かつて、社会を改革した英雄がいた、か。過去の話しだ。そいつは苛烈な戦いの末に廃人となり、一人安アパートで生保を受け飼い殺されているとさ。悲惨なことだ。
それが自分のこととなるとお笑いにすらなる。
二〇四一年六月の平日、早朝七時。俺はベッドに横たわり、ウォッカを啜りながら皮肉に考えていた。さきほどから玄関で響くノックの音と女の声を無視しながら。
「不知火くん、いるんでしょ。出てきなさいよ。女も相手できないっていうの、意気地無し。神無月の名が泣くわよ。こら、し~ら~ぬ~いっ!」
俺は無視した。不知火、それは架空の人間だ。俺は神無月でもない。ウォッカをごくり、と喉を焼く。声の主は霞。以前参加していたゲームでの、俺の相棒だった。あくまで、ゲーム。仮想現実。不知火も霞も本当の名ではない。とにかくその霞はからかうように言う。「腰抜けくん、このままでいいの? いまどき確かに、引きこもりなんて珍しくない。在宅ネットワーカーの割合も多いしね。でもわたしは通学を再開したわよ、もう二週間になる。それにあの一夜のこと、忘れたかしら? 児童福祉法違反で訴えちゃおうかな。110番の用意、と」
脳裏にニュースのカットが浮かぶ。(生活保護の無職の男性、女子高生に乱暴し逮捕。容疑者は精神障害の疑いがあり……)。洒落になんねえ、俺は叫んでいた。「一夜ってなんのことだよ、俺はなにもやってねえだろ! 朝っぱらから」
「言いふらしちゃうわよ、いい歳した男が、純真な女子高生の心と身体を弄んで。それが改革の英雄のなれの果てと知られたら、大スキャンダルね」
冗談も度が過ぎる。女は怖いな。俺は扉越しに答えてやった。「なんの用だ、霞」
「聞いて。あの時雨がね、うちの高校にやってきたのよ」
「撃墜王の時雨が? そういえば、たしか時雨は警備員とか言っていたな」
「おまけに冬月くんまで、警備員のアルバイトで。それが不良グループに絡まれちゃって」
「霞の高校って名門高じゃなかったっけ。まさかコテコテの80年代学園ドラマみたいに、そんなに荒んでいるの?」
「一部の例外はね。それも親の権力を笠に着ているから性質が悪いわ。冬月くんが違法駐車を取り締まったら、そいつおまけに無免許だったの。それを叱責したら、冬月くんグループ連中からタコ殴りのリンチ喰らったわ」
「毎度のことだけど、冬月ってかませ犬だよな。現実社会でもこのザマか」
「真面目で有能なのに、無軌道な時雨ちゃんに振り回されてはワリ喰っていたもんね」
「貴公子さんは、どうなった?」
「それがね、冬月くんさすがの度量と言うべきか、自分の一存で事件を黙視することにしたの。なのにそしたら相手つけあがっちゃって、俺たちは正当防衛だ、冬月くんを逆に傷害で訴えるとか恐喝してきたわ」
「霞の学校、マジ腐ってんな」
「親が政財界のお偉方とあってはね。それで、警備員監査役の時雨ちゃんのお出ましとなったのよ」
「監査役? あのおっさんそんな偉かったの」
「新都心支社取締役、補佐官職。現場総監のさらに上。部下二百人を束ねているわ。日雇いのアルバイトを含めると千人以上。そのアルバイトの一人が、冬月くんってわけ」
「なんでまた冬月があの時雨のところで。まあ良い迷コンビではあったがな」
「例のゲームの結果よ。覚えている? わたしはぎりぎりで賞金を貰えた。時雨ちゃんも。でも冬月くんは? でしょ」
そうだった。例のゲームで冬月は時雨のおかげで二度も撃墜の憂き目を見たのだ。それは大学生にとっては大赤字だったろうな。で、時雨のつてでバイトしたってわけか。俺はベッドから起き上がると、玄関へ向かい扉を開けた。
霞。凛とした印象のすらりとした少女は、澄んだ瞳で俺に笑みを向けてくる。ブレザーの制服も似合うな。認めたくは無いが、霞は可愛い。俺はやれやれと言った。「それで俺に相談か。たしかにあの疫病神が現実にやってくる、となるとぞっとしない話しだね」
「ついてきてもらえる、英雄さん。それともまだ腰抜け呼ばわりされたい?」
「わかったよ、俺は不知火三飛曹だ。霞飛曹長殿の命令には逆らえないからな」
不知火、霞、時雨、冬月。俺たちはゲーム内で知り合った同僚同士だった。あくまで電脳世界での友人。現実に集まることになろうとは、思っても見なかったな。オフ会としては妙なシチュエーションではあるが。
ともあれ俺はガラでもないスーツに着替え、霞の父兄ということで校内へ入った。というか侵入者だね。
それにしてもデカいとこだな、デザインも豪華。ほんの五年くらい前に改装されたのか、新しい。普通の公立校のコンクリ校舎とは比べ物にならない。霞らしいお嬢様高だ。
校内を歩き出す。場所はわかっている。駐輪場だ。四年前ならいざ知らず、現在はエンジン音高鳴らせての自動二輪通学の高校生は多い。直接民主法で決まったのだ。
十二時半。さっそく時雨を見つけた。校舎の壁隅で煙草を吸っている高校生相手だ。ついて早々、香ばしい展開だな。俺と霞は近づき、やや間合いを置いて密かに様子を見た。
時雨は間延びした穏和な声で、生徒に質問している。「ねえ、きみ。なにやってんの?」
「なんだ、このチビガキ」不良生徒は陰険にほざいた。一五五センチの時雨よりたっぷり三十センチは背が高い。
「確かに僕背低いけど。僕はガキじゃないよ、二六歳だもん。勤続八年の警備員だよ。で、きみはなにをしているのかな」
「見てわかんねえのか、食後の一服だ。文句あるのか?」
「僕は先生じゃないから止めはしないよ。でも投げ捨てはいけないよ、それはマナー違反だもん。携帯灰皿持ちなよ、街によっては罰金バカ高いよ」
「からかってんのかよ、警備員風情が。いまのセリフ、学校に言いつけてやろうか? 会社に連絡いって、あんたクビだぜ」
「言いつけても無駄だもんね。その責任者って僕だもん。報告握りつぶしちゃうもんね」時雨はさらりと言っている。不良は鼻白んだ。
隠れてのぞき見ながらも、俺は霞につくづく言った。「う~む、空戦と変わらずのマンチキンぶりだな、無敵だなあのおっさんは」
「あんな警備あり? 普通だったら現場保持と物証の確保だけど」
時雨は悠然と吹いている。「煙草買う金あるんだったら女に貢ぐのが男の甲斐性だよ。どうせきみ彼女いないっしょ。え、なにその目。文句があるなら打ってこ~い!」
俺は時雨の無軌道ぶりに、改めて感嘆の意を表した。「挑発してやがる。立派なことだが、やばくない、霞?」
「あいつ不良の中でもキレやすいので有名よ。きゃあ!」
高校生は、時雨の腹に全力パンチを決めていた。
しかし時雨は平然としている。「ふうん。そんなもん?」
あの突き出た腹は筋肉かよ! 柔道四段は伊達じゃないな。
今度は顔面にパンチが。もろ直撃! ……? 高校生の方が拳を振り痛がっている。時雨の野郎、額で受け止めやがったな!
時雨はあくび混じりだ。「なにしてんの? そんなパンチじゃスライムも倒せないよ」
つ~か、あんた自身がメタルスライム!
時雨はからからと笑った。「無駄無駄、あんたレベル低すぎ。僕は悪の帝王だもんね。レベル1雑魚じゃ倒せるわけないじゃん」
高校生は顔を歪めると、煙草を投げ捨て立ち去ろうとする。
時雨は追い討ちを浴びせた。「もう帰るの? じゃあね、卒業までには僕を倒すんだよ」時雨は靴底で煙草の火をもみ消した。「投げ捨てはいけないって、言ったのに」
そんなこんなで、一件落着。夜二十時。俺はアパートへ戻り、ウォッカ相手にくつろいでいた。久しぶりにコールが入った。電脳世界へのリンクのお誘いだ。リンク先サイトは……あれ、霞か。俺はモニターグラスをつけて仮想空間へ入った。
場所は簡易裁判所の入り口だった。田舎の公民館程度の、ちっぽけな建物。
「なんでまたこんなところへ、霞」
「時雨ちゃんの件よ」
「問題は無いだろう、時雨もたいしたもんだぜ。あれなら霞の高校、任せられるな。熱血教師ならぬマンチキン警備員」
「それが時雨ちゃんもお人好しでね、煙草の吸殻が発見されると「わたしが吸いました」って生徒をかばおうとしたのよ」
「あの時雨がねえ。あれでも、大人なんだな。漢の鑑だね」
「でも事件はさらに大きくなっちゃった。あのカスが時雨を訴えているのよ。自分が手を打撲したのは時雨が喧嘩売ってきたからって」
なんだそりゃ。義理も人情も仁義もねえな、権力とは人間の品性を捻じ曲げるね。
「弁護するのか、霞。俺だったら堂々とチクるところだぜ、学校どころか警察にな。今日の証拠画像なら、俺押さえといたぞ」
「裁判そのものは嫌じゃないけど、県会議員だった親の面子に関わるのが嫌なの。いまの時代、権力を振りかざすのは恥知らずに思われているし」
「それをあのカス連中に言ってやれよ。ま、俺はどうでもいいがね。時雨が倒されようが」
「そんなこといって。倒されたらどうするのよ?」
「エンディングが始まるんじゃない? 本人も悪の帝王と自分で言っていることだしハッピーエンドだ」
「馬鹿言ってないで協力しましょう」
「そうだな、やむをえないか」
これも自分の撒いた種、か。現在の直接民主制を打ち立てたのは神無月、かつてそうよばれていた自分なのだから。
不発弾 中
それが自分のこととなるとお笑いにすらなる。
二〇四一年六月の平日、早朝七時。俺はベッドに横たわり、ウォッカを啜りながら皮肉に考えていた。さきほどから玄関で響くノックの音と女の声を無視しながら。
「不知火くん、いるんでしょ。出てきなさいよ。女も相手できないっていうの、意気地無し。神無月の名が泣くわよ。こら、し~ら~ぬ~いっ!」
俺は無視した。不知火、それは架空の人間だ。俺は神無月でもない。ウォッカをごくり、と喉を焼く。声の主は霞。以前参加していたゲームでの、俺の相棒だった。あくまで、ゲーム。仮想現実。不知火も霞も本当の名ではない。とにかくその霞はからかうように言う。「腰抜けくん、このままでいいの? いまどき確かに、引きこもりなんて珍しくない。在宅ネットワーカーの割合も多いしね。でもわたしは通学を再開したわよ、もう二週間になる。それにあの一夜のこと、忘れたかしら? 児童福祉法違反で訴えちゃおうかな。110番の用意、と」
脳裏にニュースのカットが浮かぶ。(生活保護の無職の男性、女子高生に乱暴し逮捕。容疑者は精神障害の疑いがあり……)。洒落になんねえ、俺は叫んでいた。「一夜ってなんのことだよ、俺はなにもやってねえだろ! 朝っぱらから」
「言いふらしちゃうわよ、いい歳した男が、純真な女子高生の心と身体を弄んで。それが改革の英雄のなれの果てと知られたら、大スキャンダルね」
冗談も度が過ぎる。女は怖いな。俺は扉越しに答えてやった。「なんの用だ、霞」
「聞いて。あの時雨がね、うちの高校にやってきたのよ」
「撃墜王の時雨が? そういえば、たしか時雨は警備員とか言っていたな」
「おまけに冬月くんまで、警備員のアルバイトで。それが不良グループに絡まれちゃって」
「霞の高校って名門高じゃなかったっけ。まさかコテコテの80年代学園ドラマみたいに、そんなに荒んでいるの?」
「一部の例外はね。それも親の権力を笠に着ているから性質が悪いわ。冬月くんが違法駐車を取り締まったら、そいつおまけに無免許だったの。それを叱責したら、冬月くんグループ連中からタコ殴りのリンチ喰らったわ」
「毎度のことだけど、冬月ってかませ犬だよな。現実社会でもこのザマか」
「真面目で有能なのに、無軌道な時雨ちゃんに振り回されてはワリ喰っていたもんね」
「貴公子さんは、どうなった?」
「それがね、冬月くんさすがの度量と言うべきか、自分の一存で事件を黙視することにしたの。なのにそしたら相手つけあがっちゃって、俺たちは正当防衛だ、冬月くんを逆に傷害で訴えるとか恐喝してきたわ」
「霞の学校、マジ腐ってんな」
「親が政財界のお偉方とあってはね。それで、警備員監査役の時雨ちゃんのお出ましとなったのよ」
「監査役? あのおっさんそんな偉かったの」
「新都心支社取締役、補佐官職。現場総監のさらに上。部下二百人を束ねているわ。日雇いのアルバイトを含めると千人以上。そのアルバイトの一人が、冬月くんってわけ」
「なんでまた冬月があの時雨のところで。まあ良い迷コンビではあったがな」
「例のゲームの結果よ。覚えている? わたしはぎりぎりで賞金を貰えた。時雨ちゃんも。でも冬月くんは? でしょ」
そうだった。例のゲームで冬月は時雨のおかげで二度も撃墜の憂き目を見たのだ。それは大学生にとっては大赤字だったろうな。で、時雨のつてでバイトしたってわけか。俺はベッドから起き上がると、玄関へ向かい扉を開けた。
霞。凛とした印象のすらりとした少女は、澄んだ瞳で俺に笑みを向けてくる。ブレザーの制服も似合うな。認めたくは無いが、霞は可愛い。俺はやれやれと言った。「それで俺に相談か。たしかにあの疫病神が現実にやってくる、となるとぞっとしない話しだね」
「ついてきてもらえる、英雄さん。それともまだ腰抜け呼ばわりされたい?」
「わかったよ、俺は不知火三飛曹だ。霞飛曹長殿の命令には逆らえないからな」
不知火、霞、時雨、冬月。俺たちはゲーム内で知り合った同僚同士だった。あくまで電脳世界での友人。現実に集まることになろうとは、思っても見なかったな。オフ会としては妙なシチュエーションではあるが。
ともあれ俺はガラでもないスーツに着替え、霞の父兄ということで校内へ入った。というか侵入者だね。
それにしてもデカいとこだな、デザインも豪華。ほんの五年くらい前に改装されたのか、新しい。普通の公立校のコンクリ校舎とは比べ物にならない。霞らしいお嬢様高だ。
校内を歩き出す。場所はわかっている。駐輪場だ。四年前ならいざ知らず、現在はエンジン音高鳴らせての自動二輪通学の高校生は多い。直接民主法で決まったのだ。
十二時半。さっそく時雨を見つけた。校舎の壁隅で煙草を吸っている高校生相手だ。ついて早々、香ばしい展開だな。俺と霞は近づき、やや間合いを置いて密かに様子を見た。
時雨は間延びした穏和な声で、生徒に質問している。「ねえ、きみ。なにやってんの?」
「なんだ、このチビガキ」不良生徒は陰険にほざいた。一五五センチの時雨よりたっぷり三十センチは背が高い。
「確かに僕背低いけど。僕はガキじゃないよ、二六歳だもん。勤続八年の警備員だよ。で、きみはなにをしているのかな」
「見てわかんねえのか、食後の一服だ。文句あるのか?」
「僕は先生じゃないから止めはしないよ。でも投げ捨てはいけないよ、それはマナー違反だもん。携帯灰皿持ちなよ、街によっては罰金バカ高いよ」
「からかってんのかよ、警備員風情が。いまのセリフ、学校に言いつけてやろうか? 会社に連絡いって、あんたクビだぜ」
「言いつけても無駄だもんね。その責任者って僕だもん。報告握りつぶしちゃうもんね」時雨はさらりと言っている。不良は鼻白んだ。
隠れてのぞき見ながらも、俺は霞につくづく言った。「う~む、空戦と変わらずのマンチキンぶりだな、無敵だなあのおっさんは」
「あんな警備あり? 普通だったら現場保持と物証の確保だけど」
時雨は悠然と吹いている。「煙草買う金あるんだったら女に貢ぐのが男の甲斐性だよ。どうせきみ彼女いないっしょ。え、なにその目。文句があるなら打ってこ~い!」
俺は時雨の無軌道ぶりに、改めて感嘆の意を表した。「挑発してやがる。立派なことだが、やばくない、霞?」
「あいつ不良の中でもキレやすいので有名よ。きゃあ!」
高校生は、時雨の腹に全力パンチを決めていた。
しかし時雨は平然としている。「ふうん。そんなもん?」
あの突き出た腹は筋肉かよ! 柔道四段は伊達じゃないな。
今度は顔面にパンチが。もろ直撃! ……? 高校生の方が拳を振り痛がっている。時雨の野郎、額で受け止めやがったな!
時雨はあくび混じりだ。「なにしてんの? そんなパンチじゃスライムも倒せないよ」
つ~か、あんた自身がメタルスライム!
時雨はからからと笑った。「無駄無駄、あんたレベル低すぎ。僕は悪の帝王だもんね。レベル1雑魚じゃ倒せるわけないじゃん」
高校生は顔を歪めると、煙草を投げ捨て立ち去ろうとする。
時雨は追い討ちを浴びせた。「もう帰るの? じゃあね、卒業までには僕を倒すんだよ」時雨は靴底で煙草の火をもみ消した。「投げ捨てはいけないって、言ったのに」
そんなこんなで、一件落着。夜二十時。俺はアパートへ戻り、ウォッカ相手にくつろいでいた。久しぶりにコールが入った。電脳世界へのリンクのお誘いだ。リンク先サイトは……あれ、霞か。俺はモニターグラスをつけて仮想空間へ入った。
場所は簡易裁判所の入り口だった。田舎の公民館程度の、ちっぽけな建物。
「なんでまたこんなところへ、霞」
「時雨ちゃんの件よ」
「問題は無いだろう、時雨もたいしたもんだぜ。あれなら霞の高校、任せられるな。熱血教師ならぬマンチキン警備員」
「それが時雨ちゃんもお人好しでね、煙草の吸殻が発見されると「わたしが吸いました」って生徒をかばおうとしたのよ」
「あの時雨がねえ。あれでも、大人なんだな。漢の鑑だね」
「でも事件はさらに大きくなっちゃった。あのカスが時雨を訴えているのよ。自分が手を打撲したのは時雨が喧嘩売ってきたからって」
なんだそりゃ。義理も人情も仁義もねえな、権力とは人間の品性を捻じ曲げるね。
「弁護するのか、霞。俺だったら堂々とチクるところだぜ、学校どころか警察にな。今日の証拠画像なら、俺押さえといたぞ」
「裁判そのものは嫌じゃないけど、県会議員だった親の面子に関わるのが嫌なの。いまの時代、権力を振りかざすのは恥知らずに思われているし」
「それをあのカス連中に言ってやれよ。ま、俺はどうでもいいがね。時雨が倒されようが」
「そんなこといって。倒されたらどうするのよ?」
「エンディングが始まるんじゃない? 本人も悪の帝王と自分で言っていることだしハッピーエンドだ」
「馬鹿言ってないで協力しましょう」
「そうだな、やむをえないか」
これも自分の撒いた種、か。現在の直接民主制を打ち立てたのは神無月、かつてそうよばれていた自分なのだから。
不発弾 中