・スケールがでかすぎる! でも、点と点の戦い

 アニメを見ると、ずらっと戦艦が整列して戦っている。実に壮観だ。味方同士肩を並べる艦と艦の間の距離は、あまりない。それでも戦艦の巨大さを思えば、数百メートルは離れているはずだが……どう見ても、10キロは離れていない。もっともこれは部隊ごとの隊列だから、別の隊は数十キロ離れているかもしれないが……百キロも離れているだろうか。

 原作ではおよそ一艦隊、一万五千隻。実に凄じいスケールだが、宇宙は二次元の海面とは違い高さがある三次元だ。もし一個艦隊が、縦横高さ同数ずつに均等に整列したとすれば、一万五千の立方根は……約、25。縦横高さ25隻ずつとなる。

 すると? 仮に、すべての艦と艦の幅が100キロずつ離れているとなると……艦隊の幅は、2500キロ。2500キロメートルというと、一見すごい長さに思える。しかし。

 アニメのあるシーンを見ると。「600万キロまで近づいたら、攻撃開始だ!」なんて言っている。600万キロメートル? めちゃくちゃ遠い。しかし光の速度は、約30万キロメートル毎秒だ。つまり20光秒。レーザービームが敵に届くまで、たった20秒。宇宙戦闘の尺度としては、間合いがこれくらい離れていて当然なのか。

 と、いうことで。ここに矛盾が起こる。艦隊の幅を、2500キロとした。話を簡単にするために、さばを読んで増やして6000キロとしても、敵までの600万キロと比べると……違い過ぎる。つまり、艦隊の幅と敵までの距離との比率が、実に一千倍だ。これでは、点と点の戦いではないか! 身近な比率で言うと、1メートルに対しての1ミリだ。

 それなのに、原作では敵を包囲したりしている。600万キロの距離を、10分の一の60万キロまで狭めたとしても、艦隊の幅との比率は100倍。どう考えても、包囲なんて絶望だ!


・前線に出るのは、勇敢? 

 主人公の一人、ヤンは猛将と呼ぶにはほど遠かったが、戦闘に際し常に最前線に位置した……とあるが。有効射程100万キロをはるかに越す兵器の前に、艦隊の最も前衛と最も後列の距離は、せいぜい1万キロ。身近な比率で言うと、1メートルと99センチの違いである。最前線も、しんがりもこれではたいして変わらない!

 しかしまあ他の味方の背後に隠れる、という戦法はできるかも。敵が、隠れている船を狙おうとして動いても、距離と幅の比率が百倍もあるのでは、そうそう簡単にはいかない。三角関数を使って、ちょっと計算してみると……ほう。艦隊の幅を、二倍に広げても、敵を狙う方向は、1度も違わないな。とすると、味方の影に隠れるのが、後衛か。


・ま、譲歩して。

 百歩譲って、敵を包囲することができたとすると、かなりの至近距離で戦闘が行われていたことになる。つじつまを合わせようとすると、距離を詰めるしかない。敵との距離が3万キロだとすると、ちょうどアニメの戦陣の模式図のようになる。これでもどう考えても、矛盾がおこるのだ。

 第一に二次元の陸上戦と違い、三次元だ。つまり、敵をあらゆる方向からすっぽりつつむような包囲はまず不可能(敵の、10倍くらい戦力があった時くらいしかなかった)。ま、これは作者もわかっているようで、包囲は三方向からの包囲や半包囲になっている。

 なんといっても、600万キロもの距離をほんの数時間、長くても数日間で詰められる加速度を持つ、戦艦どうしなのだ(ちなみに戦闘中、まともな戦法としてワープが使用されたことはこの小説中一度もない)。とすると包囲が可能なような至近距離では、ほんの少し加速しただけで、敵包囲網を突破できてしまう! 

 宇宙では大気中と違い、空気抵抗が無い。宇宙船はエンジンの推力による加速度の許すまま、どんどん速度を増せる。厳密には、相対性理論により光の速度を越せないが、その法則はせめて光の速度の50%くらいに達しないと、感じ取れるくらいにはならないので無視していい。

 包囲可能くらいの距離では控えめに言って、3Gくらいの加速で敵に突進したとしても、三十分もすれば、敵陣を突破できる。どう説明するのか……敵が、それに合わせて後退したのか?


・トールハンマーは?

 艦隊の幅、一万キロとすると……。この拡散した状態で要塞主砲、トールハンマーを撃たれて、一撃で千隻もふっとぶか?

 イゼルローンは、直径60キロという。千隻も吹き飛ぶためには、トールハンマーの光線の幅が、せめて2000キロいる。最初の設定の十分の一、艦隊の幅が250キロなら、光線の幅は50キロもいらないのだが。

 そういえばイゼルローン回廊は狭いと言うから、艦隊は密集陣形をとらざるをえなかったのだろうか。それなら、つじつまが合う……ように思える。

 まあ確かに使用時に、熱量と衝撃が四方八方三次元に拡散する(そして、薄れていく)核爆弾より、一次元でほとんど熱量が減衰しないレーザービームの方が、有効なのはいえるだろうが。


・あれ、戦闘機は? やっぱへんだ!

 先に距離と時間、速度、加速度の例をあげた。また矛盾がある。

 戦艦などの通常の宇宙船には、内部に人工重力があり普通に歩いて移動できる描写となっている。しかし。帝国のワルキューレ、同盟のスパルタニアンといった戦闘機には、そうした設備がないらしく、パイロットは戦闘機の加速度に振り回される……こんなシーンがある。

 しかし、である。人間の耐えられる加速度はせいぜい7Gのはず。それだって操縦は困難だろうが、10Gともなればパイロットは自分の重さでぺしゃんこ、良くても意識を失う。20Gともなれば即死だ。だってそれなら地上では体重が50キロかもしれない、後半の同盟ヒロインカリンだって1000キロもの重さに潰されるのだから。


・構成比率では?

 一艦隊に一万隻、百万人の将兵とされている。とすると……平均すると、艦艇一隻あたり乗員は100名。多いのか少ないのか……。原作やアニメを見る限り、主人公の乗るような旗艦はそうとう大きい。ちなみに史上最大の戦艦大和は、乗員3000人程度だった。オートメーション化の進んでいる現代の空母などでさえ、もっと乗員が多い(6000人くらい)。

 銀英伝はいくらさらにSF、オートメーション化が進んでいるとしても……旗艦の中で、大規模な白兵戦を行うなどのシーンからみても、少なくても五百人は乗員のはずだ。まあ、「たった五十人で、どうやって巡洋艦を動かすんだ?」なんてぼやきもあった。

とすると巡洋艦クラスでも、百人以上必要なはず。なんたって、艦橋だけで、10人くらいはいるのだから。艦橋の士官オペレーター。砲塔の砲手。整備員。おまけに艦隊には陸戦要員もいる。艦載機のパイロットもいる。

 では小型艦となると、乗員が30~40名程度というクラスのものがあっても、そしてそれが艦隊の構成では最も多い、通常の主力艦だとしても不思議はない。う~ん。どう考えても、乗員が少ない。だいたい、戦闘艦だ。敵は、眠っているときを待ってはくれない。とすると、勤務は昼番と夜番の、二交代で行っていると見ていい。無論、すると稼働している乗員は、半数になる……

 そしてそのせいぜい40人の中で、操縦だけをするパイロットだけでもおそらくメイン、サブ。これが二交代として、四人は必要となる。電子化が進んで、操作が簡略化された宇宙船だとしても、これは多い。現在の宇宙船乗組員なんて多岐にわたる学力はもちろん、体力の他性格面でも、判断力や統率力、冷静さ、協調性に長じていなければなれないはずの超エリートだ。

う……間違いで軍人になった、などと陰口を叩かれるヤンでさえ、士官学校での成績は中位だ。高卒で徴兵されたような、新兵に勤まる仕事か? 原作によると毎年士官学校を卒業する士官の数は、千人台程度なのに。一艦隊は一万五千隻、それが十艦隊くらいあるのに。現役で前線にいる士官の数は、せいぜい5万人。

とすると小型の船の乗組員は、みんな叩き上げのノンキャリア下士官のはずだ。そして原作中下士官が登場する機会は、ほとんどなかった。

 そんな環境できちんと調理された食事なんて希望すると、もちろんコックだけで昼夜二人必要。無理とするとレトルト食品ばっかりかな。

あ、そうだ。「グルテン(小麦タンパク)のカツレツにナイフを入れた……」なんて描写がある。とすると合成された人工食品ばっかりだったのかも。……そんな未来、住みたくない! 戦乱ばかり続く……

そもそも『永遠の夜の中で』ってサブタイトルからしてSFではない。恒星系の惑星軌道上で戦っている以上、大気で太陽光をガードされている地球上なんかよりはるかに眩しい恒星の、『永遠の昼の中で』戦っているはずなのに。

 母艦からの艦載機発艦の説明もおかしかった。『母艦が超高速で疾走しているから、慣性ですでに母艦以上の速度に達しており滑走路やカタパルトはいらない』みたいな説明があったが、母艦が加速しているなら、切り離された艦載機は自分で加速しない限り、後方に流れて取り残されてしまうはずだ。中学生レベルの当たり前の力学だ。スポーツのボールをどうやって投げるのかすら理解していないような描写だが。

 そもそも『宇宙空間を超高速で疾走』、という描写もおかしい。加減速していない限り等速度直線運動なら、相対速度の差がいくらあっても、大砲で照準狙うに当たり、目標はスピードゼロと変わらないのに。

 軍事衛星アルテミスの首飾りをナパードラムジェット付けたたくさんの氷隕石を亜光速でぶつけて一瞬に破壊するシーンも。これはアニメで見る分には圧巻の興奮高まる一幕だが。

 星間物質を吸収して加速するのが意味不明。星間物質は極めて少ないから、氷隕石から水分を核融合ドライブに掛けた方が効率的なはず。

 それでも矛盾は起こる。原作の様な短時間で、いくら加速したって亜光速に達するのは到底無理だ。計算してみてください。光速は秒速約30万キロメートル、対して加速度はせいぜい10Gでしょう? 相対的質量が飛躍的に増大するような超高速になるなんて無理!