度重なる不祥事、スキャンダル。ついに時代は動いた。世論の嵐にさらされた日本中央バイオニクスでは、経営陣が一新した。新たな取締役は、如月士浪。
わたしはそこの系列会社で、精密機械の開発、嘱託の技術者をしている。奴隷だなんて悲しい人を二度と出さないために、作りたいのはロボット。
神さま教えて。心って、魂ってどうやったら作れるの? 機械では知能を作ることはできる。人工知能。そして、それに『感情』を表現させることもいまではできる。でもその『感情』ってあくまで作り物の見かけだけの代物で、機械の人工知能がそれを自覚したりはしてないの。機械に、自我は芽生えないの。
だったら……生き物って特別な存在なのよ。神さまにしか作れないんでしょ。
わたしはファイルをまとめて、提出すべく本社に出向いた。待合室で、意外な人物と出会う。真琴くん。ちょっと大人になったかな。いっしょに、テレビの報道特集を見た。
新都心のある大学では、学生たちが亜人解放の活動をしている。署名活動、街頭演説。でも決して暴力は使わない。昔の左翼の活動家と違うのは、武装しないこと。ゲバ棒も、ヘルメットもしていない。もう一点は、正々堂々としていること。マスクで顔を隠したりしない。
『正しいことをしているなら、こそこそする必要はない』。
たとえ、反対派や警察に踏み込まれたときでも。見習いたいな、わたしが額のツノをチャームポイントとできるときが、来るのかしら。
モニターで、ある活動家がクローズアップされた。すらりとした長身の、長髪の少女。わたしは見覚えがあった。昔、ソードダンサーなんて呼ばれていたな。真琴が喧嘩わかれした彼女。わたしは聞いてみる。
「いいの? あの子のこと、好きなんでしょう」
「彼女は、俺には眩しすぎるんだ」
それが本音か、素直なところ。あの子に正直に接してあげればよかったのに。信念を持つ強い男の子の真琴らしくない。まるで子供じゃない、不器用だな。内心声をかける。いつか成長したら、釣り合いがとれるようになったら、迎えに行ってあげなさいよ。
「逢香さんか。良い子よね。あんな人がたまにいるおかげで、世の中捨てたものではないと思えるわ」
きっと、忘れない。みんなのこと。とくに巨漢の街金店員のことは。
「しょせん、人間さ」
さみしげな声。それは、誰に対しての言葉かはわからなかった。でもわたしは同意した。
「そうね」と。
わたしは、思う。半分、人間だから。人間が好きだから。真琴が本当に純粋な人間かなんて、関係ない。この戦いが、どんな結末を迎えるのかはわからない。でも、信じてる。心ひとつのあり方で、互いを乗り越えられると。
* 番外編 でこぼこアンチヒーローズ 終 *