Merry Xmasまで、あと1週間。

 気づけば、1月1日から始まった2019年の日々の積み木は、もうこんなにも高く積み上がっていた。大晦日の鐘の音とともに、ガシャンッ!! と崩されてしまう、かわいそうな365個の積み木たち。

 一年あっという間だったねー。と、よく聞くけど、そんなこと思ったことない。「三國志」が今年だったなんて信じられないし、夏の「spin」シリーズだって、もっと昔のように思える。ほかにも、嬉しいこともいろいろあったし、そうじゃないことも突き刺さったりした。好きなひととの時間もあったし、ひとりだ!! ってハッとする瞬間もあったし、開けたくない扉のドアノブを握ってうごうごしてるときだってあった。

 要は、決して短くなんてなかったってこと。だから当然総括なんてできるはずもないんだけど、いまぽろっと振り返ってみて、一番しっくりくる表現は

 今年も乗り切ったな

 って感じ。波に飲まれないように、溺れないように、なんとか逃れて泳ぎ続けられたな、と思う。まあ、現実的にはぼくはたぶん泳げないので、海に投げ出されたらすぐにぶくぶく沈んでいくだろうけど。

 まあ、まだ終わってないんですけどね、2019年(笑) まだまだ、なにかが起こるかもしれない。


 
 秋からリハーサルがはじまった「創業X」シリーズ第2弾ー株式会社ホットスタッフ編ー。
 派遣会社大手のホットスタッフを創業した現会長・松岡聡道さん。彼のこれまでの波乱万丈な人生の物語をスピニン色で舞台化。

 一度限りのスペシャルステージは、創業20周年という記念日を迎えた松岡会長へのサプライズ・プレゼントとして役員さんたちから提案された企画でした。ゲストにはあの“竹内力“さんも❗️ 画面を通して見たことのあるあのコワモテは健在でしたが、僕らに対してとても心配りをしてくださったり、場を盛り上げてくださったりと、カッコよくてチャーミングなステキな方でした。

 先日、無事に名古屋で幕を閉じました。 二ヶ月以上に及ぶリハーサルの積み重ねでしたが、たった一回のお披露目で解体となってしまいました。あーーー、非常にもったいない(笑) 


 名古屋駅前はきらきらと輝くクリスマスのイルミネーションで彩られていました。ひと足早くにクリスマス気分を味わったり......は特にできませんでした。基本的に劇場の中に缶詰だったし、夜は疲れきってさっさと眠ってしまったし。名古屋的グルメもほとんど食べられなかった。まあ、ぼくはグルメではないので、そこはいいんですけど。



 DAY1

 朝早くの東京発新幹線に乗り、劇場入りした日。その昼休憩。
 ぼくが劇場内をぶらぶらして男子楽屋に帰ってくると、中はしんと静まりかえっていた。みなそれぞれに椅子に座り、休んでいる。ただそれだけの、ごく自然な光景だ。”普通のひとからみれば”。
 だがぼくは瞬時に、その中に影を潜める異変に気づいた。確証などなにもなかった。しかしぼくは、確信を持っておかしいと判断した。なにかが間違っている、と。人間というのは思っている以上に正直なもので、あえて自然であろうとすればするほど、そこに歪みが生じ、不自然になるものだ。目線、仕草、呼吸、それら仔細な箇所に滲み出てくる、異変の主張。彼らの身体は、彼らの意思とは無関係にぼくにそれを告げていた。

「なにかありますよね?」

 口を開こうとしない御一行。

「いや、ふつうじゃないですよね? なにかありますよね、なんですか?」

 ぼくの揺るぎない問いかけに、隣に座っていたS田が、ゆっくりとヒモの結び目をほどいていくように、口を開き始めた。

「いや......ごめんな」

 ぼくは黙ってS田を見つめる。

「いや、おれも見るつもりはなかったんやけど、隣やから、つい、たまたま目に入ってきたから」

 彼はそう言いながら、イスの横に置かれたぼくのadidasの大きいかばんに手を入れ、あるものを取り出し、机に置いた。

「これ......なに?」

そこに置かれたのは、猫の置物であった。


 それと同時に、みなが呪縛から解放されたかのように口々に声を発し始めた。

「なにこれ?」
「こわっ!!」
「呪いの道具かよ??」
「これ必要?」
「なんなの?」
(主にO西のセリフである)

ぼくは猫を見つめたまま、少しの間なにも言わなかった。それは、見られてはいけないものを見られてしまったことに対する焦りや動揺や恥ずかしさによるもの、ではなく、あーーー、もっとヤバいものが紛れ込んでたのかと思ったーー!!! という安堵からくる沈黙であった。

「ああ、これですか。ぜんぜん問題ないですよ」と僕は言った。

「いやいや、問題ありまくりだろ!!」とO西。

ぼくは事情を懇切丁寧に伝えた。

 今回の名古屋出張は2泊に及ぶものである。ぼくはこれまで出張しての舞台経験がない。いつも家に帰って、家で集中して、本番に臨んできた。だから家に帰れずホテルから本番に向かうことになる今回のケース、可能性として、いつものリズムが狂ってしまうかもしれないと危惧した。極力不安は回避したい。しかし、家に帰ることは不可能である。ならば、ホテルの部屋を家に近づければ良いではないか!! と思い至った。そのために、家にある見慣れたチーム・松尾のなにかを持っていけばいいじゃないか、と。ぐるりと見回して、うーん、カバンに入る大きさで、あんまり邪魔にならず、壊れたりしないもの......ということで、この、猫の、バリ風の、お香立て? の置物が抜擢され、僕とともにここ名古屋までやってきた。

 ぼくは一点の曇りなく、堂々と、胸を張って応えた。だって、そうなんだもん。

 みなは理解できないといった風情でぼくを怪しんでいた。

 でも、そうなんだもん(笑)


 どうやらぼくがいないときに見つけて、ひと通りこれをネタに盛り上がってくれたらしい。その歓声は、離れた女子楽屋にも届いていたとあとで聞いた。

 思いがけない役に立ったようで、ぼくは少し嬉しく思った。連れてって良かった。



DAY2

 0時を少し過ぎたあたり、だからほとんどDAY1の深夜ってことになるけど、ホテルのロビーで鉄平さんにラーメン食いに行こうぜ、と誘われた。あまり夕食を食べれていなかったので快諾した。それに鉄平さんと二人きりだと心が落ち着くという作用もあるので、このせわしい名古屋タイムにおいては貴重な時間になると判断したからだ。
 寒空の中、ダウンを着込んで夜道を二人で歩いた。特に道に名古屋を感じることはなかったけれど、体の奥の方に、知らない土地に来ているという妙な高揚感の予感を感じることができた。
 歩いて10分もしないところにお目当てのラーメン屋があった。入った途端に香る匂いで、これは間違いないぞと二人で顔を見合わせた。でもぼくは夜にラーメン食べると次の日微妙にお腹の調子が悪くなる性質を持っていたのでチャーハンを頼み、鉄平さんは深夜だというのにラーメンに半チャーハンと餃子と唐揚げがついているセットを頼んだ。
 いくつかの話題で話をした。とっても愉快、という類のバカ話ではなかったけれど、真摯に二人で話をした。お互い疲れていたのもあって、落ち着いた時間が流れた。鉄平さんはやはりこんなに食べきれないと、餃子をテーブルの真ん中に置き、ぼくに勧めてくれた。ぼくもなかなか満たされていたので、箸をつけず、そのまま話し込んでいた。
 
 視界を遮るものがあった。小さな影のようなものが、上から下へ垂直に落ちていった。瞬間的に、ホコリだと思った。天井から落ちてきたのだから、そんなものだろうと。それは一直線に落ち、餃子の上に着地した。うん。それはホコリではなかった。うごめいていた。あんまりぼくはこの分野について見識があるわけではないのだが、まあおそらく、これはゴ***というやつだろうと判断した。ベーシックなスタイルではなかったが、こんな仲間もいるのだろう、と。

 ぼくも鉄平さんも、しばらく黙ったままそれに視線を投げていた。餃子の油に足を取られているようだった。それから何事もなかったように、話の続きを鉄平さんが始めた。ぼくも続いた。
 ぼくらが席を立ったときもまだ、やつは餃子をこねくり回していた。

 翌朝、劇場に向かう道すがら、

「あれ、ゴキブリだったな」

「そうですね」

 と、ぼくらは短い確認をしあっただけで終わった。


DAY3

 帰りの新幹線。途中からひとりきりになって、窓際の席が空いたので移動した。窓ガラスに映る自分の顔をぼんやり眺めていたら、この2ヶ月くらいの時間が大小さまざまな形で次々と浮かんできた。さっきまで一緒にいたはずなのに、もうひどく時間が流れてしまったような気がして、じんわりと寂しさが降りてきた。いつものことなのに、いつまで経ってもうまく馴染めない。遠ざかっていく楽しかった記憶をもう少しだけでもたぐりよせたくて、手を伸ばそうとしたけど、そうするにはぼくはあまりに疲れ過ぎていた。東京に向かう列車は小気味良く、ぼくの重たい身体を揺らしていく。その揺らぎに身をゆだね、ぼくはそっと目を閉じた。