あれから、どれだけの季節が過ぎていったろう。
ソードダンサーなんて名前がニュースを賑わしていたのは、わたしが高校を卒業してから大学に入学するまでの、ほんの春休みの間だけだった。最後の少女時代の、いまとなっては現実味の薄いあの日々。
わたしは新都心で平凡な女子大生をしている。よく新聞で目にする昔遺伝子工学でならしたとある企業は、経営陣が変わりとても開明的になった。自然保護や難民支援を積極的に行っている。
その会社から、感謝状が届いた。あのとき一度だけ会った、かっこいい青年取締役から。
かつての戦乱を静めるために、一番大切だったこと……みんなの心を開いたのはわたしのおかげなんだって。信じられる? わたしなにもしてないのに。あいつを追いつめて、泣かしただけ……ちょっと胸が痛い。
でもそのためなのかな。街は、少し昔と変わっていた。通りを歩く人間は以前より個性的かな。小学生みたいな小柄なサラリーマンや、建物に入るのに頭を下げなければならない長身女子高生。
テロなんて言葉忘れ去られたかのように、穏やかな生活をみんな送っている。もうひとつ忘れ去られたのは、人間を差別するある用語。肌の色どころか角があるくらい、もう誰も気にしないのよ。
これが平和、なのかな。世界本来のあるべき姿。それをもたらすために混乱の世を駆け抜けた戦士たちがいた、なんてことはもはやどうでもいい。かれらが本当にいまの調和をもたらしたとしても、それを支えているのは、後に続けていくのはみんなの心だ……違いを超えて手を取り合い、より大きくなった人間たちの絆。
その証拠に、もうみんな忘れている。思い出話は特別な時だけ。少し寂しいけど、もっとうれしい。
ときたまある飲み会に必ず顔を出すのは、大酒をかっくらってひんしゅくを買う青年工員と、その友人の華麗な曲芸でみんなを驚かせる巨漢の街金店員。喧嘩ばかりする漫才コンビ。わたしの可愛い妹は、後輩として入学してきた。昔あんなに内気で大人しかったのに、いまは明るく活発で社交的。おかげでわたしは悪い虫を追い払うのに大変。
だけど懐かしいある少年だけは、もう三年にもなるのにどんなに探しても、二度と会うことがなかった。
今日から大学生活最後の一年が始まる。今夜は校内をあげての新期生歓迎コンパ。あるサークルの会長となっていたわたしは幹事の一人として、早くから校内の会場の準備をしている。ある儚い期待を胸に。
ちょっと後悔したりする。あんな別れかたしかできなかったのなら、あんなにいじめるんじゃなかった。昔は一学年の差は絶対だったが、いまとなっては三歳の違いなんてなんでもない。
あいつはもう、ガキでもチビでもなくなっているだろう。でもありえないと知りつつ待ってしまうのだ。似合わないサングラスをかけた、生意気なつんつん頭を。
* ソードダンサー 終 *