おむすび先生のほっこりほんわかセラピー♪




「天使のアイ」
                             文・おむすび先生

 アイはもうすぐ女の子として生まれるのを、とても楽しみにしていました。
ママが大きなお腹を大切そうにかかえ、幸せいっぱいの笑顔で寝てるのを、
ワクワクウキウキしながら見守るのでした。
天国からやってきた天使のアイが、ママのお腹の赤ちゃんの中に入れば、
あとは無事に ママのお腹の中から出てくるだけです。
天使のアイはうれしくてうれしくて、ママがすやすや寝ている上を、
ミツバチのように飛びまわるのでした。
 アイはまだ ふつうの人間の目では 見えない 風のような子ですから
ママはなんにも気がつきません。
 アイは それがおもしろくて ときどき ママのほっぺに
チュッチュッとするのでした。
今夜はパパは お仕事で おうちに帰ってきません。
 パパとふたり暮らしのママは パパと もうすぐ生まれるアイとの3人で
大空を 鳥のように飛びまわる夢を見ながら 幸せいっぱいの笑顔で
ねむりつづけるのでした。

アイは昨夜のママとパパの会話を
思い出して
ニコニコしました。
「赤ちゃんの名前どうする?」
「みんなに愛される女の子に
なってほしいし
どんな時でも人を愛する女性に
なってほしいの。
愛という名前はどうかしら?
あなたはどう思う?」
「素晴らしい!
とてもいい名前だね。
愛ちゃん。
きっと君に似て
愛情いっぱいのステキな
女性になるね」
「もう、あなたったらあ」

その時でした。
あやしい人かげが 玄関に そっと あらわれたのでした。

 あやしい人かげは 男でした。やせた 暗い顔をしており こわく 冷たい目つき
でした。男は ものすごいスピードで でも 音ひとつ立てず 玄関のカギをあけて
しまいました。
二階のママの寝室から一階の玄関に ミツバチのように飛んできたアイは 男に
キックしたり かみついたりして いっしょうけんめい止めようとしましたが…ま
だ生まれていない天使のアイは にぶい人間にとっては 空気のようなものですか
ら…男はビクともしません。
アイは ひっしに二階のママの寝室にもどり ママのほっぺに何回もアタックしな
がら 大声でさけぶのでした。
「ママ、ドロボウよ! ママ、あぶない! 」
ざんねんながら ママも にぶい人間の 一人のようです。アイのさけびは まった
く聞こえず ママは夢の中で アイとパパと 大空を風のように 飛びつづけるので
した。
ふところからナイフをとり出し 男が 影そのもののように しずかに階段を上が
ってきます。
男はどうやら プロのドロボウみたいです。とてもクールで おちついていて ま
るで むずかしい手術をスマートにやりとげる できるお医者さんのようでした。
天使のアイが 天国にもどり ほかの天使たちにおうえんを おねがいする時間は
とてもなさそうでした。

ピロピロリ~ン
ピロピロリ~ン
ママの携帯電話が かわいい音をならしました。
パパからの 電話です。
とても夜おそくでしたがいたいくらいに 胸さわぎがおさまらないパパは ママの
無事を とつぜん かくにんしたくなったのでした。
アイがどれだけ さけんでも ぜったい 起きようとしなかったママですが…
大空を風のように 親子水いらずで飛んでいるところへ… とつぜん虹のようにカ
ラフルな極楽鳥があらわれ なにかをうったえるように… にぎやかに鳴くシーン
で… おもわず 目がさめてしまったのでした…
目がさめると 携帯電話がなっています。
ピロピロリ~ン
ピロピロリ~ン
「あら、パパだわ?」
ママは電話に出ました。
「ママ、ごめんね。寝てた?」
「ううん、どうしたの?」
「なんか、とつぜん、しんぱいになってね。君と、お
腹のアイのことがさ」
「ありがとう。だいじょうぶ。なにも、ないわ。お仕事、がんばって」
「ほんとに?だいじょうぶだね?」
「ほんとに、だいじょうぶよ」
「だいじょうぶじゃないわ! ママあぶない !ママきづいて! 」
アイはさけびました。
「ほんとに、だいじょうぶよ。アイも、元気よ。なんか、お腹で動きまわってる
わ。だから、しんぱいしないで。おやすみなさい」
「パパ、きづいてあげて !」
「わかった…おやすみなさい」
パパは 電話をきってしまいました。
「ママも パパも ばか 」
クールなドロボーは ドアのよこで 電話のおわるのを まっていたのでした。

「このままでは ママの命があぶない! 」
天使のアイは ものすごいスピードで 動きはじめました。
庭の犬小屋で ママみたいに すやすや ねむりほうけている ドーベルマンのドン
ベエのところに ピストルのたまのように 飛んでいきました。
「あんた なに やってんのよ ドロボーよ ママが あぶないのよ 」
ドンベエは ふしぎそうに 目をパチクリさせました。
「さあ あなたの出番よ! わたしに ついてきて 」 ドンベエは 立ち上がり
犬小屋から出て ウオォォーン と いさましく ほえました。…でも あたりを キ
ョロキョロ見まわしてから…プウゥプリリン とおならをして…またもや 犬小屋
に入り グウグウ ねむりはじめるのでした。
夜ごはんに ママからもらった ドンブリごはんを食べすぎ 頭に血が まわってい
ないのです。
アイは どんくさいドンベエに おこっているヒマなんて ありません。

「あんた、どういう、つもりよ !」
アイは ものすごい はくりょくで せまりました。 今にも ママに おそいかか
ろうとしているドロボウに…
もちろん アイも にぶいドロボウに まったく つたわっていないことは よく わ
かっています…
ママを守るための 最後のほうほうとして ドロボウについてるアクマに アイは
おもいきって ぶつかることにしたのでした。
「あんた、どういうつもりよ! ママをおそうのは あたしを やっつけてからにし
なさい !ぜったい あんた ゆるさないからね! 」
アイの前に ドロボウのアクマが すがたを あらわしました。

「なんだい、君、そうぞうしい」
ドロボウのアクマは 白いシルクハットをかぶり 真っ白のスーツの 背が高い ダ
ンディーなおじさまでした。
「そんなに、こうふんしちゃあ、こまるね、おじょうさん。まあ、ちょっと、お
ちついてさ。れいせいに、話をしようじゃないの」 「こんな時に どうして れい
せいで いられるのよ ほんと、あんた、しっかりしてよ あんたみたいな、ステ
キなおじさまがいながら、なんで、このまぬけなドロボウ男は、あたしのたいせ
つなママを、おそおうとしてるのよ 」
「ステキなおじさま?ぼくがかい?」
アクマはすこし ほっぺを赤らめました。アクマは
白いはだの ハンサムさんなので 赤がとても目立ち… ほっぺを赤らめると アク
マとは思えない チャーミングな感じでした。
「そうよ あなたみたいな ステキなアクマがいるわけないわ あなたは どう見
ても アクマというより 天使じゃないの 」
アイは ピストルのたまのような すごいスピードで アクマのほっぺに チュッ
としました。
「き、君、かりにもアクマのぼくに なんてことを 」
アクマは どぎまぎ うろたえ 真っ赤になりながら くちびるを プルプル ふるわ
せるのでした。
「へんなことして ごめんなさい…ほんとに ゆるしてね」
アイも 真っ赤になりながら くちびるを プルプルふるわせました。
「ただ あたし ママのことが しんぱいで…しんぱいで…」 アイは ポロポロ つ
ぶらなヒトミから きれいな涙を ながしました。「あたしは どうなってもいいの
あたしは生まれなくていいから ママをたすけてあげて 」
アクマは ため息をつきながら 言いました。
「わかったよ おじょうさん。冷たいアクマの心にも 今のは なにげにキュンとき
た。ふつうは こんなことしないんだが…。ちょっと まっててね」
DVDが 一時停止になったように かたくなって 動かなかった ドロボウが 再生ボ
タンを押されたかのように スピーディーに動きだしました。ナイフを手に ニッ
と笑って ドアをあけようとした その時…
階段から とつぜん 白いヘビがあらわれたのでした。

 白いヘビは 社交ダンスのジェントルマンのように しずしずと ドロボウに 近づ
きました。
「ステキなアクマさんだわ ありがとうございます 感しゃします 神様、アク
マさんも、ママも、たすけてあげてください 」
アイは ひっしに お祈りしました。
白いヘビは しずしずとドロボウに近づき…ドロボウは 舌なめずりしながら ま
ちかまえています。ドロボウは やはり クールでおちついており かなり てごわ
そうです。
「ドロボウさん…ごめんなさい…さっきは にくんだり きらったりして ほんとに
ごめんなさい…あなたは自分が天使であること・・あなたのママやパパやたくさんの人に愛されて生まれてきたことを忘れてただけなのよね・・
あなたに こんなことをさせてしまうのは あたしのなにかが
原因だと思います…ほんとに おゆるしください…でも こうして 出会っているのはなにかのご縁で…神様の おぼしめしだと思います…キセキの出会いに感しゃします…ありがとうございます…愛してます…感しゃします…」
アイは ひっしに 祈りつづけました。

 白いヘビは いきなり ジャンプし ドロボウの顔めがけて 飛びかかりました。ド
ロボウのナイフが あやしく きらめきました。 一しゅん はやかったのは…。
一しゅん はやかったのは…白いヘビのかみつき…ドロボウのナイフ…
どちらでも ありませんでした。
天使のアイのチュッ が エースのピッチャーの 火のたまストレートのように
ドロボウのほっぺを かすめたのでした。
にぶいドロボウに…なぜか これが ききました。
ますいの 注しゃをうたれたように 動きを とめました。ハラリと ナイフを お
としました。
そして なぜか サメザメと 泣きだしました。
「ごめんなさい ごめんなさい ぼくが悪いのです ごめんなさい …」
びっくりして出てきたママに 大泣きしながら あやまりつづけるのでした。


ドロボウの頭の上には 
大きなきれいな虹色のしゃぼん玉が
ふわふわ うかんでいました。
「あなたあ、赤ちゃんの名前どうします?」
「ともかく
命を大切にする男の子に
なってほしいんだ。
命のかぎり 命をかがやかせて
生きぬいてほしい。
自分の命も大切にし
人様の命も大切にしてね。
そういう想いをこめて・・
命(いのち)という名前は
どうかな?
名前としては
ちょっと重いかな?
へんかな?
君はどう思う?」
「ステキ!へんじゃないわ!
とてもいい名前!
イノチくん。命くん。
救命士がお仕事のあなたらしい
命名ね!
ほんと あなたみたいに
命を大切にする
ステキな男性になるわね」
「ふふふ 君にそう言ってもらえて
すごく安心したよ。
ありがとう」
ドロボウのパパとママが
ドロボウが生まれてくる前に
話し合っているシーンが
まるで映画みたいに
しゃぼん玉の中でくりひろげられているのを
アイは涙ぐみながら ながめました。
「ドロボウさん・・いいえ、命(いのち)さん・・
あなたのパパとママの 
あなたへの最初の願い 想いを
お願いだから 忘れないでね・・」
泣きながら あやまりつづける
アクマから天使にもどった
命(いのち)という名前のドロボウの
バラ色のほっぺに
アイは もう一度 
祈りをこめて チュッとしました。


それから20年後 アイは 心も 見た目も まさに天使のように 美しい娘に せい
ちょうしました。
ある夏の 夕方…。
ダンスのレッスンを終え おうちに帰る 道すがらでした…。
ある 血ばしった目をした 青年が 人どおりの多い 大通りで わけのわからない
ことを さけびながら ナイフをふりまわしているのを 見かけました。
とおりがかりの人びとは こわがり 逃げまわっていました。青年は よけい こう
ふんして 逃げる人びとを ナイフをふりかざし 追いかけようとしていました。
その時でした。
アイは ピストルのたまのような すばやさで 青年にかけより…
青年を だきしめたのでした…

アイと青年は はなやかなフィギュアスケーターの2人のように…だき合ったまま
くるくる まわりました…バラの花びらが 道路をあざやかに そめました…
「あなたは天使…神様からのプレゼント…ありがとうございます…愛してます…
感しゃします…あなたは天使…神様からのプレゼント…ありがとうございます…
愛してます…感しゃします…」
アイは 祈りをこめて 青年をだきしめつづけました…お腹からは バラの花が
とめどなく あふれ…みだれさいているのに…
青年は やがてナイフをはなし 道路の真ん中にしゃがんだまま 泣きはじめまし
た…
青年の頭の上には 虹色の大きなきれいなしゃぼん玉が
ふわふわ うかんでいました・・

多くの人びとの命と 見知らぬ 青年の こどくな心を救ったアイは…いしきを う
しない 病院に はこばれました。
メスをとり むずかしい手術にいどんだのは…白い服のりりしい 背が高く ハン
サムな お医者さんでした。
お医者さんは いつにもまし かくごを決めた 顔つきでした。
お医者さんは 心の中でこう 祈りながら 手術をつづけるのでした…
「ごめんなさい…おゆるしください…ありがとうございます…愛してます…
感しゃします…アイスブルー…ごめんなさい…おゆるしください…
ありがとうございます…愛してます…感しゃします…アイスブルー…」
およそ10時間におよぶ 手術は おわりました。
ぶじ 成功でした。
つぎの日 目がさめたアイと お医者さんは 2人で お話しました。
アイは にっこり笑って いいました。
「ステキな天使さん…命(いのち)さん。
わたしの命を救ってくださって、本当にありがとうございます…」
お医者さん・・・命(いのち)さんは とても白い顔を
バラ色にそめながら いいました。
「こうして 人様の命を 救う
ステキなお仕事をさせていただいているのは
おじょうさんの おかげですよ…
こちらこそ 感しゃしか ありません…
あなたに出会って ぼくは
アクマから 天使に 生まれかわったのです…
今は 命をかけて
このお仕事にとりくもうと
心に決めています・・・
命のかぎり
罪ほろぼしをしたいなあ、と・・・
親からつけてもらった
素晴らしい名前にふさわしい
真人間(まにんげん)に
おかげさまで なんとかもどれました・・・
ほんとに ありがとうございます…
今回 すこしだけ ご恩がえしができ
ちょっとばかり ほっとしてます…」


話し終えた命さんは 寝起きのドンベエみたいに ふしぎそうに 目をパチクリさせました。

アイがチュッチュッとするようなにこやかな顔で 

命さんの頭の上を見てたからでした。

命さんの頭の上には虹色の大きなきれいなしゃぼん玉が

しゃぼん玉の中では 白いシルクハットをかぶり 真っ白のスーツの 背が高い ダンディーなおじさまが とても白い顔を バラ色にそめ てれくさそうにしていました。


(完)


ふわふわ うかんでいました・・