町田市歌を高らかに | SPORTS PLANET スポーツプラネット

町田市歌を高らかに

龍星ひかるです。スポーツプラネット2年目へ突入ということで、まずは読者の皆様に多大な感謝をいたします。発足から執筆に携わらせていただき、私自身がスポーツプラネットへ寄稿することでひとつ目標を達成出来ました。今回はそのことについて触れようと思ったのですが、諸事情によりまだ触れられないのでまたの機会に。四季を1週した所で原点回帰。今回はJFLの話題です。

町田ゼルビアがMIOびわこ草津に大勝



7月4日、JFL後期第1節が各地で行われた。上位グループに所属しながら安定して勝利が重ねられずなかなか頂上まで順位を上げられない町田ゼルビア。この日は前期の対戦で6-1と大勝したMIOびわこ草津をホームスタジアムである町田市陸上競技場に迎えた。

試合は開始2分で町田ゼルビアが先制すると、10分で追加点を奪って試合の主導権を完全に握る。その後も町田ゼルビアはカウンターから得点を量産して6-0で大勝した。試合終了が告げられると同時に歓喜をあげる蒼色のスタンド。その光景を観たとき、とある光景が重なった。

ゼルビアサポーターが集う場所



試合前日のことである。東京都の中心地で仕事を終えた私は東京都町田市に向かった。町田市とは特殊な場所で、地図をご覧になるとその特殊さをご理解いただけよう。東西に長く棚引いている東京都の南で船の舵の如くバランスをとっているのが、あるいは楔のように神奈川県を掴んで放さないのが町田市となる。新宿からは小田急の急行で38分。都心からふらっと遊びに行くには少し勇気が必要だ。

その町田に平日から何をしに行ったかというと、今月末に行われるトークイベント『萌えろJFL党~町田場所~』の会場視察。この場で宣伝すると、こちらJFLの萌えるところを緩く熱く語り明かそうというイベントとなってます。私も演者として参加予定なのでご興味がある方はご一報頂きたく存じます。

「萌えろJFL党~町田場所~開催決定」総統訓辞 | ショッカー総統 革命日記

ライブハウスの視察に行ったつもりが、案内されたのがラーメンの暖簾がかかった居酒屋。どうやら町田ゼルビアのサポーターでもあるイベント会場のオーナーは、昼はラーメン屋、夜は居酒屋として機能しているその店のオーナーでもあるとのこと。店の名前は「二代目ラーメン酒場」。

暖簾をくぐると、いかにも飲み屋街の一件といった具合の雰囲気。カウンターから全体が見渡せるどころか会話すら成立する広さだ。普通の飲み屋と違うのは町田ゼルビアのポスターやサイン色紙に彩られた内装。ここは町田ゼルビアサポーターが居酒屋ともなっている。仕事帰りという町田ゼルビアのサポーターが盃を交わして話に華を咲かせていた。

肉食系ソウルフード 二代目ラーメン酒場

市政を動かしたサポーター



そこで丁寧に扱われた一通の封書が取り出された。封を開けるのに多大な勇気を必要としたというそれを恐れ多くも拝見させていただくことに。町田市役所から送られていたそれには「FC町田ゼルビアへのJリーグ加盟のための支援を求める請願」に対する裁決内容が記されていた。

Jリーグ加盟をひとつの目標としている町田ゼルビアは加盟へ向けて大きな課題を抱えている。代表的な課題にスタジアムがJリーグ基準を満たしていない点がある。そのスタジアムが「町田ゼルビア」の所有物なら話が変わってくるが、先述の通り、町田市陸上競技場は町田市のもの。Jリーグ加盟という目標を果たすには町田市陸上競技場の改修工事が必要であり、そのためには所有者である町田市にお願いしなければならない。その問題がネックとなって昨年3位でシーズンを終えた町田ゼルビアはJリーグ加盟を果たせなかった。

この問題に立ち向かったのはサポーター団体である「町田ゼルビアを支える会」。間もなくして始まった署名活動は5万人以上の人の心を動かした。詳細は「町田ゼルビアを支える会」のホームページで確認していただきたい。

町田ゼルビアを支える会

同請願は市議会で賛成多数を得て可決したと、文書にはその旨が記されていた。具体的な話としては、億単位での町田市の予算がゼルビアのホームスタジアムとなる町田市陸上競技場の改修工事に充てられるとのことらしい。

しかしながら、そのような具体的な内容は一切記されていない。実際に文書として書いてあることは非常に簡素だった。文字数にしてこの長々とした文字列のプロローグにも満たない量だ。たった一枚の文書を片手に会話が弾む。その内容たるや打ち上げでいかに飲み明かしたかということと、ついでに苦労話など。

楽しそうに話す彼らの顔の筋肉がこれ以上ないくらいに収縮する。支援することが決まったとそれだけの採決を得るのにどれだけの苦労があったことだろう。その達成感は相当なものだったと彼らの顔が語っていた。一つの市民団体が政治を動かしたのだから当然なのだが、当然などという簡素な二文字熟語で表現するのは非常におこがましいというものだ。

地域密着



Jリーグの理念に「地域密着」がある。意味としてはそのままなのだが、果たして地域密着とは具体的にどういう状況を指すのか。

こんなエピソードがある。それはかつて東京ヴェルディが消滅の危機に陥ったときのこと。「東京ヴェルディはJリーグで最も地域活動をしている」という情報が出てきた。それはJリーグが公式にまとめたものだというので疑う余地はない。しかし客観的に得られたその事実には「意外」という主観を表す熟語が立ちはだかった。

ゼルビアサポーターに気づかされた地域密着の真意



居酒屋での彼らの笑顔と町田市陸での歓喜が重なったことで「地域密着」の真意に近づいた。東京ヴェルディのエピソードについては根本的に間違っていたらしい。「地域密着」とはチームが本拠地で一方的に地域活動をすることではない。チームが地域の人間、限定した言葉を用いるが、サポーターを交えて問題と目標を共有し一体感が芽生えたところで初めて生まれるのだ。

チームのために行動を起こすことが「サポーター」の役割であって、チケットやグッズを購入してお金を落とし、ゴール裏で跳ねて応援すことだけがサポートではない。当然、消費活動も立派なサポートなのは否定しない。しかし全員がそれだけに固執していてはいつまで経ってもチームは地域に存在するいち企業として孤立したままとなる。例えばかつての東京ヴェルディ1969。ことかつての同チームに関してはクラブがサポーターの歩み寄りを拒否していた節があるため、サポーターに全ての非を認めさせるのは横着だと補足する。

東日本震災の復興事業で明確に表れたように、日本のサポーター文化は成熟しつつある。しかし更にそこでもう一つ踏み出してみないか。全国に数多くいるであろう自称サポーターが消費活動の繰り返しから脱したとき、本当の地域密着が芽生え、日本のサッカーはもう一皮むけると信じている。

町田市歌を高らかに



サッカーに限らずスポーツのいい所は戦績という透明で客観的な数値を目標として明示することが出来る点にある。それにより目標の共有を容易に可能としているのがスポーツがもつチカラのひとつ。そして共通のエンブレムの元で一体となれるのがサポーター文化の魅力。あらゆるサポート活動を経てチームが勝利したとき、腹の底から歓喜を共有することが出来るのかもしれない。

MIOびわこ草津との試合後、町田ゼルビアのサポーターは町田市歌を熱唱して試合を締めくくった。東京という一見して乾いたイメージがある土地でありながら、町田市の町田ゼルビアはスポーツを通じてとても密なコミュニティを作ろうとしている。