春を背負って/素晴らしい映像とチープな演出 | 調布シネマガジン

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春を背負って

「劔岳 点の記」が大ヒットした木村大作監督作品。今回は立山連峰を舞台にドラマが描かれていた。言わずと知れた日本映画界を代表する撮影監督が撮っただけあって、山々の大自然の映像は素晴らしいの一語に尽きる。このワンカットを撮るのにどれだけの時間、いや日数を使ったのかというようなシーンが目白押しなんだよね。ホント脱帽する。更に演じる役者もこれまた演技派揃い。主人公の長嶺亨に松山ケンイチ、ヒロイン髙澤愛に蒼井優、そして亨と愛のやる山小屋を助ける多田悟郎に豊川悦司…他にも檀ふみ、吉田栄作、新井浩文らが人間味溢れる芝居を見せてくれる。

ただ、残念ながらこと演出という部分に関しては、少なくとも今回の木村監督のそれに疑問を禁じ得なかった。物語はかなりオーソドックス…というか昭和の匂いがプンプン。厳しい父に逆らい都会で働く亨は、父が亡くなり帰郷して山小屋を継ぐが、そこで愛や悟郎とともに多くの人と触れ合いながら成長していく、簡単にいえばそれだけ。もちろん山の物語だから随所に遭難という事件は挟まってくる。監督のお年を考えたら物語が昭和であってもそれは仕方ないし、むしろ昭和生まれの俺としてはその手のベッタベタな話は好きな方だ。

でもね、何でこんな緊張感のない演出をするのか解らない。亨と悟郎が大自然を前に語り合う芝居では、余りに人の良さのみを前面に出しすぎで、まるで小学校の教科書でも読んでいるかのよう。遭難した登山客を助けに行くシーンは、その映像の激しさの割にはむしろ安心感さえ漂って来てしまう始末。そしてラストシーンに至っては岩棚の上で、亨と愛がお互いに手を取り「アハハハハ^^」とばかりにグルグル回るという…今時専門学校の生徒でもしないような演技つけてどうしようというのだろう。

小さな子供たちに勉強のために見せる教材としては良いかもしれないけれど「劔岳 点の記」にあったあの強烈なリアリティだけが持つ感動など微塵も感じられなかったのは残念でならない。繰り返しになるが絵は本当に素晴らしい。その絵に演出が負けていた。

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ストーリー:立山連峰で暮らしてきた長嶺亨(松山ケンイチ)は、山小屋を経営する厳しい父・勇夫(小林薫)に反発し都会で暮らしていたが、父が亡くなったため帰郷する。そこで気丈に振る舞う母やその姿を見つめる山の仲間、遭難寸前で父に救われ今は山小屋で働く高澤愛(蒼井優)らと接するうち、組織の歯車として働く今の生活を捨て山小屋を継ぐと決める。(シネマトゥデイ)