おすすめ小説 ファンタジー編

 改めてアピールし直します。ある意味ネタばれになりますので、ご注意を。

・ドラゴンランス

 僕がいちおしなのはなんといっても、富士見書房ドラゴンノベルズの、ドラゴンランス戦記そしてその続編のドラゴンランス伝説です。実をいうとこれはシリーズ化され、他にも原作は外伝、続編、前日嘆と、何十巻も出ているのですが、それは日本ではかなり大きな書店でなければ店頭にありませんでした。現在はどうなっているものやら。ドラゴンランスは日本ではあまり有名ではなかったですが、ハリーポッター並のヒットとなった作品です。

 一見、少年向けファンタジー戦記ものに見えますが、実に奥が深い作品です。テーマの一つが「相互理解」となっています。「相互理解」。異なる主義主張を持つもの同士が、お互いを認め合うということです。

 全六巻のストーリーも、壮大なスケールの大作(ちなみに、原作は分厚い三巻で、サブタイトルは秋の夕暮れ、冬の夜、春の夜明けです)なのですが、ここでは主な登場人物にスポットを当ててみます。

 戦記主人公の、タニス。メンバー一行のリーダー格です。戦乱の暴行による私生児として生まれ、父方にも母方にも自分の居場所が無い彼の心の葛藤は、重要なプロットとなっています。勇敢で正義漢なのですが、心に影を持つためか、ときとして優柔不断。それに決して邪悪な性格ではないのですが、正しい目的を押し通すためなら、手段を選ばないところもあります。例えば敵の武器を逆に使ったり。物語半ばで仲間を結果として裏切り(彼らしい、理由でですが)、敵の側につくのですが、最後は仲間を救うため敵司令官に刺し違える覚悟で立ち向かいます。ちなみに軍に属する戦士というより、どちらかといえば流れ者の狩り人です。

 騎士、スターム。タニスの親友であり同じように勇敢で正義漢ですが、タニス以上に高潔、潔癖です。立派な家柄(騎士、は兵士より格上。侍と足軽、が一例)の出の上、実力もあり自尊心の強い彼が、風来坊のタニスをリーダーと認めているのは興味深い点です。スタームは卑怯な行動が許せませんから、敵を後ろから刺したりはできないのです。そして戦う前には、敵に剣を立てて敬礼。これが、ピンチを招いたこともありました。彼は仲間の食べ物が少ないときには、自分の食事を断ります。交代しながら行う夜営の見張りも積極的。そんな彼は。最後には、腐敗、堕落した騎士団を救うため、処刑されることを覚悟で上官の命令を拒否してしまうのです。わずかな手勢で砦を守り、圧倒的多数で迫る敵に立ち向かいます。そして味方を逃がす時間を稼ぐため、彼は単身、強大なドラゴンに戦いを挑むのです。

 いたずら好きな小人、タッスル。他人の物を取る(盗む)ことを、罪と思わない一族の出で(悪人なのではなく、所有と言う概念がなく、自分のものも他人のものも同じ、なのです。共産主義か?)トラブルメーカーです。しかし、とても重要な働きをします。強大なドラゴンに対抗するため、苦労して主人公たちが探し出した、強大な力を持つ魔法の道具を巡って、だれがそれを所有するかで、味方同士(スタームの属する騎士団と、タニスの属する民族)で戦争が起きそうになるのです。そのときにタッスルは、悪いことと知りながら、味方に殺されることを覚悟で、その魔法の道具を壊してしまうのです。最初は子供のような性格で、深く悩んだりしなかった彼が心の痛みを知り成長していく姿は、とても共感できます。

 伝説主人公、病弱な魔法使いレイストリン。頭の良さを鼻にかけ、皮肉屋で打算的で、卑怯な点があり、双子の兄キャラモン(対称的な大男、陽気で裏表ない、大食漢の屈強な戦士)以外の他の仲間からは、信用されておらず、嫌われています。しかしレイストリンは彼自身人間一般を嫌う一方で、常に弱いものには、とても優しかったのです。美少女に優しく接する、なんてことは誰にもできますが、かれは乞食同然の生活をしている、醜い小人たちとかに親切にするのです。邪悪な性格を意味する、黒衣を身にまとってからも、それは変わりませんでした。最後にひどい罪を犯し、本来なら破滅するはずだった彼を救ったのは、かれのからっぽになるまで荒んでいた心の奥底にあった、ひとかけらの優しさだったのです。

 この大作の物語では、多数の魔法が登場します。しかし、最後の感動に包まれたエンディングを迎えることになった一番大切な魔法は、意外にも第一巻の中盤というとても早い時期に掛けられます。ごく、簡単な魔法。それがなぜ重要だったかは、十二巻目の最後を見なければわからないでしょう。

 「戦記」と「伝説」は両方とも、同じセリフで終わります。ですがそれはとても対称的です。片方は大団円なのに、暗い予兆を孕むエンディングであり、片方は大変な悲劇の末なのに、愛情に包まれています。これは、特に印象的です。