西暦1999年。地球は爆発四散した。

 『ファイナル・インパクト』としても広く知られる、当たり前の現実だ。

当時何度も映画にもアニメにもなった。預言書も広まっていた。知らない人がいるはずはない。

しかし情報化の進んでいたこの時代、人々はこの現実を知らなかった。

 いつも自宅に住み、当たり前に職場や学校へ行き、直に見聞きするのは近所の出来事のみ。さもなくば、テレビ端末やインターネットの『編集された』映像のみ。

誰が空の彼方の現実を知るというのか?

 90年代にはもう、CGと現実の映像の区別はできなくなっていた。われわれは、まさに仮想現実の世界に生きているのだ。

 各国政府はパニックに陥っていた。

結果、世界的な大不況に陥ったし、民族紛争が激化し戦争が頻発したのは周知のとおりだ。

 それでも間際、人々はいつもと変わらぬ日常を送っていた。破滅の日、と知っていたら人々はどうなっていたものやら。

運命の日。九九年八月十三日。

傍目には、なにも起こらなかった。

しかし地球は重力場的には、文字通り爆発したのだ。

 銀河中心部は過密する恒星のブラックホール化による質量に耐えかねていたが、そのときにまさに決壊。中心部は爆縮し、バキュームカーの様に全銀河数千億の星々を吸い込み始めた。

 宇宙は限りなき膨張から限りなき収縮へと転じたのだ。

研究者ならぬ、地球の一般市民が重力場の異変に気付きうるのは重力の実際に伝わる三万年後だ。そのころの人類なんて知ったことではない。

実際に地球に影響が及ぶのは、相対性理論の事象の水平線からして五十億年後だ。そのころには太陽は赤色巨星化し地球は消滅しているだろう。

遠い未来。おそらく数千億年後。超重力の塊となった銀河系は、飢えたシロナガスクジラのごとく他の幾兆という銀河団を呑み込み成長を続け。やがて溜め込んだエナジーに耐え切れなくなり爆発、新たな宇宙となるだろう。宇宙は永遠だ。

しかし誰も知る由もないが、遥かむかし、いまの宇宙誕生以前の話。数千兆年前。

大いなる創造主『神』がうっかりし、足元の宇宙(今の宇宙の御先祖様)に蹴つまずいてしまった。とんでもない大衝撃が起こり、宇宙軸は傾いた。

神はせっかく作った宇宙が壊れてしまうのにがっかりしたが、宇宙は他にいくつもあるのでそう悲しまなかった。母神さまから夕飯ができたと伝えられると、もう宇宙なんて気にも留めず神は喜んで歩みさった。

この影響が僕らの宇宙に伝わって宇宙が崩壊、修復不能になるのは幾千兆の幾千兆乗年後だ。それまでには宇宙は誕生(爆発、ビッグ・バン)から消滅(収縮、ビッグ・クランチ)のサイクルを何億回の何億倍と行っているだろう。それも、宇宙の各所で無数に、鼠算式にだ。

一サイクルがたった一京年程度としても、僕らに残された時間は無限だ。

宇宙は全体としてみれば、収縮するのではなく、光より速く膨張している。エントロピー増大則の非情、世界が闇に包まれる日は、やがては降り掛かるのだが。それがどうした? 無限の宇宙の片隅で。

僕の日常生活は、いまもなにも変わらない。

  

おわり