目の前で眠るお姫様に唇を重ね


指を絡めて目覚めるのを待つ


やがて微かに睫が動き
しだいに瞼が開かれていった


そして黒く澄んだ瞳に俺自身が映る頃


柔らかい唇から言葉が紡がれた


『あなたはだあれ?』


「俺は咲人」


『さきと…
初めまして、俺はー…』


続かない言葉
不安そうに歪む顔


大丈夫


「初めまして、柩」


俺がそう言うと
何事もなかったかのように
柩は笑った


毎朝毎朝同じことをする

俺にとっては何気ない日常

だけど柩にとっては全て初めてのこと


柩は
柩の頭は記憶を留めていられなくなった

見たこと聞いたことその瞬間はあっても続かない

水が溢れ出すようにポロポロポロポロ落ちてしまう


いつからか
柩は恋人の俺を忘れ
自分のことすら忘れ始めていた


最初は悲しくて寂しくて仕方なかった
だけど一番悲しんでるのは他の誰でもなく
柩自身のはずだから

だから
俺は繰り返す

たとえ柩が昨日の俺を覚えていなかったとしても
俺が昨日の柩を覚えているから


毎朝が初めましてで始まるけれど
毎日新しい恋を始めると思えば


柩の隣にいれるだけで
俺は幸せだから


俺は目の前にいる恋人を見る


きっと柩は俺を恋人だなんて思いもしないだろう


「柩、今日はどこに行こうか?」


近くにいるけど
遠い存在

せめてお願い
これ以上遠くへいってしまわないで…