訃報を聞いたとき、沈黙が覆った。なにも言葉にできなかった。こういうのを、天使が通り過ぎたっていうんだね。
きみが天使であることは、なんとなく気付いていたんだ。博識の優等生、真面目で潔癖、曲がったこと許せない。
きみは世の中の矛盾や欺瞞に耐え切れず、いっとき翼を休めに地上に降りただけだったんだよね。
もし、天国で。飛び疲れたら。いつでも、翼を休めに戻っておいで。待っているから。
僕には翼が無いから。飛べないから。いまきみを迎えにはいけないんだ。情けない言い訳だけど。
これで僕、きみを愛していたんだよ。ただきみは僕にはまぶしすぎて。まっすぐに見ていることができなかった。受け止めてあげることができなかった。
無力な僕が悪かったんだね。僕は素直になれなかった。きみも素直になれなかった。いつも傷つけ合っていたね。
きみは気付いていないかもしれないけれど、きみも僕に愛をそそいでくれていた。でもきみは愛を信じることができなかったのかな。僕もそうだった。
きみもそうだとしたら、それはお互い相手ではなく。自分自身を信じる、愛することができなかったからかも知れないね。
愛の結末としてはさみしすぎるけど。哀しいけれど。きみはゆったりとその翼を広げるんだ。いまはのびのびしていていいんだよ、なにもかも忘れていいんだよ。
でも過ごした日々のちょっとしたきらめきは。ほんの少しでも気に入った輝きがあったら。胸に入れておいてくれないかな。
光あふれる空にいてね。世の中が腐敗し堕落していても、きみにはそれを正す義務はなかったのに。少なくとも、きみ一人の肩には。みんなと打ち解けていてくれればそれも叶ったのに。
きみがいま、幸せにいてくれたら。祝福してあげるよ。きみがもし降りてきてくれたら、こんどは喜んで迎えてあげる。
よけいな言葉なんていらない。ただきみが、僕の傍らで微笑んでいてくれたら。意地悪な、悪戯ないつものきみの笑みで。
でも思うんだ。きみが欲しかったのは、無限の大空なんかではなく。信じられる人の手、一つだったんじゃないかって。
でもいまは空にいて欲しい。無理しないで、翼をゆったりと広げて、風に乗るんだ。
世界は急いだってのんびりしたって、見て回るには広すぎるはずだよ。見下ろしても、見上げても。
きみは気付いていないのかな、きみは優しい純真な子なんだって。慈悲を憐れみを、虐げられていたものにそそいでいたって。きみは自分で自分を傷つけていたよ。
僕はきみみたいなこころも、翼も無いけれど。自分の理想のために生きていくよ、きみをもう哀しませたくないから。僕は泣いてばかりじゃいけない。
僕がしっかりしていなくては、きみは肩身狭いもんね。
ずっといっしょにいたかった、なんていわない。きみと過ごせたつかの間の日々を、宝物にするよ。
でも会いたいんだ、でも僕からは逢えないから。きみはときおりは、僕のことを思い出して。みんなのことを思い出して。
いまのきみにはすべてが見えるんでしょう?