速だとする意見もある。諸説紛糾するところだ。
ビッグ・バン直後の宇宙の膨張速度は、光速を超えていたとされる。だから宇宙の彼方を観測しても、宇宙誕生時点の宇宙の姿しか見えない。光速を超えると、時間は逆行する。だから宇宙の彼方では、時間が逆行している。
相対性理論とは、どの視点からみても絶対的な時間や空間が存在しない、それらは相対的であるという理論だから。宇宙の彼方から地球を見れば、地球の時間は逆行していることになる。時空は輪廻する。
……』
「すごい話ですね」
相川はそうもらした。畑城は鼻で笑った。
「どこが。こんなもんは小学生の抱く妄想だ。最初に算数を学ぶとき。誰しも、その概念は教えられる。しかし中学高校に進むに連れ。こうした概念は捨て置かれ、数学は単に公式の暗記になってしまい。みんな、忘れてしまう」
「たしかに、そのとおりです。『ではこの場合はどうなんだ!』って、追求したくなる矛盾が無数にあります」
「これを証明するとなると。天才的数学者、ってことになるだろうな」
「凡才でも証明できるんじゃないですか、誤りだって」
「天才なら、真実と気付くかもしれないさ」
「天才となんとかは紙一重と言いますからね」
『……
我思う、故に我あり。これを変えると、
我思うと我思うが故に、我ありと我思う。となる。
だから可能性は
無が有り 有が有る
無が無く 有が有る
無が有り 有が無い
無が無く 有が無い
いずれともなる。
あなたは『論より証拠』というかもしれないが、『理解できない真理より、実際に使える誤りの方が有用』ではないか。
0は無と等価とすると。無という1があったことになる。
0という1。0と1という2。0と1と2という3。0と1と2と3という4……このように数字は膨張していく。
以下、2進数の話となる。
0と1。これが光と闇に分かれた。
0と1という2……という二桁2ビット。これが四種類の地水火風。地と風、水と火で対立する自然元素(精霊)が出来上がった。
同様に三桁3ビット。これは父と子と精霊。神と仏と自然を示す。
人の祈りが神を生み、神は自然を司り、自然の中で人は生きる。
人は死後、仏となるか自然に還るか神に召される。
これは錬金術的三元素、塩、硫黄、水銀でもある。
2の3乗は8ゆえに、これは8種類の文字となる。
それがさらに3つ集まって、三種のグループ(9ビット)による8×3の24ワード、アルファベットを構成する(古代のアルファベット、ルーン文字は24文字だった)。
それをさらに一桁加え、二倍の48ワードにしたのが日本語ひらがなである。これは10ビット、指の数と同じだ。とすると言霊は一語辺り1024通りの効果がある。
それらを足して72にしたのがソロモン王の鍵。72の悪魔だ。
夜中に合わせ鏡を覗いてはならない。その迷信を打ち破ったのがアインシュタインだった。光速度不変の法則、相対性理論。エネルギーと質量は等価。
それが空間というものの、時間というものの、時空というものの性質。質量を持たない物質の速度は光速となる。
質量を持つ物質から見れば光速だが、その光速度で進む物質にとっては時間は一瞬も経過しない。
光とは質量を持った物質にとっては秒速三十万キロで突き進む、純白に輝くホワイトライトだが、光そのもの、質量を持たない物質にとっては。
それは全宇宙に一瞬にして届く、波長無限大、周波数0、エネルギー0の闇。
『ブラックライト』である。
永遠を生み出すのが虚無。
実在と創造を生み出すのが限りある命。
問題を解くのは君達だ! さあ、着手したまえ。
……』
「これで終わりか?」畑城はやれやれと息をついた。
「支離滅裂でしたね。確かにファンタジーっぽい要素も、コンピューターっぽい要素もありますが」相川も同意した。「畑城はどう思うの?」
「宇宙はドラえもんのポケットの中にあるんだ。ドラえもんが四次元ポケットを開いたとき、全宇宙がそれに飲み込まれてしまったのさ」
「ドラえもんなんて、実在しないじゃない」
「そりゃあ、ドラえもんはこの宇宙の外にいるんだからね」
「馬鹿馬鹿しい」
「そうかな? 宇宙の外へ出れば、ドラえもんに出会えるんだぜ」
「じゃあどうしてドラえもんは、わたしたちの宇宙に存在しないの」
「そりゃあ、おれたちはドラえもんの宇宙の外にいるからさ。現実と夢さ。おれたちの生きている宇宙は現実で、ドラえもんは夢の世界に生きている。
向こうでは、ドラえもんがいるのが現実で、おれたちの世界は夢。現実と夢が逆になっている。
これは戯言かな? だが、夢という言葉。それが、寝ているときに見るそれと、現実に生きているときの理想と同じ意味ってことが。英語ではドリームだが、それだってそうなんだぜ」
「わたしをからかっているんでしょう」
「当たり前じゃん」
「まったくもう。とんだ詭弁ね」
「そうさ。学会ではこんな戯言、相手にもされないだろう。数学的にこうした詭弁法はいくつもあるんだ。フィクションとすれば、別かも知れないが。個々のネタはSFにも前例があるんだろうな。
ゲームとしては……前例は無い。それは確かだ。しかし、誰がこんな偏執狂的なシロモノを欲しがる? この紙くずを課長に通した時の大目玉が怖いね」
畑城はそうぼやくと、手にした書類をごみ箱に放りこんだ。
おしまい