前編  中編  の続き

日本に帰ってきた。
彼に返すためのお金の工面をするのに必死で
メールを送ったのは帰国数ヶ月後だった。

ただいま!お金ありがとうございました!
返したいので住所をお願いします!



















メールが
送れない...

まさかまさかの事態だった。
ついこの間まで彼とメールをしていたのに、
そのメルアドに送っても届かない。

どれだけ送ってもすべて送信不可で返ってきた。
帰国前にも帰ったら返します!と言っていたので
何も連絡なしにメルアドを変える。
そんなことは絶対にない。



"これは返さなくてもいいってことか?"

これで2度目である。
そんな理解を超えた事態に、
都合の良い解釈も思わずしたくなった。

こんなことが起こるとは思いもしないので、
住所や電話番号などもお互い聞いてなかった。
連絡の取りようが全くなくて
完全にお手上げだった。



数ヶ月経っては、
思い出したかのようにメールを送る。
もちろん届くわけもなかった。
だが
そんなことを毎回繰り返していたと思う。

どっかで送れたりしないかなぁ
そんな奇跡みたいなことを想像しながら













それから
3年が過ぎた。















塾で働くようになっていた。
生活はめっぽう夜型になっていて
朝も早く起きている日なんてほとんどなかった。

実家暮らしだったので
皆が起きる時間にたまに起きるくらいだった。



その日はなぜか朝から起きていて
めざましテレビを見ていた。
と言ってもテレビがついてる感覚で、
何か他ごとをしながらだったと思う。

めざましテレビでは
に関する特集が流れ始めた。
ぼぉーっとその特集を眺めていた。

犬のお世話をするお店が
色々と紹介されていた。
そして
その瞬間は突然やってきた。







そこには
彼が
写っていた。




目を見開くとはこういう瞬間のことである。
え、え、えっっ!!
とその店の場所と名前を暗記して、
すぐにパソコンへ向かい検索をした。

そこは千葉県にある犬の総合施設だった。
そういえば...
犬に関する仕事を日本に帰ったらすると
彼が言っていたことをその時に思い出した。

そしてその住所に手紙を送り、
千葉県の彼の住む場所にお金を返しに行った。
それはもう彼に借りてから
4年も経っていたころだった。



自宅兼お店のそこで
彼と数年ぶりの再会を果たした。
そしてその時借りた500ユーロを
当時のレートの75000円で返すことができた。

「まさかまさか何年か後にカトちゃんから返してもらえるなんて思わなかったよ、笑えるよ」

そういって彼は再会を喜んでくれた。



これが
嘘のような本当の顛末である。
もし彼と出会わなかったら、
僕の1人旅はインドスリランカの2ヶ月で終わり、
その様相は大きく変わっていただろう。

彼とはあれ以来会っていないが、
たまにホームページでその様子を覗き見ている。
自分の1人旅を支えてくれた恩人との出会い、
これが自分にとっての
嘘のような本当の話なのである。